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日米芸能事務所の違いーアメリカではタレントがエージェントを雇う理由

集英社オンライン / 2022年9月15日 11時1分

カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)に、エンタテインメント法を学ぶため留学していた長岡征斗弁護士の留学体験記の2回目。今回は日米の芸能事務所とタレントの関係の違いについて。アメリカではタレントがエージェントやマネージャーを自ら雇うのだという。

ベテラン女性弁護士を和ませたひと言

アメリカのロースクールでは、エンタテインメント法を専門的、体系的に学ぶ授業が多く開講されており、特にエンタテインメントの本場・ロサンゼルスにあるUCLAではその授業の数が非常に充実しています。

その大きな特徴は、授業の多くを、経験豊富な実務家の方々が担当することです。業界の企業内弁護士はもちろん、大手エンタテインメント企業のトップや、エンタテインメント専門の法律事務所のファウンディングパートナー(創業弁護士)も自ら講師として教壇に立ちます。たとえば、「音楽業界法(Music Industry Law)」の授業では、音楽マネジメント会社の共同経営者が講師になっており、軽妙な語り口で授業を進めます。



同授業内では講師の人脈を生かして、学生全員が現役の弁護士を相手にアーティストのレコーディング契約の模擬交渉をします。アルバムは何枚レコーディングする契約とするか、地理的範囲はアメリカのみとするか全世界とするか、などを実際に駆け引きしながら決めていくのです。

私も、ある女性弁護士を訪ね、模擬交渉を行いました。彼女は、人気のバンドをクライアントに抱えているようで、自宅兼オフィスにいくつも記念盾が飾ってありました。私が

「あのバンド、私も10代の頃によく聴いていましたよ」

と言うと、彼女は、

「あのバンドを知っているのね。私が彼らのサポートをし始めたのは、ある程度歳がいってからのことだから、10代の多感なころに彼らの全盛期を知ったあなたが羨ましいわ」

と、バンドに帯同して日本ツアーに行ったときの話を聞かせてくれました。

UCLAロースクールの図書館

日本とは異なるタレントと事務所の関係

さて、弁護士がバンドのツアーに帯同すると聞くと、やや違和感があるかもしれません。ここで、アメリカにおける、タレント(俳優やアーティスト、監督、脚本家を含む)のチームについて、少しご説明しましょう。

日本の芸能界の場合、多くのタレントは芸能事務所に所属し、事務所がタレントにマネージャーを付けてくれます。有望なタレントの場合、芸能事務所がタレントの身の回りの世話、演技や歌唱のレッスンまでを手配することもありますし、その後の案件獲得、果ては番組制作まであらゆる段階にかかわってくることもあります。

一方、アメリカには、タレントが所属して、育ててもらうという意味での芸能事務所はありません。逆に、タレントが自らエージェント、マネージャー、弁護士等を雇う必要があります。一般的な整理では、エージェントは芸能案件の獲得業務(エージェンシー業務)のみを行い、マネージャーは案件を受けるかどうかなどキャリアの相談相手となり、弁護士はビジネス・法務面でのアドバイスを行う役割を担う、とされています。

カリフォルニア州の場合、タレント・エージェンシー法(Talent Agencies Act)という法律の下、エージェントとして当局から許可を受けていない人物は、(仮に弁護士であっても)エージェンシー業務を行うことはできません。エージェントは5万ドルを労働長官に対し預託する(トラブルがあった場合の保証金として納める)必要がある上、ギルド(タレントの労働組合のようなもの)との合意で10%より高い手数料をとってはなりません。

なぜエージェント側がそんな合意に従わざるを得ないかというと、ギルドが組合員に対して、当該合意を結んでいないエージェントの利用を禁じているからです(ここでもギルドが強い力を持っているのですね)。

弁護士は、エージェントやマネージャーと共に、タレントをチームとしてサポートしていきます。業界で顔が利く弁護士を雇っていると、業界人も話を聞いてくれやすい(送ったデモ音源を聞いてくれたり、脚本に目を通してくれたりしやすい)、ということもあるようです。顧問弁護士がコンサートツアーにまで帯同するケースがある、というのは私にとっても少し意外でしたが、それだけ密にタレントとの関係を築き上げているということは、勉強になりました。

クラスメートにはミュージカル俳優も

さて、話をUCLAのロースクールに戻します。

エンタテインメント法関連の授業では、そのときどきに起こったエンタテインメントのニュースを題材に、ディスカッションがよく行われました。たとえば、スカーレット・ヨハンソンがディズニー社相手に訴訟を起こした件など、いろいろな事件がディスカッションの対象になりました。自分が弁護士として代理していたら、どのように理論を立てて、どのように裁判官や陪審員を説得するか、毎回、喧々諤々(けんけんがくがく)の議論が交わされました。

英語ネイティブではない私は、早口のディスカッションの内容についていくのさえも一苦労でしたが、UCLAでは、「去年までブロードウェイのミュージカルで主演だった」とか、「映像制作会社でプロデューサーを務めていた」といった、驚くような経歴を持つ学生も少なくありません。そうした学生に交じって、実務の最先端を走る講師とさまざまな問題を議論することはとても刺激的な体験でした。

UCLAキャンパス内の食堂

期末試験でも最新の話題がとりあげられます。ある授業の期末試験の問題は、こうでした。

《ウィル・スミスが、アカデミー賞授賞式でクリス・ロックを平手打ちした件に関して、この出来事を映画化しようとする場合に生じる法的問題点は何か、またそのリスクを最小限にするために映画製作スタジオにどのようにアドバイスするか。3000語以内で述べよ》

タイムリミットは、期末試験期間中に提出さえすれば大丈夫。実際の問題文にはもう少し詳細な指示が入っていましたが、例えば実在の人物や出来事を題材にして映画を製作する場合、その人物の許可を得るべきかどうか、名誉毀損に該当するかどうか、といった問題を論じることが求められました。

エンタテインメント・ロイヤーの仕事の一つは、エンタテインメントの世界に存在する法的リスクを的確に把握するとともに、それを専門家以外の方にも分かりやすく説明し、どうビジネスを進めることが適切かアドバイスすることです。こうした試験では、エンタテインメント関連のニュースにはアンテナを張っていることを前提として、常に法的に物事を分析し、かつ分かりやすくまとめる力が試されていたのではないかなと思います。

文・写真/長岡征斗

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