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財務省が衝撃の回答。“本名バレ”不可避でもインボイス制度を導入する「本当の理由」

集英社オンライン / 2022年9月10日 18時1分

2023年10月1日より導入されるインボイス制度によって、ペンネームや芸名で活動するクリエーター(VTuber・YouTuber・漫画家・作家・アーティスト・俳優 等)の“本名がバレる問題”が大きな反響を呼んでいる。今回は2022年8月8日、市民団体の申し入れで判明した、インボイス制度導入の衝撃的な財務省見解を紹介する。

宇都宮健児氏らが財務省に申し入れ

前回記事、「氏名、住所も全世界に公開! インボイス制度導入で「あの漫画家の本名がバレる」は、やはり本当だった」では、インボイスによってペンネーム・芸名で活動するクリエーターの本名や住所がバレる仕組みを詳しく解説した。

今回は、なぜそのような制度設計になっているのかを解説していく。答えを先にお伝えすると、「個人のプライバシーよりも大企業の利便性を優先したから」。ただ、それだけである。



この事実が明らかになったのは、2022年8月8日の公平な税制を求める市民連絡会(共同代表は弁護士の宇都宮健児氏以降は「市民連絡会」と表記)による財務省申し入れにおいて。市民連絡会はインボイス制度の拙速な導入に反対し、政府(岸田総理、鈴木財務大臣 宛)に反対声明と6項目からなる質問書を提出。今回の本題である”本名バレ”は質問書の6点目に含まれている。

① 物価高とコロナ禍が同時進行する現状において、予定通り来年10月に導入する積極的理由は
あるのか
② 小規模・零細事業者が実質的に市場から排除される可能性と対応策をどのように考えているのか
③ 取引形態や就労形態によって税負担の公平性が損なわれることは問題ではないか
④ 制度の周知が不十分なため、簡易課税制度の事後適用を認めるなどの救済措置を導入すべき
ではないか
⑤ 帳簿作成に従来よりも膨大な事務負担が生じることは問題ではないか
⑥ 個人事業主の本名ウェブ公開による個人情報流出・プライバシー侵害は問題ではないか

出典:質問書の6項目を筆者が要約

*反対声明、質問書の全文は筆者がtheletter 「犬飼淳のニュースレター」で配信した「【独自】インボイス制度 6つの懸念に対する財務省の衝撃的回答」を参照ください。


当日、市民連絡会が1時間にわたって質問書の内容について官僚(財務省および国税庁)と質疑応答を行った結果、6項目全てにおいて政府は一貫して以下のような衝撃的なスタンスであることが浮き彫りになった。
・予想される数々の問題に対して 何の対策もしていない。そもそも、検討もしていない
・来年(2023年)10月の導入は絶対的な決定事項のため、その前提で全ての物事を進める
・個人のプライバシーよりも大企業の利便性を優先する、また、事実上は機能しない制度を救済策として主張するなど、一般市民とは著しく乖離した感覚で制度設計している

財務省・国税庁の「衝撃的回答」

実態をよりリアルに知って頂くため、6点目の質問(今回の本題である個人情報流出の問題)の質疑要旨を抜粋して紹介しながら、財務省及び国税庁の衝撃的な認識を解説していく。

*質疑は質問書の順番に沿って進行。最後に行われた6点目の質疑は筆者も現地で同席
*6点目の主な質問者は小泉なつみ氏(インボイス制度を考えるフリーランスの会)
*6点目の主な回答者は国税庁 課税部 軽減税率・インボイス制度対応室の西公(にし ただし)課長補佐。財務省 主税局 税制第2課 佐々木辰実 課長補佐も同席したが、主に1〜4点目の質問の回答を担当。

