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「リモートワークがしんどい」はADHDだから!? コロナ禍で見えた“大人の発達障害”の傾向と対策

集英社オンライン / 2022年9月14日 11時1分

いわゆる「大人の発達障害」は、社会人になってはじめて診断されるケースも多い。発達障害が原因で職場での働きづらさを感じ、こころの不調につながる人も少なくないそうだ。8月29日に『リワーク専門の心療内科の先生に「働きながら発達障害と上手に付き合う方法」を聞いてみました』(日本実業出版社)を上梓した心療内科医の亀廣聡先生に、発達障害が引き起こす働きづらさや、発達障害を持つ従業員が働きやすい環境について話を聞いた。

働きづらさの原因が「発達障害」ということも

「メンタルヘルス不調により休職した患者さんを診療していると、発達障害の特性を持っていることが判明するケースはよくあります。ご本人には自覚がなくとも、発達障害が原因で、働きづらさや『職場でうまくやれない』という想いを感じるようになった方もたくさんいます。



発達障害の二次障害(※発達障害という一次障害を周囲に理解されずにストレスを感じ、自己肯定感が下がった結果、身体・精神に症状が現れること)として、抑うつ状態や適応障害などの症状が出ているケースを、これまで多く見てきました」

そう話す亀廣聡先生は、『リワーク専門の心療内科の先生に「働きながら発達障害と上手に付き合う方法」を聞いてみました』(日本実業出版社)の著者であり、大阪・枚方市にある「ボーボット・メディカル・クリニック」の院長だ。

『リワーク専門の心療内科の先生に「働きながら発達障害と上手に付き合う方法」を聞いてみました』(日本実業出版社)

抗うつ薬・抗不安薬・睡眠薬を処方しない職域メンタルヘルス専門のクリニックとして、メンタルヘルス不調による休職者や、復職後の再発経験を持つ患者などから高い信頼を得ている。

「発達障害の方がうつに陥るきっかけとしてよくあるのが、本人が苦手とすることを任されたこと。たとえば、それまでプレイヤーとして活躍してきた人が部下のマネジメントをすることになったり、プロジェクトのチームを任されて『このチームは君に委ねるから』と上司に言われたり。

本来であればチームリーダー拝命はキャリアアップとして、誇らしく嬉しいことかもしれません。でも、発達障害を持つ人にとってはリーダーとして具体的にどうすればいいのかわからず、ただ困惑してしまうことも多いんです。

それでも仕事の期日は迫り、やるべきことは山積みでどんどんストレスが溜まっていく。その結果、朝起きたときに突然仕事に行けなくなって休職、というパターンは、発達障害が原因で適応障害になった患者さんによく見受けられます」

大学の卒論でつまずくケースもある

幼児期から発達障害の特性がはっきり出ている場合、早い段階で診断を受けるケースがほとんどだが、割合からすれば少数だ。その場合は療育機関へ通ったり、あらかじめ特性への理解があり適切な支援を受けられる進学先・就労先を探すなどが一般的な対処方法となる。

一方で、発達障害の特性を持っていても日常生活に大きな支障が出ずに進学・就職をして、自分も周囲も発達障害があることに気づかず、何らかのきっかけで判明するという「グレーゾーン」のケースは、人口の1割程度ともいわれている。

大人の発達障害が原因でメンタルヘルス不調になる人は、いわゆる「高学歴で一流企業に勤めている」など、勉強や仕事ができるタイプも多いという。就職後もしばらくは問題なく働き、任された仕事もこなすため、すぐには職場での問題が起きづらいという。

しかし、なかには学生時代から発達障害の特性を感じさせるエピソードを持つ人もいるという。

「大人になってから発達障害が判明した人すべてがそうというわけではありませんが、患者さんの話で比較的よく聞くのが、大学の『卒論』でつまずいたという経験です。

要は、答えややるべきことが決まっている課題ならば問題なくできる。ですが、自分で自由にテーマを選んで研究・調査し、解決するという作業になったとたん、どう進めていっていいかわからなくなってしまうそうなんです。

発達障害を持つ人たちは、深く豊富な専門的知識がある一方で、マネージメントやクリエーション、ソリューションなどコミュニケーション能力やコーディネートする力、臨機応変さや想像力(創造力)を必要とする作業が苦手という特徴があります」

診療のなかで、患者の発達障害が判明するケースも多い(画像/ボーボット・メディカル・クリニック提供)

ADHDには苦痛、ASDには快適な「リモートワーク」

発達障害には主に、コミュニケーションが苦手で独特のこだわりがあるASD(自閉症スペクトラム障害)、多動性や不注意傾向が強いADHD(注意欠如多動性障害)、読み書きや計算に困難を抱えるLD(学習障害)がある。発達障害の診断を受けた人のなかには、これら複数の特徴が重なっているケースも多いそうだ。

