推理小説でも描けないほどのドラマの連続だった事件が、約四十年前の関西で起こりました。いまや名前だけは知っているけれど、その内容は詳しく知らないという方も多いのではないでしょうか。「グリコ・森永事件」はそれほど過去の出来事になってしまいました。
1984年(昭和59年)3月18日夜、兵庫県西宮市の江崎グリコ社長江崎勝久氏の自宅に二人組の男が侵入。その時、子供たちと入浴中だった江崎社長を銃で脅し、全裸のまま誘拐するという大胆な犯行がこの事件の幕開けとなりました。
翌日、身代金として現金10億円と金塊百キロを要求する脅迫状が届くと、その大胆な手口や莫大な身代金の額が、まるで映画の世界のように感じられたものでした。グリコはそれらを用意しましたが、結局犯人は現れません。報道編集者の駆け出しだった私が、初めて直面した大事件でした。
誘拐から3日後、江崎社長は大阪府摂津市の水防倉庫から自力で抜け出し、無事に保護されます。誰もがこれでひとまずはホッとしたと思いますが、本当の事件はここからでした。「かい人21面相」と名乗る犯人から、江崎社長宅や江崎グリコ本社に脅迫状が次々と届くようになるのです。