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坂元裕二×水田伸生×次屋尚タッグ作品にみる“人間愛”〜『Mother』『Woman』『anone』『初恋の悪魔』

集英社オンライン / 2022年9月9日 16時1分

ドラマ『Mother』『Woman』『anone』といったヒット作を世に送り出してきた脚本・坂元裕二、演出・水田伸生、プロデューサー・次屋尚の布陣。現在放送中のドラマ『初恋の悪魔』を含め、一貫して表現しようとしている人間愛について考察する。

脚本・坂元裕二、演出・水田伸生、プロデューサー・次屋尚。

彼らがタッグを組んだ作品といえば、松雪泰子×芦田愛菜の『Mother』、満島ひかり演じる小春を中心に“母と子の関係”に焦点を当てた『Woman』、「真実の人間愛」に迫った広瀬すず主演の『anone』がある。そのどれもが一貫して“人間”や“愛”を浮き彫りにしようとしている印象だ。

そんな3人による最新作は「小洒落てこじれたミステリアスコメディ」と銘打たれた『初恋の悪魔』(日本テレビ系、現在放送中)。今回も人間愛”が軸になっているように思える。本稿では先述した4作品から、彼らが提示しようとしている人間愛の形を読み解きたい。


『Mother』で描く“母性”

松雪泰子主演、子役として芦田愛菜が出演した『Mother』は、「母性とは何か」をテーマに描かれた社会派ドラマ。芦田愛菜演じる道木怜南(偽名・鈴原継美)が虐待・ネグレクトに遭っているのを発見した奈緒(松雪泰子)が、怜南を誘拐し“母”になろうとする物語である。

世の中で“母性”と言われているものは、何なのか。一人の女性が妊娠・出産を経れば、自動的に母性が生まれ、母となるのだろうか。半ば“母性”を神格的に奉ろうとする世間に対し、あらためて目を開こうと投げかけている作品にも感じる。

1話の終盤にて、奈緒が怜南に対し「あなたは捨てられたんじゃない。あなたが捨てるの」と告げるシーンがある。実母を捨てる覚悟を決めさせるとともに、奈緒自身も母親になる決意をした象徴的なシーンだ。

奈緒と怜南に血の繋がりはないが、時間をともにするにつれ、本物の親子と近い関係性になっていく。丁寧に積み重ねた時間は血縁よりも濃くなったように見えるが、怜南の実母である道木仁美(尾野真千子)が再び姿を現したことをきっかけに、「母になるための条件」を顧みざるを得なくなる。

『Woman』で描く“母と子”

母が母であるために必要なこととは、何なのか? 簡単に答えが見つからないであろう問いに、また違った角度で光を当てたのが、2013年に放送された『Woman』だ。

この作品が民放連続ドラマ初主演となった満島ひかり。彼女が『Woman』で演じたのは、2人の子どもを育てるシングルマザー・小春。夫・信(小栗旬)は、とある事故で亡くなってしまい、後には望海(鈴木梨央)と陸(髙橋來)が残された。

『Mother』では“母性”に焦点が当てられたのと比較すると、このドラマは母と子”の関係を中心に描かれている。

シングルマザーとして、なんとか自分1人の手で生活を守ろうとする小春。しかし、小さな子どもを抱えながら仕事を掛け持つのは簡単なことではない。長年、関係を絶っていた実母・植杉紗千(田中裕子)の元を訪れ、心を引き絞る思いで援助を申し入れる時点から、物語は大きく動き出す。

小春と紗千は、とある誤解から生まれた確執により長らく会うことさえ避けていた。紗千は再婚し、新しい家族とともに幸せな暮らしを築いている。実子ではない栞(二階堂ふみ)に愛情を注ぎ、実子である小春に冷たくする様は、『Mother』で田中裕子が演じた望月葉菜の行動とは対照的である。

『Mother』を始め、『Woman』『anone』『初恋の悪魔』にも出演する田中裕子の存在感にも注目したい。彼女がそれぞれの作品で演じている役柄を比較すれば、自ずと坂元裕二脚本における“人間愛”とは何たるかが、浮き彫りになりそうな気さえする。