【小泉なつみ氏】適格請求書発行事業者公表サイトで個人事業者の本名が公開される問題について、プライバシー侵害の危険性をどのように考えているのか。

【国税庁 西公 課長補佐】登録番号が書かれたインボイスを受け取った側が有効性を確認する際、名前などの付加情報が必要。例えば、佐々木さんから受け取ったインボイスに書かれた登録番号で調べると、その登録番号が有効であることは確認できるが、本当に佐々木さんの登録番号かは判断できない。この際、あわせて氏名も公開されていれば、間違いなく佐々木さんの登録番号であると速やかに確認できる。このような点から本名公開は実務上の必要性があると考えている。住所、電話番号のような危険性が高い個人情報ではなく、かつ絞り込みに有効という点で氏名を選んだ。

まず、インボイスに書かれた情報だけでは本人確認が困難であることは国税庁も認めていることがハッキリと分かる。さらに、あたかも「氏名」さえ分かれば本人確認できるように説明しているが、芸名・ペンネームの場合は経理担当者が氏名(本名)を知らなければ本人であると特定できないことは、これまで筆者が述べてきたとおり。

もし経理担当者が本名を知っていたとしても、よほど珍しい名字・名前でない限りは同姓同名の登録者が確実にいるため、任意項目である「屋号」(芸名・ペンネームと同一であることが多い)や「事務所所在地」(個人事業主は自宅住所を兼ねる場合が多い)も登録せざるを得ないため、本名バレ・住所バレに繋がる。

にも関わらず「住所、電話番号のような危険性が高い個人情報ではなく、氏名を必須項目とした」という趣旨の説明を平然としていること自体、実態とあまりにもかけ離れている。このやり取りを聞きただけでも、抑えることが困難なほどの憤りを筆者は感じていたが、これ以降もさらに耳を疑うやり取りが続いた。

【小泉なつみ氏】適格請求書発行事業者公表サイトで公開する情報を商用利用可にしたのはなぜか。

【国税庁 西公 課長補佐】取引先が多い場合、会計ソフトのベンダーが自らデータベースをつくって参照させる運用を想定している。ベンダーがダウンロードした情報を会計ソフトの利用者が参照する形になる。これが、我々が商用利用として想定していた運用。

【小泉なつみ氏】納税のために登録した個人情報が商用利用されることに違和感がある。なぜ納税者本人とは無関係の企業の利益のために利用されなければならないのか。

【国税庁 西公 課長補佐】公開するのは氏名など最低限の情報に絞っている。

【小泉なつみ氏】そもそも、全世界から全件一括ダウンロードできる形で公開していること事態が杜撰ではないか。登録番号ごとに検索して、登録の有無を確認する方式にもできたのではないか。

【国税庁 西公 課長補佐】取引先が多くない事業者の場合は1件ずつ検索して確認することもできるが、取引先が多い大企業の場合は1件ずつ確認するのは手間がかかる。一覧性のあるデータベースを構築して、そこから登録番号を検索する形にすることで効率化が図れる。

【小泉なつみ氏】そうした大企業の利便性と、我々納税者のプライバシーは全く別の問題。本名を公開したくないと考えている納税者の思いとは全く無関係。

【国税庁 西公 課長補佐】個人事業者の場合は公開するのは住所や電話番号ではなく氏名なので、それだけで個人の特定に至るのは少ないと考えている。

【小泉なつみ氏】見直す予定はないのか。

【国税庁 西公 課長補佐】今のところはない。法令に従って進めている。

このやり取りで質問者は主に2点の問題を指摘しており、その回答の随所から「個人のプライバシーよりも大企業の利便性を優先する」という考え方で制度設計したことが読み取れる。これは徹底的に強者の利益を優先する一方で、弱者は排除するというインボイスをめぐる問題の本質にも通じている。

①なぜ商用利用可なのか → 会計ソフトのベンダーによるデータベース参照を想定しているため(=会計ソフトのベンダー及び会計ソフトを利用する大企業の利便性を優先)

②なぜ全件ダウンロード可なのか → 取引先が多い大企業は1件ずつの確認には手間がかかるため(=取引先が多い大企業の利便性を優先)

