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“売れてない”芸人の自伝本「金の卵シリーズ」はなぜ、売れるのか?

集英社オンライン / 2022年9月7日 13時1分

東京ダイナマイト・ハチミツ二郎氏の自伝『マイ・ウェイ』(双葉社)や、チャンス大城氏の『僕の心臓は右にある』(朝日新聞出版)など、今年に入って芸人の自伝本がプチブーム。そんな中“売れてない芸人”だけにスポットを当て、ひときわ異彩を放つ自伝本が「金の卵シリーズ」(電子書籍)だ。仕掛人・廣田喜昭氏に、なぜ売れてない芸人だけにスポットを当てるのか、詳しく話を聞いた!

「読者として読みたいものを電子書籍で作る」一人出版社、代官山ブックス

2021年より代官山ブックスが発行している電子書籍「金の卵シリーズ」。著者は“売れてない芸人”限定。現在32冊が刊行されているが、シリーズの仕掛人である廣田喜昭氏とは何者なのか。まずは発行元である代官山ブックス立ち上げの経緯を聞いた。


廣田喜昭/代官山ブックス代表取締役。神奈川県横浜市生まれ、上智大学卒業。書籍の企画・編集のほか、個人ではフリーのライターとしても活動

「金の卵シリーズを手がける代官山ブックスは、“僕が読者として読みたいものを電子書籍で作る”ことを目的に、2013年に立ち上げた一人出版社です。

元々僕は、出版業界で働く作家の椎名誠さんや高橋歩さんに憧れていて、前職では教科書出版を行う小さな出版社に就職していました。そこは5名ほどの会社だったので、編集者と言えど、書店営業や倉庫整理なども行い、土日出勤も当たり前という状況。紙の本を作るためにはやるべきことが多すぎてお金もかかると痛感しました」(廣田氏、以下同)

そんな矢先、電子書籍に出会い、書籍出版の概念が変わったという。

「当時流行していた『もしドラ』(もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら)をiPhoneで読んでみたところ、あまりにスラスラと読めてその便利さに感動したんです。そしてこれだったら今やっている倉庫整理などの仕事を省いて、本づくりだけに集中して作りたい本が作れる! と確信し、独立して電子書籍をメインとした出版社を立ち上げたんです」

誰しも「売れてない」時期があるからこそ、売れてない芸人の生き様が共感を生む

そして、売れない芸人にスポットを当てたきっかけは、友人の大学時代の後輩である高校ズ・秋月氏の生き様に感動したことだと振り返る。

「秋月君には、シリーズ1冊目の『売れてない芸人が書いた17の話』を書いてもらいました。彼は大学を中退してNSCに入学しているのですが、そのNSCでの卒業公演がめちゃくちゃ面白くてカッコ良かったんです。

それでも売れるのは簡単ではない世界。思うようにいかない中でも多くの経験を積んだことで秋月君の生き様が醸成され、かつての華やかさ以上の魅力が生まれたと僕は思います。その生き様の魅力を世の中に広めたいと、執筆のオファーをしたのが、金の卵シリーズの始まりです」

1冊目が完成した後、廣田氏は様々な芸人の中に存在する一人ひとりの生き様もクローズアップしたいと感じ、事務所横断型の売れない芸人の自伝本「金の卵シリーズ」が誕生した。

「正直なところ、売れてない芸人さんの本1冊だけで注目を集めるのは難しいところがあります。でも、皆で集まれば、それぞれの個性が輝く大きな一つの形になり、そうなれば売れている芸人さんの本にも勝てるかもしれないと思い、シリーズ化に至りました」

どんな仕事をしていても「売れてない」時期が必ずあるからこそ、売れてない芸人の生き様を世の中に届けることに意味があると続ける。

「僕はいまだに“売れてない”出版社の社長ですが、これまでの人生もずっと売れてなかったなと思います。新卒で入社した会社を10ヵ月で辞めたり、転職先の広告会社では営業成績が一番悪かったり。テレアポやバーテンダーのバイトで食いつなぐ日々もありました。迷走しながら“本を作りたい”という夢に向かってもがいているんです。