新型コロナウイルス感染拡大防止に伴う働き方の変革もあり、2020年の春以降、働き方のひとつとしてリモートワークが定着してきた。このリモートワークも、発達障害の特性によって感じ方が異なるという。

「『ステイホーム』を余儀なくされたり、職場でのリモートワークが実施されたりしたことをきっかけに、メンタル面に変化が現れたという患者さんは多くいらっしゃいましたね。

リモートワークや自宅にいる時間が増えたことで『うつっぽさ』を感じるようになった人の一定数には、『ADHD傾向』があると感じました。

ADHDの場合、人とのコミュニケーションはあまり問題なくできるのですが、ある程度『自由』があることでメンタルを保っている人が多い。そういう人たちはむしろ、家から出ることなく、ひとりでじっと座って仕事をしていることが苦手なのです。

一方、ASD傾向がある人は『リモートワークになって精神的に楽になった』という人が多いですね。オフィスには大勢の人がいるので緊張しやすかったり、聴覚過敏のせいで鳴り止まない電話の音で仕事に集中できなくなったり、昼食も職場の人と一緒に食べたりすることが多いので、ASD傾向のある人にはそういった空間そのものや、雑談に応じることが苦になりがち。

自宅ならば自分ひとりのペースを守れるので、働きやすさを感じるのかもしれません。主なコミュニケーションがメールなど文字を介して行われる点も、視覚優位なASD傾向の強い人たちにとっては有利ともいえそうです」

環境を整えれば「障害」にならない

こころの不調を感じてクリニックを受診した結果、自らに発達障害があるとわかり、そのこころの不調は発達障害が原因で起きていると知ったときの患者の反応はさまざまだという。

「もちろん、すぐには受け入れられない人もいます。一方で、これまでは職場でうまくいかなかったことを自分のせいにしてつらかったけれど、発達障害が原因だったと知って腑に落ち涙を流す人や『気持ちが楽になった』と言う患者さんもいます」

しかし、発達障害の特性を持っていることが、必ずしも本人の働きづらさや職場でのつまずきにつながるとは限らないと亀廣先生は言う。

「発達障害の特性を持っている人のなかには、働くなかで特に大きな問題が発生せず、定年まで勤め上げるような人もいます。ただ、その場合は必ずといってよいほど、その人の周囲に支援者や協力者がいたり、職場が自然とその人の特性を理解し、適切な配慮ができています。

そもそも『障害』という言葉は、『正常な進行や活動の妨げとなるもの』という意味を持ちます。つまり、周囲のサポートやマネジメントがしっかりなされていて、本人が困り感もなく能力を発揮できているならば、発達障害があっても『障害』にはならないということなんです」

発達障害が原因で、その二次障害としてメンタルヘルス不調を引き起こした従業員が復職する場合には、職場の理解や配慮が欠かせないという。

「発達障害への理解を深め、『この人にはこういう個性や特性があり、ここが苦手なのだ』と知り、個人に合った対応をしていくことが必要不可欠です。

もちろん、業務を進めるうえで『この仕事は苦手だろうから一切担当させない・任せない』ということは現実的に難しいケースもありますよね。そういう場合は、指示の仕方や仕事の与え方の工夫しだいで本人の困り感を軽減することができます。

当クリニックでも、発達障害がある患者さんが勤務する職場に対して、適切な対処方法を時間をかけてコーチングしています」

配慮が「すべての人が働きやすい環境」に

発達障害の特性を持つ人は、特性による困りごとが顕在化してない人(かくれ発達障害)も含め、多くの職場に潜在的にいることが想定される。一方で、「ただでさえやることが多くて忙しい職場で、発達障害の従業員への配慮までするのは難しいのでは?」と考える人もいるかもしれない。

しかし亀廣先生は、「これからの日本社会では、そういった考えを持つ会社が生き残っていくことは難しいのではないか」と言う。


「少子高齢化に伴い、日本全国の労働者数も減少してきています。働き手も不足するなか、発達障害の有無に関わらず『メンタルの病気になって勤務できないなら辞めてもらっていい』とは言えない状況になってきつつあります。

それに、発達障害を含め、障害を持つ従業員への合理的配慮(※障害を持つ人が社会生活に平等に参加できるよう、障害特性や困りごとに対してなされる配慮のこと)をするのは、障害者雇用促進法という法律でも義務づけられていること。職場がきちんと理解・対処をすれば、発達障害を持つ従業員もしっかり能力を発揮できるようになりますし、こころの不調や再発も防げます。

確かに、発達障害を持つ従業員への適切な対処方法を知ったり、適切な方法で接したりするためには手間も時間もかかります。ですが、発達障害者への環境を整えることは、結果として『すべての人が働きやすくなること』にもつながっていくと思っています」

リワークプログラムはクリニックの作業療法士や心理士が運営する(画像/ボーボット・メディカル・クリニック提供)

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