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「性行為のことしか考えられなくなる」低年齢化が進む薬物依存症の本当の怖さとは…

集英社オンライン / 2022年9月15日 13時1分

近年、薬物乱用者の低年齢化が進んでいる。2021年に大麻関連の事件で検挙された未成年者の数は1000人近くにのぼり、過去最多となった。ノンフィクション作家の石井光太氏が少年院で出会った15歳の少女から聞いた信じられない話。薬物の怖さと関わらないための最善策とは…。

覚醒剤使用目的の大半は「性行為」

芸能人が覚醒剤で逮捕される時、同時に背後にいる異性の存在が報じられることが少なくない。最近も元ジャニーズ事務所所属のタレントが覚醒剤で逮捕された際、週刊誌はこぞって彼の女性関係や性に関する情報を報じていた。

なぜなのか。それは覚醒剤使用の目的の多くが、性行為にあるからだ。

男性は覚醒剤を性行為の道具、あるいは女性を支配下に置いて弄ぶための道具として利用することがある。「シャブ漬けにする」「キメセク(覚醒剤をしようしながらの性行為)」という言葉があるように、それは性行為と密接なかかわりを持っているのだ。



これまで多くの少年犯罪とかかわってきた経験から言えば、男性1人(特に暴力団関係者)が覚醒剤で逮捕されれば、その裏には何人、時には何十人もの女性が巻き込まれていると考えていい。

そしてその男も、女も、たどり着くのは破滅だ。

日本の薬物犯罪の6割超を占める覚醒剤の実態をレポートしたい。

家出の噂が広まると悪い大人が覚醒剤を持って来て…

少年院は主に中学~高校くらいの年齢の子供たちが、様々な非行によって収容される施設だ。令和2年度「警察白書」(少年院入院者の非行時の薬物等使用者人員等の推移)に掲載された統計をご覧いただきたい。

注1 法務省大臣官房司法法制部の資料による

注2「非行時の使用薬物等の種類」は少年院人院者の非行名(薬物非行に限らない)に掲げる非行が行われた時に使用していた薬物等の種類であり、使用していた薬物等が複数の種類に該当する場合は、主要なもの一つに計上している

注3「男子(女子)の比率」は、男子(女子)の少年院人院者総数のうち、非行時に各薬物等を使用していた男子(女子)少年院人院者の占める比率をいう

注4 非行時の薬物等使用の有無が不詳の者を除く
注5
「その他」は麻薬及びあへんを含み、平成27年以降は,指定薬物及びいわゆる危険ドラッグも含む

大麻の使用は男性が目立つが、覚醒剤の使用に関しては女性が圧倒的に多いことがわかるだろう。これは使用目的による違いが大きい。大麻はダウナー系といって、酒に酔ったように脱力感の中で幻覚作用を感じるものだ。横になって夢見心地でいるようなものと言える。

他方、覚醒剤はアッパー系といって神経が研ぎ澄まされて興奮状態になる作用がある。たとえば目をギラギラさせ、何日も睡眠も食事もとらずに一心不乱に石を磨き続けるなんてことができてしまう。

常用者の多くは、覚醒剤の効用を性行為に利用する。覚醒剤を使って性行為をした場合、通常の何倍もの快楽を得られるどころか、何時間も、使い方によっては何日間も行為をし続けることが可能になる。まるで壊れたロボットのようにひたすら性行為にふけるのだ。

少年院で出会った15歳の少女は次のように語っていた。

「家が親ガチャな感じで、家出をするじゃないですか。その噂が広がった途端、地元の悪い大人たちが何人もクスリを持ってやってくるんですよ。誰が先に打つかで勝ち負けが決まる。打たれて(性行為を)やられれば、女の子はその快楽から抜け出せなくなって、もうサルみたいにやりまくるだけ。海で溺れている人が息を吸うことしか考えられなくなるみたいに、もうそれ(性行為)しか考えられなくなっちゃうんです。自分がおかしくなっていることもわからないんです」

男性が覚醒剤をやれば、同時に性行為をしたいと考える。それには、家出少女など頼る先のない少女を巻き込むのが手っ取り早い。それで少女に「ビタミン剤」などと嘘をついて使用させ、地獄へと引きずり込むのだ。

地獄のような後遺症の苦しみ

覚醒剤の依存性は高く、数回の使用で抜け出せなくなることもしばしばだ。だが、覚醒剤はタダではない。ゆえに、少女は売春をして金を稼ぎ、それをすべて覚醒剤に投入する。

人は覚醒剤をやるとすぐに副作用に襲われることになる。それによって身も心もボロボロになり、幻覚の中で異常な言動に及んだところを、警察に逮捕されることが大半だ。少年院における女子の覚醒剤使用率が高いのは、こうしたことが原因だ。悪い大人たちにだまされ、性の玩具にされる中で廃人となり、少年院へと送られてくるのである。

