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まるで映画『セッション』の世界!? アメリカの超名門・バークリー音大の実態を聞いてみた

集英社オンライン / 2022年9月9日 11時1分

2015年公開の映画『セッション』。名門音大でジャズドラムを学ぶ若者が、完璧さを求める教師の狂気的な指導により、精神的に追い込まれながらも成長していく様を描いた映画である。思うにトップレベルの音大は、あれほど厳しいものなのだろうか? 米国の名門音大であるバークリー音楽大学への留学経験を持ち、現在はバンドRyu Matsuyamaのドラマーとして活躍するJACKSONさんに、その実状を語ってもらった。(トップ画像 映画『セッション』 写真:Everett Collection/アフロ)

――バークリー音楽大学を簡単に説明してもらえますか?


(JACKSON、以下同)アメリカには沢山の音楽大学がありますが、その中でもバークリー音楽大学はポピュラー音楽を学ぶ大学として有名です。


プレイヤーや作曲家として学ぶコースはもちろん、映画音楽やCMのジングルの作り方、レコーディングエンジニアなど、そういった“プロダクション面”も学べる所ですね。

音楽業界のいわゆるレジェンド的な先生が沢山集まっていて、彼らから直接学ぶことができる、というのは魅力の一つだと思います。

――どのようなきっかけでバークリー音楽大学に留学しようと思ったのですか?

幼い頃からずっと独学でドラムを演奏していたんですが、音楽理論に関してはノータッチでした。
実は大学に通っていた頃、一度は就職しようとして、銀行への入社が決まっていたんです。でも「何かやり残したことはないか」と考えた結果、「前から気になっていたジャズのセミナーを受けてみよう」と思い立ちました。

バークリー音楽大学の教授であるタイガー大越さんというトランペット奏者の方が、北海道で何度も開催しているジャズのセミナーがあって。そこには、バークリー音楽大学の他の先生も講師として来るんですね。
それに参加してみたら、タイガー大越さんが「君はもうちょっと音楽を勉強したら、更にもっと面白いプレイヤーになれるよ」と言って下さり、「音楽を本格的に勉強しよう」と思うようになったんです。

当時は1年に1回、ボストンからバークリー音楽大学の先生達が日本の提携している音楽学校に来て、奨学金のオーディションをやっていたので受けてみたところ、そこで運良く奨学金を貰えることになりました。

学ぶ内容は自分で決めていく

――入学後、どういう内容を学ぶことができるのですか?

自分が専攻するコースを中心に学んでいきますが、その中でより詳しく何を学んでいくか、というのは自分次第でもあります。

例えば「アンサンブルクラス」という、全ての学科の生徒が集まる合奏のクラスがあります。
「ジェームスブラウン・アンサンブル」というクラスでは、ギターはギター学科の生徒、歌はボーカル学科の生徒、というふうに各パートが集まって、みんなでジェームス・ブラウンの楽曲・パフォーマンスの再現を目指します。
その他にも多様なジャンルのクラスがあり、インド音楽の「インディアンミュージックアンサンブル」なんてものや、実際に有名なミュージシャンがクラスの発表会に参加してくれることもあります。

あとは自分の楽器以外の先生のプライベートレッスンを受けることもできます。ドラムパフォーマンス科の生徒がベースの先生のプライベートレッスンを受けることも、その先生とセッションすることもOK。
「マイルス・デイビスと演奏したあの伝説のピアニストとセッション!」みたいなことが、実際に可能なんですね。

セッションだけでなく、その先生の貴重な実体験を聞くこともできます。
「マイルスと演奏した当時はどうだった?」みたいなプライベートな話を独り占めすることができるので、そういう観点で先生のレッスンを選ぶ人もいますね。

――JACKSONさんはどういうレッスンを受けていたのですか?

