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AIでハマチが育つ!「くら寿司」が回転寿司業界にもたらしたテクノロジー革命

集英社オンライン / 2022年9月8日 13時1分

いつでも手軽に美味しい寿司がリーズナブルに食べられる「回転寿司」にも、最新のAI(人工知能)技術やIoTが導入されつつあるのをご存知だろうか。その背景には、コロナ禍以降の外食産業を巡る環境の変化が大きく関係している。回転寿司チェーン大手の「くら寿司」に、ハイテク導入の目的と未来像を聞いた。

テクノロジーで変わる回転寿司

2022年現在、回転寿司業界は大手チェーン3社(スシロー、くら寿司、かっぱ寿司)が約7割以上のシェアを占め、熾烈な競争が繰り広げられている。しかも、メインの食材となる魚介類のコストは原価率が高く、外食産業の平均である30%を超える40〜50%に達し、旬のネタでは採算度外視ともいえる80%になることもあるという。



新規出店や持ち帰り需要の増加などで、コロナ禍のダメージから脱しつつある回転寿司業界。だが、その一方で世界的な気候変動による漁獲量の減少、ウクライナ情勢を背景とした燃料費や原材料費の高騰、さらに国内でも漁業関係者の高齢化といった数多くの課題にも直面している。

このような厳しい情勢の中でいち早くAIやIoTなどの最新技術に投資を進めてきたのが、回転寿司チェーン「くら寿司」を国内外に600店舗以上を展開する、くら寿司株式会社だ。

「回転寿司は外食産業の中でもICT(情報通信技術:Information and Communication Technology)によるシステム化が進んでいます。くら寿司では、厨房に寿司ロボットやオートフライヤーを導入するなど、他社に先駆けて業務の効率化に取り組んできました。AI導入はその流れにあります」と語るのは、同社広報・マーケティング本部の黒見繭さん。

例えば、入店してから退店まで非接触で過ごせる新しい店舗システムの導入も、実はコロナ禍以前から省力化のために進めていた取り組みだった。そして、早急に安全・安心な店舗を整えたいという想いから、当初2025年の予定を4年前倒して2021年12月に全店舗に導入を完了したという。

「現在、くら寿司の全店舗で常時皿が巡回するレーンと、スマホやタッチパネルで注文を受けたら出来立ての寿司をスピーディに提供するオーダーレーンが設置されています。これまでに蓄積された店舗ごとの客層や滞在時間、時間帯別などの注文状況はビッグデータ化されていて、最適なネタの種類や量をAIが判断してレーンに提供しています」(黒見さん)

回転寿司チェーン「くら寿司」を展開するくら寿司株式会社(大阪府堺市)は、コロナ禍からの回復基調を受け、2022年10月第2四半期の連結売上が893億円と2年連続で過去最高を更新している

さらに、皿が巡回するレーン上にもAIが搭載された画像解析用のカメラが設置され、寿司を保護する抗菌カバー上面にあるQRコードを読み取り、商品の売れ行きなどをリアルタイムに解析している。このAIを用いた画像解析と需要予測によって、厨房内の在庫ロスが減るだけでなく、作業の効率化によって入店間もないアルバイトやシニア人材でもすぐにベテランスタッフと同レベルの働きが可能になるという。

また、厨房と客席を分離することで衛生面での向上が図られ、皿の回収も専用のポケットに入れることで厨房内の洗い場まで自動的に送られていく。このようなアフターコロナにおける新しい飲食店のモデルを提示したくら寿司だが、この取り組みは店舗システムの改善のみにとどまらず、寿司の命とも言える魚の仕入れにも及んでいる。

くら寿司では自社開発した非接触の新店舗システムを全店舗に導入した。予約から席案内、寿司の注文から会計に至るまで自動化が進められ、食品管理の安全性を高めると同時に従業員の働く環境の向上を目指している。この効率化の鍵となるのがAIやIoTといったテクノロジーの存在だ

「漁業創成」のためのAI活用

回転寿司の人気のネタと言えば、サーモンやまぐろ、ハマチ、ブリなどが思い浮かぶだろう。特に日本近海に生息するハマチは養殖が盛んで、90年以上の歴史を持ち、全国各地で1000億円以上の生産額を誇っている。

だが、近年は漁業における労働環境の厳しさや高齢化に伴う人手不足の問題が顕在化し、養殖ハマチにおいても安定供給が脅かされる状況が生まれていた。

そのような状況の中、くら寿司では2010年に産地直送の新鮮な魚を寿司ネタにする「天然魚プロジェクト」を始動。定置網漁で獲れた魚をまるごと買い取ることで、貴重な海の資源を無駄なく活用するとともに、漁業者への収入安定化にもつなげる「一船買い」や、寿司ネタにならない部分もすべて無駄なく活用する「さかな100%プロジェクト」など、多方面から漁業創生の取り組みを実施してきた。その一環として子会社のKURAおさかなファーム株式会社を2021年11月に設立。ウミトロン株式会社が開発したスマート給餌機を導入するなどの新しい試みが進められている。