だからこそ、芸人さんが“売れてない”等身大の姿をさらけだしてくれることで、“こんなにも魅力的で幸せなのだ”と勇気をもらえているんです。まだ夢に向かっている途中をリアルタイムで世の中に伝えることで、“売れてない”“まだ夢の途中”の人たちが前向きに頑張れるようになるのではないかと思います」

書籍もひとつの「芸」として、生き様をエンタメに昇華して届けたい

では、書籍化する「売れてない芸人」はどのように発掘するのだろうか。自身を「お笑いは普通にテレビで見るレベル」と語る廣田氏は、地道に金の卵シリーズを繋いでいる。

「プロジェクト立上げ当初は、Twitterやnoteを見て、文章が面白いと感じた方に直接DMなどからお声がけしていました。その後だんだんと芸人さんの中でも認知が広まり、マネージャーの方から売り込みをいただいたくことも。ちなみにウエストランドの河本さんは、ご本人から執筆したいと言っていただき、『朽木糞牆(キュウボクフンショウ)』の書籍化が実現しました」

持ち込みで企画が進む場合、芸人として「売れてない」か判断が難しい場合もありそうだ。代官山ブックスが考える「売れてない」とは何を指すのかも聞いた。

「正直、明確な基準は定めていません。ご自身が“売れてない”と思っているならば“売れてない芸人”ということにしています。例えば、よく地上波でお見掛けする芸人さんでも、ダウンタウンさんを目指す上でまだ、発展途上だと感じているのであれば、まだ“売れてない”=金の卵ということになりますよね」

金の卵シリーズでは、文体なども含め原稿のルールは存在しない。基本的に本人に任せて自由に執筆してもらっているという。

「芸人さんには、書籍での表現も一つの“芸”と捉え、自身の生き様をしっかりとエンタメとして昇華してほしいと思っています。例えば、ドキュメンタリー番組のように辛かったことや大変だったことを第三者が淡々とまとめてしまうと、受け手側としては重く感じてしまうこともあります。だからこそ、金の卵シリーズでは、文章が上手い・下手よりも、しっかりと読者の心を震わせてくれる、本人にしか出せない言葉を大切にしています」

売れてない芸人と一緒に上がっていきたい

これまで出版した「売れてない」芸人自伝本32冊の中で、「売れている」書籍についても紹介してもらった。

「浜村凡平さんの『37年来~敗残の記~』と、ネコニニズ・ヤマゲンさんの『吸って大阪、吐いて東京』です。こちらに関しては、古坂大魔王さんや三四郎さん、見取り図さんが“面白い”と拡散してくださって、人気に火が付きました。そういった芸人同士のつながりは、浜村さんやヤマゲンさんが積み上げてきた財産ですので、ここにも芸人としての生き様が現れているなと感じましたね」

また、金の卵シリーズに登場してくれた芸人には、このようなかたちで恩を返したいという。

「こんなに面白い芸人がいるんだ! と、世の中に広まるきっかけになれたらと思います。例えば、『書店員芸人~僕と本屋と本とのホントの話~』を書いたカモシダせぶんさんは、書籍を読んだ編集者から声がかかり、『小説すばる』にエッセイが掲載されました。『介護芸人のコントな世界』を書いたマッハスピード豪速球・さかまき。さんは、漫画家・エッセイストの倉田真由美さんと、webメディアで介護に関する対談をしています。舞台やテレビとは違った電子書籍というエンタメとして見せることで、芸人さんの新たな一面、魅力を発見するお手伝いができているとうれしいです」

最後に、金の卵シリーズの今後の展望についても聞いた。

「電子書籍は実体がないですが、動画や漫画というコンテンツのタネになる存在だと思っています。電子書籍出版という軸は今後もブレずに、いずれ金の卵シリーズを原作に映像化したいとも考えています」

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