僕は興味を持った色々な先生のレッスンを、一通り受けてみました。

ある意味、先生達の技術が凄過ぎて、参考にならない部分もあるというか、真似しようとしても簡単には真似できないんです。ドラムの先生のレッスンを受けても、体格が良すぎて、先生みたいに軽く叩いても同じような音は出ません。

また、演奏が上手いレジェンド的な先生と、教えるのが上手い先生は、必ずしもイコールではありません。「レッスンを受けたい先生が、自分のスタイルに通じるか?」ということでも違ったりする。

だからこそ僕の場合は「自分のスタイルはこうだな」というのを見つけていくために、様々なレッスンに挑戦してみました。
でも、同じ先生のレッスンをずっと受ける人ももちろんいますよ。

自宅のドラムセットを叩きながら、授業のニュアンスを伝えてくれるJACKSONさん

――生徒同士の雰囲気はどうですか? 映画『セッション』のような「他人を蹴落としてでものし上がる」という風潮はありますか?

『セッション』は、バークリー音楽大学よりも更に少数精鋭で、エリートを多く輩出するジュリアード音楽院の方がイメージに近いかもしれないですね。
もちろん、バークリー音楽大学にもそういう“バチバチ”な雰囲気のクラスもあると思います。数名しか入れないエリートクラスは、そこに入れるかどうかで次の奨学金の内容も変わったりするので、多少の競争はあるかもしれません。

僕はどちらかというと、“仲良しグループ的”なクラスが多かったです。どんなジャンルもラテン風に弾きこなすピアニストがいたり、先生に引き抜かれてツアーに出てしまうほど上手な生徒もいたり(その間の授業は休講)、色々なレベルのプレイヤーがいた感じですね。

24時間音楽漬けの日々

――生徒同士でバンドを組んだりするのですか?

イベントのためのパーティバンドやジャズのギグなどでは、一回限りのメンバーで演奏しますが、バンドを組む生徒もいます。
僕は同級生とではなくて、卒業した先輩たちのヒップホップバンドに、オーディションを勝ち抜いて加入しました。

バンドでの活動は学業とは全くの別物ですが、色々な経験を積めて面白かったです。毎週末ツアーに出て、ライブハウスやカジノ、バー、スキー場など、ありとあらゆる場所で演奏しました。
Slum VillageやPharcyde、Bernie Worrell(Pファンク主要メンバーの一人)とかのオープニングアクトも経験しました。
(注:OPTビザやアーティストビザを取得後、ギャラをもらう仕事をしていた)

基本的にアメリカでは、ミュージシャンは会場側からその日の食事をタダで貰えます。
なおかつ「会場を盛り上げて、お客さんがドリンクを沢山飲んだら、その売り上げがギャラに反映される」っていうシステムなんですね。
だからお客さんを盛り上げるためにバンドも演奏を頑張るし、日本よりも良いシステムだと感じます。
(日本の場合、基本的にアマチュアのバンドは、売り捌いたチケットの枚数に応じてギャラが決まる。自分のバンド目当ての客が一人もいなければ、ギャラが0円、むしろ機材使用料で収支がマイナス、ということも有り得る)

――JACKSONさん自身が、バークリー音楽大学に入って良かったと感じる部分はどんなところですか?

やっぱり、24時間音楽のことに集中できるということ。
バークリー音楽大学では、このカード(画像参照)を受付に提出すると鍵が貰えて、個人練習をする部屋を最大8時間まで借りられます。
8時間ほぼぶっ通しでドラムを叩いて、隣のブースの上手い生徒の練習を覗き見して、その後授業に出て、腹が減ったらカフェテリアでカピカピの不味いハンバーガーを食べて(笑)、また練習して。

アンサンブルルームという合奏用の部屋に行けば、色々な学生が集まっているので、気軽にセッションもできます。そこで友達から自分が知らない技術を教えてもらったり、好きな音楽の話をしたり。

これほど整った環境を自分だけで用意するのは、きっとかなり難しいですよね。そういう音楽漬けの生活が出来るのが、一番の魅力だと思います。

バークリー音楽大学の学生証。このカードを提示すれば1日8時間個人練習のスタジオを借りられる

入ったからこそ学べたこと

――バークリー音楽大学で実際に何を学べたと感じていますか?

