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65歳以上の5人に1人は認知症にーー予防のカギとなるのは「運動と睡眠」

集英社オンライン / 2022年9月17日 11時1分

山田悠史医師は、ニューヨークにある大学病院で「老年医学専門医」として高齢者の診察を行なっている。日々患者と向き合いながら、約1年をかけて書き上げたという新著『最高の老後 「死ぬまで元気」を実現する5つのM』では、「認知症」にまつわる最新の知見もたっぷりと紹介する。「健康なこころ」をいつまでも維持するために、今からできることはあるのだろうか。山田医師に詳しく話を聞いた。

運動と睡眠で「認知症リスク」を減らせるかも?

年齢を重ねるごとに気になってくる「認知症リスク」。その対策に「運動」は有効なのでしょうか。結論から言うと、多くの観察研究によって「運動と認知症との間に何らかの関連性はありそうだ」ということがわかっています(※1)。



「明らかに予防効果がある」というところまでは科学的に結論付けられていないものの、「運動をしている人の方が認知症は少なそうだ」ということは言えます。

そもそも「運動は健康にいい」と言われる背景には、じつに多種多様な科学的根拠があります。運動は、死亡、心血管疾患、高血圧などのリスク低下と関連するだけでなく、肺がん、乳がん、膵臓がんなどのリスク低下との関連も示唆されています。さらに運動には、睡眠の質を改善してくれる効果も期待できます。

じつはこの睡眠も、認知症のリスクに関連があると見られています。8000人ものデータを追いかけた、睡眠と認知症に関する研究(※2)では、被験者を50歳の時から25年間観察し、睡眠時間の長さによって認知症の発症に違いがあるかを調べました。

ここでは平均の睡眠時間が6時間以下のショートスリーパー、7時間のノーマルスリーパー、8時間以上のロングスリーパーに区分。すると、中高年の時期にノーマルスリーパーの人は、ショートスリーパーの人よりも認知症のリスクが低下して見られることがわかりました。

睡眠時間という一面だけで断言はできませんが、この研究から見えてきたのは「平均すると7時間は睡眠をとるという生活リズムが、認知症リスクが低いことと関連していそうだ」ということです。

運動には、睡眠の質を改善する効果が期待できる、とお話しましたが、よく眠れることも「認知症リスクを低下させる」ことにつながるなら、2つの意味で運動はしないよりした方がいい、と言えるのではないでしょうか。

<参考文献>
※1
DeFina LF, Willis BL, Radford NB, et al.  e association between midlife cardiorespiratory tness levels and later-life dementia: a cohort study. Ann Intern Med 2013; 158: 162-8.

※2
Sabia S, Fayosse A, Dumurgier J, et al. Association of sleep duration in middle and old age with incidence of dementia. Nat Commun 2021; 122289

「変えられる4割」の中でも取り組みやすい「運動の習慣化」

医学誌『ランセット』に掲載された認知症予防の全体像では、生涯における認知症リスクとして12の危険因子が挙げられています。それが次のようなものです。

●修正できる可能性のある認知症リスク(生涯における認知症リスクの約4割)
・若年期…教育の不足
・中年期…聴覚の低下/頭部の怪我による脳の損傷/高血圧/アルコール/肥満
・高齢期…喫煙/うつ/社会的孤立/運動習慣の欠如/大気汚染/糖尿病

上記のように、認知症リスクのうちの4割ぐらいはもしかすると、自分ないし社会の取り組みによって変えられ、認知症予防につながる可能性があるのではないかと考えられています(※3)。

「4割」は一見すると少ない数字に見えますが、2030年には認知症患者は740万人にのぼり、約5人に1人が認知症になると言われています(※4)。もし本当に、4割を変えられる人が増えれば、認知症患者数を大幅に減らすことができるかもしれません。

運動を習慣化することは、上記の中でも比較的取り組みやすい改善項目です。週1回でも運動を積み重ねていけば、健康促進だけでなく、認知症予防の観点からも少なからず期待が持てます。 何もしない「0」の状態を放置するより、週末だけもいいので「1」を続けることが肝要だと言えるでしょう。

運動と睡眠に付け加えるなら、高齢者の方は「聴覚の低下」にも気を付けてほしいところ。外部からのコミュニケーションをインプットする機能が衰えてしまうと、認知機能の低下を招きやすくなるからです。「聞こえづらさ」を感じたら放っておかず、まずは医療機関で原因を究明すること。必要に応じて補聴器などで聴覚を補助してあげるようにしましょう。


ちなみに、「聴覚と認知症」にまつわるエピソードを1つ。「おばあちゃんが会話の辻褄が合わなくなった」と心配したご家族が、おばあさんを診察に連れて来られたことがありました。はじめに近所のクリニックを受診、各種テストの結果も芳しくなかったので「認知症の薬が必要でしょう」という結論に。あとは専門の老年病科でということで、私のところにいらっしゃいました。

問診中、耳が聞こえづらそうだったので念のため耳の中を調べてみると……それはそれは「大きな耳垢」が両側の耳に詰まっていたのです。そう、じつは認知症でも何でもなく、ちぐはぐな会話は耳垢のせいだったのです。耳垢を除去したら聴覚が回復し、ご家族もびっくりするくらい会話がスムーズになりました。

突拍子もない笑い話に聞こえますが、これは稀なケースではありません。「認知症かも?」の本当の原因は、意外とシンプルなところに隠れていることがあるからです。(自分が)聞き返すことが増えた、(家族が)聞き返されることが増えたと感じた時には、認知症を疑う以前に、早めに耳鼻科で相談されてみるといいかもしれません。

<参考文献>
※3
Livingston G, Huntley J, Sommerlad A, et al. Dementia prevention, intervention, and care:2020 report of the Lancet Commission. Lancet 2020; 396: 413-46.

※4
令和元年6月20日 認知症施策の総合的な推進について(参考資料)|厚生労働省老健局.https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/000519620.pdf (accessed May 25, 2022).


取材・文/金澤英恵 撮影/金栄珠(講談社写真部)

最高の老後 「死ぬまで元気」を実現する5つのM

山田悠史

2022/6/24

1,980円

単行本(ソフトカバー) ‏ : ‎ 384ページ

ISBN:

978-4065285664

高齢者の2割には病気がないことを知っていますか?
今から備えればまだ間に合うかもしれません。

日本人の平均寿命は男性が81歳、女性は86歳。
でも、元気に自立した生活を送ることができる期間である「健康寿命」は、男性なら約72歳、女性なら約75歳と報告されています。
日本人は最後の約10年を、支援や介護を受けて生きているのです。

・65歳以上の約10人に1人は車椅子か寝たきり
・65歳以上の約6人の1人は認知症
・65歳以上の約3人に1人は5種類以上の薬を毎日飲んでいる
・65歳の約5人の1人は、少なくとも1つ以上の慢性疾患をもつ
・死に直面している人の約10人中7人は自分で意思決定ができない

これらの現実をどうしたら変えられるか、最後の10年を人の助けを借りず健康に暮らすためにはどうしたらよいのか、その答えとなるのが「5つのM」。
カナダおよび米国老年医学会が提唱し、「老年医学」の世界最高峰の病院が、高齢者診療の絶対的指針としているものです。

【5つのM】
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ニューヨーク在住の専門医が、この「5つのM」を、質の高い科学的エビデンスにのみ基づいて徹底解説。
病気がなく歩ける「最高の老後」を送るために、若いうちからできることすべてを考えていきます。

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