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スマホがそのままキーになる! 車社会の地方都市で広がる「シェアサイクル」の波

集英社オンライン / 2022年9月13日 11時1分

長野県上田市は、人口15万人ほどの地方都市。戦国武将の真田昌幸・幸村ゆかりの城下町としても有名だ。その上田市が、スマートフォンを利用したシェアサイクルの社会実験を実施している。シェアサイクルは、東京都心などではお馴染みの存在になったが、果たして地方都市でも定着していくのだろうか。利用体験や担当者インタビューを通じて、その実態を探っていこう。

都心とは異なる地方都市の状況

現在東京都心では、14区にまたがる「東京自転車シェアリング」をはじめ、さまざまな事業者がシェアサイクルサービスを提供している。電車や地下鉄の利用が盛んな都心部では、駅から目的地までをつなぐ移動手段として定着してきた感がある。

しかし、地方においては話がまた別だ。地方はどうしても「車中心社会」になりがちで、電車などの公共交通機関を一切利用しない人も多い。シェアサイクルサービスを提供しても関心を持つ人が少なく、地域に根付きにくいのではないだろうか。



かくいう筆者も、車中心の生活をしている地方在住民のうちの一人だ。住まいは駅や市街地からそれなりに離れていて、日常の移動はもっぱら自家用車。市内を走る電車やバスに乗る機会はごくわずかだ。そんな筆者が、あるとき地元の上田市で行っているシェアサイクルの取り組みを知り、その実態に興味が湧いてきた。

上田市・千曲市 広域シェアサイクル社会実験のホームページ。今年の実施期間は12月18日まで

自転車の魅力も上田の魅力も見えてくる

まずは自分で体験してみないことには始まらない!ということで、「上田市・千曲市 シェアサイクル社会実験」の公式サイトをチェック。こちらは上田市と同じく、しなの鉄道沿線の千曲市と連携して実施しているプロジェクトで、上田市内には11カ所のサイクルポート(設置拠点)があるらしい。どこでも好きな場所で借りて、好きなサイクルポートに返却していいという。

利用者登録は、アプリを使って行う。ユーザIDやパスワードなどを入力したのち、プランを選択するという流れ。プランは「1回プラン」と「月額利用プラン」があるが、筆者はとりあえず1回利用を選択した。その後、クレジットカード情報を入力すれば登録手続きは完了だ。

事前準備が終わり、いよいよ体験へ。今回は上田市内を走るローカル鉄道「別所線」の下之郷駅からスタートすることに決めた。あらかじめアプリ上で自転車を予約し、設置場所である駅に移動。予約した番号の書かれた自転車を見つけたら、サドルの後ろについている操作パネルで「開始」ボタンを押し、その横に印字されているQRコードをアプリ内のカメラで読み取る。「ガチャン」と鍵の開く音がしたら、そこから利用時間のカウントが始まるという流れだ。

サイクルポート。上田市のシェアサイクルは、都心でもよく見かける「ドコモ・バイクシェア」のシステムを使用している

アプリで「鍵を開ける」を選ぶとカメラが起動。QRコードを読み取って解錠する

自転車を漕ぎ出すと、電動アシスト機能が負荷を軽減してくれる。久しぶりの自転車でテンションが上がっていたこともあり、調子に乗ってスイスイと進んで行った。

ところで、この付近は「信州の鎌倉」と呼ばれており、由緒ある寺社仏閣があちこちにある。また、ほどよい田舎で交通量も少なく、サイクリングにはピッタリのロケーションだ。広々とした田園地帯を駆け巡っていると、別所線の電車が通り過ぎる。上田市在住の筆者にとっては馴染みの風景だが、実に牧歌的で心地いい。

たっぷりとサイクリングを楽しんで、今回は元のサイクルポートに帰還。返却方法は、自転車を施錠した後に操作パネルの「返却」ボタンを押すだけと非常に簡単だ。使い勝手もよかったし、それにサイクリングは健康にも良さそうだ。次は市街地の移動にも活用したいと思っている。

下之郷駅のそばにある生島足島神社。池の中に浮かぶ小島の地面こそが御神体というユニークな神社

サイクリングをしていると近くを別所線の電車が通過。田園を横切って走るのどかなローカル電車だ

別所線にはたくさんの無人駅がある。中塩田駅はそんな無人駅の一つ

地方でもシェアサイクルは定着するか

実際に試して便利なことはわかったが、この取り組み、果たして事業として利益はあるのだろうか。そんな疑問を、プロジェクトの事務局となっている上田市の都市計画課・東城雄飛さんに聞いてみることにした。

上田市都市建設部・都市計画課の東城雄飛さん

「そもそもレンタサイクルの取り組み自体は、実は10年ほど前から行っていました。駅前の放置自転車対策の側面が強かったと思います。しかし、それは受付で鍵を渡すような有人対応のサービスで、それ故に新型コロナウイルスの影響を受けて休止してしまったのです。とはいえ、レンタサイクルのニーズはあるのでどう応えていくべきか…と考えていたところ、ちょうどしなの鉄道沿線の千曲市がシェアサイクルの導入を検討しているという話を聞き、県(UDC信州)の支援を受けながら上田市も一緒に連携して広域シェアサイクル社会実験という形で取り組むことになりました」(東城さん)

運営には課題も多いのではないだろうか。

「車両の再配置やメンテナンスという課題はあります。どのサイクルポートに返却してもいい仕組みなので、定期的に車両を移動させて数を調整する必要が出てくるのです。GPSで置いてある場所が把握できるのですが、土日など利用が多い日の前日は特に注意しています。パンクやバッテリー状況も、再配置の時に確認しています」(東城さん)

なるほど。運営には車両の維持費など以外にも、それなりの人件費がかかってくるようだ。そうなると、運営コストと収益とのバランスが釣り合わなくなるのではないだろうか。

「シェアサイクル単体で利益を挙げていくのは、大都市でないと成り立たないのではないでしょうか。地方都市はやはり、行政の財政負担もある程度は必要だと思います。そうした中でこの取り組みを持続させていくには、事業を行う意義や目的を示すことが大事だと考えています」(東城さん)

実証実験は今年で2年目。最初は観光利用が目立っていたが、今では市民利用が中心になってきたという。認知が広がれば、市民の利用ニーズは確実に存在するということだ。市の魅力創出につながる取り組みだと思うので、ぜひ根付いていってほしいところだ。

季節はまもなく秋。上田市は実に過ごしやすい季節を迎える。色づく山々を眺めながらサイクリングを楽しみ、「信州最古の湯」とも言われる別所温泉で汗を流す。松茸を使った季節料理に舌鼓を打つのもまた一興だ(上田市は国内有数の松茸の産地として知られている)。興味のある方は、ぜひ上田市を訪れ、自転車で散策してみてはいかがだろうか。

下之郷駅の付近にある大鳥居。夏は青々とした田園風景の中に朱の色が映える。山々が色づく秋の景色も美しい

文・写真/小平淳一

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