僕は受けたい先生の授業だけ受けて、それ以外はほとんどバンドのツアーに出ていたので、おそらく学校側からすれば“ダメなタイプの生徒”でした(笑)。
ただ「自分がどういうミュージシャンになれるのか」という可能性を引き出してくれる所、ということは確かだと思います。

例えば僕はドラムの他に、インドの打楽器であるタブラも学びました。友人からタブラを譲り受けて「学びたいな」と思っていたところ、インド人の先生のプレイをたまたま見かけて、それに感動したんです。
その先生は普段プライベートレッスンの募集はしていなかったんですが、電車を乗り継いで片道3時間かかるご自宅まで行き、「ここまで通うので教えてください」と頼み込んだらOKしてくれて。

タブラには10種類以上の音色や演奏方法があるんですが、楽譜や教科書が無いので、先生が演奏したフレーズを耳でコピーしなければいけません。最初の基本的な音色が出せるまでに2週間かかりました。

すると、ちょうどそのタイミングでインド音楽のアンサンブルクラスが始まって、1ヶ月後にライブが決まりました。そこから猛練習して、なんとかライブに出たんです。
その結果、ライブに参加していた人達との仲が深まり、校内で話しかけられたり、別のセッションにも誘われるようになったりと、色々な縁が不思議と繋がっていきました。

たとえ触り始めて1ヶ月しか経っていなかったとしても、タブラのプレイヤーとして自分が選ばれたのは紛れもない事実です。それは、他の誰でも良いわけではないということ。現場を任されている時点でその人は唯一無二で、「その人のかけがえの無さ」がある、ということを知りました。

世界一演奏が難しい打楽器と云われているインドのタブラ。後ろに飾ってあるのはJacksonさんが描いた絵と、趣味が高じて販売もしているという観葉植物たち。多彩なライフスタイルが垣間見える

――挑戦したことで新しい扉が開いたんですね。

在学中、自分が経験していないような大きな会場でクラスメイトが演奏したり、真似できない物凄い演奏テクニックを見せつけられたりと、悔しい経験も沢山あったのは事実です。

でもだからこそ「じゃあ俺は人にできないことを考えよう。あ、タブラやってみよう!」というように、自分の道を考えて、切り拓いていくきっかけを掴めました。

向こうで学んだこの姿勢や、新しいことに挑戦する好奇心は、「コロナ禍で時間があるから、ベースを学び始めよう。ハンドパンも始めてみよう」と、今も変わらず持ち続けています。
そうやって実際に行動を起こすことで、結果的にベーシストとしてもライブに呼んでもらったり、ハンドパンのイベントにも誘ってもらったりと、ドラマー以外の仕事にも繋がっていきました。

自分を他の人と比較する必要はなくて、自分が演奏するライブに対して、今まで学んできたことを全力でぶつけて、そこにいる人たちを喜ばせることが一番大事なんだと、身をもって学べたと感じています。

――今後はどういうミュージシャン人生を歩みたいと考えていますか?

今までは人が作る音楽に自分の情熱をぶつけて来たんですが、100%自分だけで音楽を作ったことも、考えたことすらもなかったんですね。
でも最近「自分の心の底から出る音楽って何だろう?」って感じ始めてきたので、それを頑張って形にしたいです。それが何歳になろうと、心の底から湧き出る自分の音楽を作りたいなと思っています。
その時にはきっと今までとは違う景色が見えるはずなので、楽しみです。

左:美しい音色を奏でるハンドパン / 右:ドラマーだけではなくハンドパン奏者やベーシストとしても、様々なライブに参加している。

撮影/浅井 裕也 取材・文/佐藤麻水

Ryu Matsuyama
NEW ALBUM「from here to there」
2022.9.28 Release
11 Tracks / VPCP-86422 / ¥3,000(tax in)
https://VAP.lnk.to/fromheretothere_cd

Ryu Matsuyama NEW ALBUM「from here to there」

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