「漁師さんの生活と日本の漁業の活性化、海洋資源の持続的な保護を目指す『漁業創生』の取り組みの一つとしてKURAおさかなファームが設立されました。事業の柱は自社養殖、委託養殖、卸売の3つ。AIを用いたスマート養殖は委託養殖事業の一部で、『AIはまち』に関しては現在愛媛県宇和島市内の生産者様2社と契約を結んでおり、その全量を買い取って、くら寿司で販売する取り組みもしています」(黒見さん)

従来の養殖方法では、港から少し離れた沖合の生簀まで1日に2、3度漁船で往復し、ハマチや成長段階であるブリなどに給餌する必要があった。たとえ天候が悪くてもこの作業を止めることはできず、魚の健康状態の監視や餌やりのタイミングを適切に行わなければ、生簀(いけす)の魚ごと全滅してしまう危険性すらある。さらに、そこまでに投じた費用の回収も補償も得られない不安定な労働環境も、若い後継者の参入を阻んでいた。

従来のハマチ養殖は大量の餌を一度に投入し、その食欲を確認するのが一般的であった。そのため、無駄エサによるコストアップの問題もあった

KURAおさかなファームで導入したスマート給餌機「UMITRON CELL」は、スマートフォンとクラウドを連携し、遠隔で生簀に餌を投入できるシステム。その量やタイミングは生簀を監視するカメラからの映像をAIが解析し、自動的に量やタイミングを判断してくれるというものだ。

「自宅や事務所にいながらいつでもスマホで生簀の様子が見られますし、餌を補充する頻度も減るので船の燃料費や危険な洋上作業のリスクも減らせます。さらに、餌の量の最適化によって費用が削減できるだけでなく餌の食べ残しによる海洋への負荷も軽減できます」(黒見さん)

ウミトロン開発のスマート給餌機の導入で、生簀の魚の動きなどから食欲の状態をAIが解析し、適切なタイミングと量での給餌がリモートから可能になった

養殖に掛かる全費用の約7割は餌代が占めると言われているが、スマート給餌機の導入によって餌の量を約1割程度削減する効果が得られたという。

日本初となるスマート養殖で生育されたハマチは約20トンが水揚げされ、くら寿司の全店舗で「特大切り AIはまち」として2022年6月に限定販売された。並行して、スマート給餌機を使用したマダイの委託養殖事業も行っており、2024年にはくら寿司で扱うマダイとハマチの1/3をスマート養殖で供給することを計画しているとのことだ。

日本初のスマート養殖で育ったハマチは全量をくら寿司が買取り、期間限定で「特大切り AIはまち」として提供された

まぐろ職人の目利きをAIで再現

くら寿司では、養殖以外の魚についてもAIを用いたスマート仕入れを進めてきた。コロナ禍で海外渡航や国内での移動制限が行われていた時期には、ベテラン仲買人の目利きを学習したAIを搭載した「TUNA SCOPE」アプリを、回転寿司チェーンとして初めて導入。仕入れの品質維持に努めたという。

TUNA SCOPEは株式会社電通・株式会社電通国際情報サービスが開発したアプリで、まぐろの尾の断面をスマホのカメラで撮影し、その画像から機械学習によって品質をABMの3段階のランクで判定するというもの。認識精度は35年の経験を持つまぐろ仲買人の判断と約90%が一致したという。

「仕入れ担当者が自由に移動できなかった2020年に導入し、期間限定で『極み熟成AIまぐろ』として販売しました。こちらは継続的な取り組みではありませんが、水産業界自体に新規参入が少ないという状況を踏まえると、将来的に不可欠な技術であることは確認できました」(黒見さん)

ベテラン仲買人のまぐろの目利きのノウハウを機械学習した 「TUNA SCOPE」アプリ

寿司のネタとなる魚の育成から、仕入れ、店舗での販売に至るまで、すべてのプロセスで積極的にDX化を進めるくら寿司だが、そこには経営者の理念が大きく影響しているという。

「回転寿司としては後発の参入のため、独自性や存在価値の追求に熱心に取り組む社風が浸透しています。社長自身もアイデアや特許保護を大事にしていて、新しい技術も可能な限り社内で研究開発し、理論だけでなく現場に落とし込んだ際に通用するものであるかどうかを常に追求しています」(黒見さん)

くら寿司本社にはITリテラシーの高い20代から50代まで幅広い世代が在籍するテクノロジー開発部が設置され、常時20〜30人程度が生産性や利便性の向上、店舗システムの効率化に取り組んでいるという。

美味しい寿司をリーズナブルかつ安全に提供する。このシンプルな目的を実現するためには、AIやIoTといった先進的な技術導入が欠かせないというのがくら寿司における共通認識となっている。


文/栗原亮(Arkhē)
写真提供/くら寿司株式会社

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