その先には、後遺症との戦いという地獄のような苦しみが待ち受けている……。

覚醒剤を使用した男性が払う代償も大きい。人が覚醒剤による性行為の快楽を知ってしまうと、脳内にそれがインプットされて、頻繁にフラッシュバックを起こす。こうなると、四六時中、覚醒剤をやることしか考えられなくなる。

家族や友人たちは離れていき、生活は荒み、仕事はなくなる。覚醒剤ほしさに犯罪に走る者も少なくない。そして必死に相手をしてくれる女性を探し、無理やり薬漬けにして性行為に及ぶ。だが、覚醒剤は快楽を与えるだけでなく、死へと導く毒薬だ。

覚醒剤は、人から興奮を促すドーパミンを強制的に放出させる。使用した人が夢中になってあることに没頭するのはそのためだ。しかし、薬物によって無理やりドーパミンを引き出しているので、薬が切れると同時にドーパミンが空っぽの状態になる。

こうなると、その人は興奮とは正反対の状態、つまり極端に無気力なうつ状態に陥る。彼らの目の前にあるのは、覚醒剤によって何もかも失ったという現実だけだ。そんな者たちの頭に浮かぶのが、「死」だ。これ以上ないほど沈んだ精神状態の中で希死念慮(死にたいという気持ち)に捕らわれる。

「クスリを辞めて何十年も経つけど、未だにやりたい」

元暴力団組員で、現在は薬物の回復施設「茨城ダルク」を運営する岩井喜代仁という人物がいる。彼は、拙著『虐待された少年はなぜ、事件を起こしたのか』の取材の中で、次のように語っていた。

「経験から言えば、14、5歳でクスリをはじめたヤツは、20代半ばで精神病院行きだ。20代ではじめたヤツならギリギリ30代半ばまで生きられるけど、40代に人生が終わるのは確実だな。結局、死の一歩手前に来て注射器を持てなくなるまで、延々と同じことを続ける。それが薬物依存症の怖さなんだよ」

岩井によれば、これまで茨城ダルクから出ていった者で、その後自ら命を絶ったのは150人を超しているという。1度は更生を志して、回復施設へ行った者ですら、後遺症から抜け出せず、再び覚醒剤に手を染め、自ら命を絶っているのである。岩井自身、かつて覚醒剤依存に苦しんだ経験を持つ人間だ。彼は次のように語っていた。

「俺自身、クスリを止めて何十年も経つけど、未だにやりたいって気持ちが消えない。毎日そんな考えに捕らわれる。1度でもやった人間は『止めた』なんてことは一生言えないんだよ。とにかく、その日やらずに乗り越えることしかできない。それを1日また1日と繰り返していくことだけ。1回でもやったら地獄に逆戻りするだけ。それくらい怖いものなんだ」

何十年も覚醒剤から距離を置き、回復施設のトップを務める人間にすら、ここまで言わせるほど覚醒剤の魔力から逃れるのは困難なのだ。

「友達をたくさんつくりなさい」

岩井は学校に呼ばれて薬物に関する講演会をする際、「友達をたくさんつくりなさい」と伝えるそうだ。

下図(覚醒剤の入手先)を見るとわかるように、多くの人たちが身近な人から薬物を勧められている。

注 1法務総合研究所の調査による
2各項目に該当した者(重複計上による)の比率である
3覚醒剤の入手先が不詳の者を除く

もし友達が1人しかおらず、その人から薬物を勧められれば断るのは難しい。だが、友達がたくさんいれば、1人から勧められても、勇気を振り絞って断り、別の友達のもとへ行くことができる。

ゆえに、岩井は「多彩な友人関係」を築くことを勧めているのだ。

薬物は媚薬でもなければ、精力剤でもない。人間性を粉々に破壊し、死へと引きずり込んでいくものだ。財団法人「麻薬・覚せい剤乱用防止センター」が、広報の使用している標語に次のようなものがある。

「ダメ。ゼッタイ。」

薬物依存からの回復を目指す人たちの中からは、この標語が薬物依存者の立ち直りを阻害するという意見が上がっている。だが、あえて言おう。少なくとも未経験の人にとって覚醒剤は「ダメ。ゼッタイ。」であることにまちがいない、と。

取材・文/石井光太

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