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賢い若者だけが気づいている「衰退途上国」日本だからできる“ハイリターン”な選択

集英社オンライン / 2022年9月7日 14時1分

韓国の1人あたりGDPが日本と肩を並べたと言われるが、日本はいまだにGDPで世界3位の経済大国だ。「超高齢社会」「衰退途上国」の日本で働くからこそできる若者たちの合理的な選択について考える。

本当に日本の若者は内向きになったのか!?

「日本の若者は内向きになった」といわれる。海外の大学への留学生数も、いまでは中国や韓国に大きく水を開けられているという。しかし私は、この手の「若者批判」をあまり信用していない。

ひとつは、「最近の若者はリスクをとらない」と上から目線で語る人自身が、大きなリスクをとっているようには見えないことだ。右肩上がりの高度成長の時代にたいしたリスクもとらずに成功した人物(その多くが元大学教授や大企業の元経営者で、いまは悠々自適の年金生活を送っていたりする)が、パイが縮小する困難な時代のなかで、上の世代が残したツケを払いながら生き方を模索する若者たちに説教するというのは、控えめにいってもあまり見栄えのいいものではない。



もうひとつは、かつての「若者」が海外の一流大学に行けたのは、企業や行政がその費用を出してくれたからだ。私にはハーバード大学やMIT(マサチューセッツ工科大学)、コロンビア大学などの大学院を出た知人が何人かいるが、彼らのなかで自費で留学した者は一人もいない。

だとすれば、日本の若者が内向きになった責任は、業績が悪化した企業や予算を削られた行政が、留学の費用を出さなくなったことにあるのではないか。バブル期のように大盤振る舞いすれば、いまの「内向き」の若者たちも喜んで海外の難関大学を目指すようになるだろう。

しかし、私が「内向き」論を疑う理由は別にある。

国内市場規模だけでは頭打ちの「Jリーグ」と「K-POP」

中田英寿が1998年に単身イタリアに渡った頃と比べると、いまでは60人近くの日本人のサッカー選手がドイツ、イギリス、スペイン、フランスなどヨーロッパのリーグでプレイしており、日本代表が海外組で編成されるのが当たり前になった。だとしたら、内向きの日本社会でサッカー選手だけが突然変異のように「外向き」になったのだろうか。

しかし、こんなヘンな理屈を唱えなくても、この現象はもっとシンプルに理解可能だ。

欧州のクラブから声がかかるほどの選手なら、Jリーグでプレーすれば安定した出場機会と収入が得られることは間違いない(ローリスク・ローリターン)。それに対して文化も習慣も異なる海外では言葉も通じず、出場機会すら与えられないかもしれない(実際、これまで多くの優れた日本人選手が挫折を味わってきた)。

それでも多くの若いサッカー選手が海外を目指すのは、成功したときに得られる報酬(金銭だけでなく名誉や評価)が桁外れに大きいからだ(ハイリスク・ハイリターン)。彼らはこのリスクとリターンを冷静に秤にかけて、勝算があると確信できたからこそ海を渡ったのだろう。

K-POPのアイドルが世界を目指すのもこれと同じだ。韓国の1人あたりGDPはいまでは日本と肩を並べたが、それでも人口が少ないために市場規模は半分以下しかない。若いアイドルが海外に目を向けるのは、韓国人が生来外向きだからではなく、彼ら/彼女たちの才能に国内市場の規模が見合わないからだ。

超高齢社会で若者の価値は上がり…

このことから、日本の若者が内向きに見える理由はものすごく簡単に説明できる。

長い不況に苦しんでいるとはいえ、日本はいまだにGDPで世界3位の経済大国だ。そんな国に生まれた若者たちが、海外で大きなリスクを取るよりも、ぜいたくをいわなければそこそこ暮らしていける日本にとどまった方がいいと考えるのはきわめて合理的だ。

日本は人類史上、未曾有の超高齢社会に突入し、若者(現役世代)の両肩には膨張する一方の社会保障費が重くのしかかっている。このような社会で“夢”をもてなくなるのは当たり前だが、しかしこのことは、視点を変えれば若者に有利にはたらく。経済学の基本である需要と供給の法則をもちだすまでもなく、希少なものは価値が高く、たくさんあるものは価値が低い。日本社会において希少なのは若者であり、たくさんあるものは高齢者だ。

一般的には平均年齢の低いピラミッド型の人口構成が理想とされるが、こうした国はどこも若者の失業率が高く、学生を除けば、イタリアでは20代の3人に1人、フランスでは4人に1人が失業している。それに対して日本の若年失業率は一貫してOECDで最も低く、大学を卒業すれば、ほぼ全員がそれなりの会社に就職できる。だとしたらなぜ、この大きなアドバンテージを捨てて、より競争のきびしい海外に行かなければならないのか。

それに加えて、たまたま新卒で入った会社に定年まで滅私奉公するという働き方が機能不全を起こしたことで、いまでは大手企業も積極的に即戦力を中途採用するようになった。だとしたら、とりあえずどこかに入って仕事を覚え、転職によってステップアップしていくことが「キャリアというRPG(ロールプレイングゲーム)」を攻略する最適戦略になるだろう。

「衰退途上国」日本の衰退が進めば状況は変わる

興味深いのは、海外から日本の大学に留学する外国の若者たちも、この戦略を使っていることだ。日本社会にはまだまだ外国人差別があるものの、新卒については、多くの企業が日本人か外国人かは区別せずに正社員として採用している。これは欧米と比べても有利な条件なので、賢い外国人留学生は、とりあえず日本の会社に入ってキャリアをスタートさせ、仕事を覚えたら、語学力を活かしてより条件のいい外資系に転職していくのだという。

ここからわかるのは、「最近の日本人は劣化した」というようなオヤジの繰り言には根拠がなく、若者たちは与えられた条件のなかで、リスクに対して最もリターンの大きな選択をしようと合理的に行動していることだ。

明治・大正や終戦直後には、多くの日本人が決死の覚悟でアメリカやブラジルに渡った。これは日本が貧しく、農家の次男や三男には生きていく術がなかったからだ。高度成長期にアメリカの大学に留学する日本人が増えたのは、欧米と日本の差がまだ大きく、海外の知識を日本に持ち込むだけで大きな利益や名声を手にすることができたからだろう。

外的な環境が変われば、それに応じて選択や行動も変わっていく。いまや「衰退途上国」と呼ばれる日本が今後もっと貧乏になって、国内にとどまっていては生きていけないと思うようになれば、グローバルスタンダードの教育を受けた若者たちは積極的にリスクをとって海外を目指すようになるにちがいない。

文/橘玲

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