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部下に命じて夫・頼朝の愛人宅をぶっ壊した北条政子は悪妻なのか?

集英社オンライン / 2022年9月11日 17時1分

大河ドラマ『鎌倉殿の13人』も佳境に。がぜん注目を浴びている鎌倉時代だが、鎌倉幕府の祖・源頼朝の妻にして、三代将軍・実朝の代まで見届けた北条政子とはどんな女性だったのか。日本史をわかりやすくおもしろく解説するのには定評のある東大教授・本郷和人氏の著書『東大教授も惚れる! 日本史 アッパレな女たち』(イラスト/まんきつ 集英社刊)から一部抜粋・再構成してお届けする。

婚礼当日、愛しい頼朝のもとへひた走る

北条政子(ほうじょう・まさこ)は、源頼朝(みなもとの・よりとも)を支えた奥さんとして有名ですね。頼朝がこっそり愛人を囲ったときに、部下に命じて愛人の家をぶっ壊した猛烈な女性としても知られています。
彼女は伊豆の豪族・北条氏の娘。豪族といっても、当時の北条の家はそれほど大きくなく、彼女自身も農作業をやっていたかもしれないくらい、土の匂いのする人だったはずです。生年もはっきりしていないのですが、頼朝と結ばれたころすでに、年齢高めであったことは確からしい。


本当のところ頼朝は、適齢期の妹のほうに告ろうとしていたのに、伝令役となった安達藤九郎盛長(あだち・とうくろうもりなが)が勝手に「姉殿のほうがふさわしいで候」と気をきかせて、政子にラブレターを届けてしまった話は有名です。

頼朝にしてみれば、伊豆の豪族と縁を結ぶことで後ろ盾がほしい、という計算はあったでしょう。しかし当時の情勢は「平家にあらずんば人にあらず」。流人・頼朝との交際を、お父さんの北条時政(ほうじょう・ときまさ)は大反対。政子は、山木判官兼隆(やまき・はんがんかねたか)という、平家一門の男に嫁入りさせられることになるのですが、婚礼当日、嵐の中を走って頼朝のもとに逃げてしまう。ちなみにこの山木判官は、後に頼朝が挙兵したとき、真っ先に血祭りにあげられてしまいます。頼朝も腹の底に思うところがあったんでしょうか……しかし山木にしてみれば逃げられるわ殺されるわ、踏んだり蹴ったりとはまさにこのこと。


糟糠の妻を尊重し続けた賢い頼朝

やがて頼朝は鎌倉に政権を確立して、政子は彼の創業をしっかりと支えます。頼朝も、愛人の家をぶっ壊されたりはしますが、政子のことを尊重する姿勢は一貫して変わらなかった。ただ、そこにも頼朝の打算はあったと思います。

平清盛は権力を得て、あまりにも朝廷と深い関係を持ってしまい、武士のリーダーとしてのレゾンデートルを失ってしまった。頼朝は、その姿を見て「自分は京の魔力に囚われてはいけない」と感じたことでしょう。だから頼朝は、糟糠の妻を決して捨てず大事にした。そうすることで鎌倉に集う武士たちに対して「自分は政子と家庭を築き、関東に根づいて生きていく」とアピールしたわけです。
もし逆に頼朝が政子を捨て、京都のお姫さまを迎えたり、京都の文物にあまりにも深くかぶれてしまったら、どうなるか。それを実際にやってしまったのが彼の息子、三代将軍・実朝(さねとも)で、その結果として「こんな人はもう要らない」と殺されてしまった。その事実を考えると、頼朝は非常に先の見える人だったといえます。

ただ打算だけではなく、やはり感謝の気持ちだってあったことでしょう。頼朝は流人でした。婚活対象としては、魅力ゼロ。収入のないニートも同然です。そんな自分を選んでくれた政子に対して感謝の気持ちを、終生忘れなかったんだと思います。
政子も、彼との関係を公私ともに大事に大事に生きた。しかし悲しいことになんとも微妙なのが、頼朝亡き後、政争の中で息子の頼家(よりいえ)と実朝を相次いで暗殺され、二人とも失ってしまった彼女の人生への評価です。

愚かな女か、聡明な賢婦か

「私」を捨てて、夫とともにつくった鎌倉幕府を守り抜いた立派な女性だと評価する人もいる。その一方で実父の北条時政、弟の義時(よしとき)の陰謀に翻弄されてしまった愚かな女と言う人もいる。
だけど僕は、彼女が非常に聡明な人間だったことは間違いないと思う。実際問題として頼朝の没後、彼女が御家人たちの尊敬を集め、そして次男の三代将軍実朝が亡くなった後、事実上の将軍として機能していたことは、今では定説になっています。

©まんきつ/集英社

夫とともにつくったものを守るための政権争いで息子を失ってしまった。しかし、その悲劇に負けず、自分の役割を全うした。そんなすごい人だったと思います。

東大教授も惚れる!日本史 アッパレな女たち

監修/本郷和人 画/まんきつ

2019年7月26日発売

1,320円(税込)

四六判/192ページ

ISBN:

978-4-08-788017-5

女性の活躍なしの日本史なんてありえない!
歴史を騒がせた女たちの華麗なるガチンコ対決!

「歴史は人間が紡ぐもの。男性と女性が織りなすもの。ですから、学校で教える女性なしの歴史なんて、本来はあり得ないんです」(あとがきより)
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