一貫して、質問者が問題視する「個人事業主のプライバシー」という観点は全く考慮されていない。本名バレ・住所バレに繋がる危険性が極めて高いにもかかわらず、「公開するのは氏名など最低限に絞った」と平然と言ってのけるのだ。そして、来年10月の導入は決定事項のため、仕組みを見直す予定も無いという。

これが、2022年8月8日時点の財務省および国税庁の公式見解である。

*質問1〜5点目の回答も同様に個人や弱者を軽視する考え方が随所に見られる内容だったが、今回の本題ではないため質疑要旨の紹介は省略。内容を知りたい場合は筆者がtheletter 「犬飼淳のニュースレター」で配信した「【独自】インボイス制度 6つの懸念に対する財務省の衝撃的回答」を参照ください。

大手メディアはインボイス問題を徹底的に無視

この申し入れの後、市民連絡会はそのまま同じ会場(衆議院第二議員会館)で約45分間にわたって記者会見を開催。反対声明読み上げや、申し入れ時の質疑内容について報告した。質問6点目の本名バレ・個人情報流出については、質問者の小泉なつみ氏が自ら2分半にわたって説明した。

<小泉氏 説明の要旨>
・氏名を含む個人情報が全件ダウンロードできて商用利用可能な問題については、今年7月には各団体と共に反対声明を表明するほど強い危惧を抱いている
・商用利用可、全件ダウンロード可の意図を問い質した結果、大企業の利便性を優先していると分かった
・個人事業主は納税のために登録せざるを得ない情報が本名バレ・住所バレに繋がる問題について、何の対策もしておらず、想像すらしていない
・問題点を指摘しても、是正する予定すらない

*小泉氏の実際の説明は上記YouTubeの37分29秒から視聴可能
*外部配信サイト等で動画を再生できない場合は、筆者のYoutubeチャンネル「犬飼淳」を参照下さい。動画タイトルは「インボイス制度 財務省申し入れ 記者会見 2022年8月8日」。


この記者会見については別の切り口で重大な問題点を指摘したい。会見の開催案内は報道各社にも送られたが、大手メディア(テレビ局、読売・朝日・毎日・日経等の全国紙、東京・北海道・西日本等のブロック紙)からの参加は0社という衝撃的な結果だった。

会場の衆議院第二議員会館は国会記者会館(大手メディア各社の記者が常駐)から徒歩3分という超至近距離にもかかわらずだ。結局、参加したのは機関紙・雑誌・専門紙・フリー等の記者のみで、筆者を含めても5名程度。

ちなみに、6月9日に「インボイス制度の中止を求める税理士の会」が同会場で行った記者会見の際も大手メディアの現地参加は同様に0社だった。

これらの事実が示す通り、残念ながらインボイスについては大手メディアの公正な報道は全く期待できない。来年10月の導入直前になって、アリバイづくりを目的に申し訳程度に報じるのが関の山だろう。

その理由としては、「新聞は軽減税率の適用対象のため消費税に関する問題を指摘しづらい」「大企業の会社員である自分は被害を受けないと記者自身が思い込んでいる」等の背景があると推測される。

だが、一人一人にできることはまだ残されている。例えば最もハードルの低い方法として、インボイス反対のオンライン書名に参加することが挙げられる。

*change.orgの署名数は8万筆以上(2022年9月3日現在)

また、大手メディアには半ば見切りをつけて、自らインボイス制度の問題点について声をあげる団体が次々に現れている。昨年から充実した情報発信を続けている「STOP!インボイス」を筆頭に、今回の会見を主催した「公平な税制を求める市民連絡会」、名前の通り税理士による「インボイス制度の中止を求める税理士の会」 、声優が立ち上げた「VOICTION」などなど。今後もこれらの団体は様々な情報発信に加えて、陳情、院内集会、デモなどのアクションを予定しており、本記事でインボイスについて問題意識を持った方にはぜひ注視して頂きたい。


文/犬飼淳

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