また、『Woman』の小春と『Mother』の仁美は、似たような境遇であるにも関わらず真逆の母親だ。夫に先立たれ、自身が病気になっても“強い母”で在ろうとした小春とは違い、仁美は貧困に耐えきれなかった。

落とし穴に落ちた者と、落ちなかった者。たとえ同じような環境であっても、行く道が似通うとは限らない。坂元裕二脚本に宿る“現実的な冷たさ”を感じる一端である。

『anone』で描く“人間愛”

『Woman』から5年、広瀬すずを主人公に迎えた『anone』が放送されたのは2018年。“母性”や“母と子”の関係にレンズを向けてきた彼らが、この作品で捉えようとした輪郭は“人間愛”である。

ひょんなことから出会い、ともに暮らすようになる人物たちが擬似家族を形成していく様は、是枝裕和監督の映画『万引き家族』(2018)や『ベイビー・ブローカー』(2022)にもみられるテーマ性を帯びている。

過去のトラウマや事件をきっかけに、法律事務所で事務員として働く亜乃音(田中裕子)と出会うハリカ(広瀬すず)。その後、青羽るい子(小林聡美)や持本舵(阿部サダヲ)も加わり、まるで家族のような生活を送ることに。

実際、亜乃音はハリカに対し「ここはもう、ハリカちゃんが帰るところだからね」と伝えている。だが、実の親に見放され、違法とも思える更生施設で生活していた過去があるハリカにとって「愛されたことがない」事実は焼き痕のように消えない。

そんな彼女に対して亜乃音は「愛された記憶がなくても、愛することはできると思いますよ」と声をかける。

血が繋がっていない、なんの縁もない人間同士でも、愛し愛されることはできる。亜乃音の淡々とした愛情は、押し付けがましくない温度をともなってひたひたと沁みる。

生きる意味がわからなくなってしまった者たちに対し「生きなくったっていいじゃない、暮らせば。暮らしましょうよ」――そう促す亜乃音の存在は、このドラマにおいてもシンボルのようにそびえている。

『初恋の悪魔』で描く“恋愛”

これまで紹介した3作品とは、少々毛色が違う『初恋の悪魔』。林遣都と仲野太賀をW主演に迎えた本作は、“小洒落てこじれたミステリアスコメディ”を謳っている。

このドラマでフィーチャーされるのは“初恋(恋愛)”だ。これまでの“母性”や“母と子”といったテーマとは分類が違うように感じられる。しかし、坂元裕二脚本における“愛”を考えるとき、むしろ恋愛のほうが本拠地のように思えるのも確かだろう。

刑事である鹿浜(林遣都)は、とある一件から謹慎処分を受け、自宅に籠っている。兄を殉職(?)で亡くしている悠日(仲野太賀)は、署長からの命を受け鹿浜を監視することに。生活安全課の星砂(松岡茉優)、会計課の小鳥(柄本佑)も加わり、捜査権を持たない不可思議な4人がこぞって事件推理に励む展開だ。

星砂に一目惚れしたと思われる鹿浜だが、当の星砂は悠日と仲を深めていくことに。自分は“変人”であり普通とは違うと自覚している鹿浜は、これまでの人生で何度も初恋のチャンスを逃してきた、と吐露する。普通じゃない自分はやはり、恋愛には縁遠い存在なのだと自虐的に述懐するシーンには、切なさが漂う。

ドラマタイトルにもなっている『初恋の悪魔』とは、鹿浜が抱える闇やトラウマのことを指しているのだろうか。悠日の兄を殺した真犯人は誰なのか、 解離性同一性障害を持つ星砂はどうなるのか、他にも気になる点は多い。

これまでのドラマとは一線を画す『初恋の悪魔』。ただの恋愛ドラマでは終わらない予感も含めて、やはり一筋縄ではいかなさそうである。坂元裕二×水田伸生×次屋尚が繰り出す、次の一手を受け止めたい。

文/北村有

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