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性的描写は10分に1回。松居大悟監督が“ロマンポルノ”の制約の中で描いた普遍的な愛

集英社オンライン / 2022年9月16日 18時1分

日活ロマンポルノ50周年を記念したプロジェクト「ROMAN PORNO NOW」の第1弾『手』が9月16日に公開。新しいロマンポルノに挑んだ松居大悟監督と、主演を務めた福永朱梨&金子大地の3人に、撮影の裏側と映画への愛を聞いた。

役の繊細な心情をすくいあげる松居大悟の手腕

松居大悟監督

――日活ロマンポルノは、1971年〜1988年に製作された、当時の映倫規定における成人映画レーベルですが、みなさんはどんな印象を持っていましたか?

松居 僕は相米慎二監督を敬愛しているので、相米さんが参加していた尖ったレーベルだなという印象を持っていました。いろんなジャンルの映画を見る中で、『ラブホテル』(1985/相米慎二監督)をはじめ何本かロマンポルノを見たことはありましたけど、今回のお話をいただくまでは、「攻めてる作品を作っている」という、ぼんやりしたイメージしかありませんでした。



福永 私は45周年のときのリブート・プロジェクト作品は見ましたが、古い作品を見たことがなくて。なんとなく女性向けではなく男性が見るものというイメージがありました。

金子
僕も同じです。ただ、今回のプロジェクトに参加しようと思った大きなきっかけは、松居監督が撮るということ。ぜひ!という感じでした。

松居 金子くんとはドラマ『バイプレイヤーズ〜名脇役の森の100日間〜』(2021)でご一緒したんですけど、映画俳優としての金子くんと一緒にやってみたいと思っていました。あと、ラブシーンを撮影するときに、全員初めてだと大変だなと思ったので、経験したことがある方がいたほうが相談しながらできるなと思い、オファーしました。

――ヒロインのさわ子を演じた福永さんはオーディションで選ばれたそうですね?

松居 オーディションで数日間いろんな方のお芝居を見ていて、福永さんが演じるさわ子を見たときに「この人のことをもっと知りたい」と思ったんです。オーディションに参加した人が全員同じシーンをやるんですけど、「この言葉をしゃべっているこの人のことを、もっと見てみたい」というか。それからは、他の方のお芝居を見ても、福永朱梨のさわ子が頭から抜けなかったです。

福永 うれしいです! オーディションに挑むときに、絶対自分がさわ子を演じたいと思って受けたんです。他の方で決まっていたら本当に悔しかっただろうなって思います。

森役を演じた金子大地(左)、さわ子役を演じた福永朱梨

――さわ子はおじさんの写真を撮ってコレクションするのが趣味の会社員。年上とばかり付き合ってきた彼女が、金子さん演じる同年代の同僚・森と距離が近づくにつれて、心境が変化していきます。監督は男子のわちゃわちゃを描くのがお得意ですが、『ワンダフルワールドエンド』(2015)や『私たちのハァハァ』(2015)『アズミ・ハルコは行方不明』(2016)など、女性の心情もすごく繊細にすくい取られる方という印象があります。

金子 それは俺も気になっていました。松居さんはどうやって女性を撮るんだろうと思っていたので、現場に入るのが楽しみでした。

福永 撮影はすごくタイトだったんですけど、撮影に入る前にLINEをくれましたよね。夜中に、「さわ子は本当に森を好きになったと思う?」って。

松居 そうそう。(LINEを見返して)「本気で森に恋をしたのか、一瞬好きになってしまっただけなのか、どっちだと思う?」って送ったんです。僕自身、どっちなんだろうと思っていて。

福永 お互いの意見をいっぱい出しあって、「これだね」っていう方向性を決めました。演じる私の意見もしっかり聞いてくださり、すごく助かりました。

©2022日活

――金子さんが演じる森も、つかみどころのないキャラクターです。

金子 僕自身、惨めだったり不幸だったりするキャラクターのほうが面白いと思いますし、やってやろうと思えるので、森という役をいただけてうれしかったです。

福永 森さんはさわ子に対してすごくひどいことをする人だけど、なんか嫌いになれないというか。それはきっと金子くんが演じたからこそ、チャーミングさが出たんだろうなって思います。

松居 森は森なりに、一生懸命なんだよね(笑)。でも森のキャラクター造形も結構難しくて。撮影前のリハーサルの段階で、ずっと悩んでくれました。

金子 終盤で森が涙を流すんですが、その涙の意味の見極めが難しかったんです。演技として涙を流したのか、それとも純粋に悲しくて泣いたのか。2択でずっと悩んでいました。

©2022日活

――結論は?

松居 リハーサル中に、金子くんから「松居さん、ちょっとすみません」と外に連れ出されたんです。それまでは悲しくて涙を流すモードで森を演じていたけど、「1回、芝居をしているモードでやってみてもいいですか」って。実際、モードを変えただけで芝居の雰囲気も全然変わって、「そうなるか」って驚きました。でも、次の日かな……。

金子 「やっぱ違いました」と連絡しました(笑)。でも、一度役者の意見を肯定してチャレンジさせてくださるので、すごくありがたかったですね。

ずっとラブシーンを見せられても面白くない

©2022日活

――ロマンポルノは「10分に1回性的描写を作る」「上映時間は70分程度」など、独自のルールがあります。

松居 この映画もそうです。10分に1回、必ず性的描写を入れています。

金子 そうなんですね!

松居 ちゃんと意識しながら作ってたし、確認しつつ編集してました。

福永 その制約、全く感じなかったです。

松居 “性的描写”なので、絡みじゃなくてもいいんです。例えば1人でするのも性的描写にあたるので。個人的にはラブシーンだけを見せられても割と面白くないと思っていて。むしろドラマティックな物語が描かれる中にラブシーンがあることで、切ないものになったり、なんなら普通の会話のシーンが官能的に見えたりする。そういう逆転する瞬間があるのが面白いと思っていて。
だからラブシーン自体は焦らしつつ、心の揺らぎを丁寧に描きました。単純に手をなでるシーンや、別れ際に不意にキスをしたりするシーンを、どきっとするほど色っぽく撮ったり。
「ラブシーンだ!」という感じで撮らなかったので、そこが今までにない新しいロマンポルノになったと思います。

©2022日活

――演じられたおふたりは、ラブシーンを演じる上で意識した点などはありましたか?

福永 気負いとかはなかったですね。

金子 さっぱりしてましたね(笑)。ただ、意識したのは感情よりもどう見えるかということ。カメラにちゃんとおさめないといけないので、表情が見えるように髪の触り方を意識したり、そこは何度もリハーサルして確認しました。

福永 手の置き方とかをリハーサルで何度も確認したからこそ、私は感情に任せて演じられるシーンもありました。冷静な視点と感情的な芝居、半々くらいだった気がします。

――ロマンポルノと言われなければ、純粋に20代の男女の繊細な心の動きをとらえた上質なラブストーリーとしても楽しめます。どんな人に届いてほしいと思いますか?

松居
今この時代に、この世界に生きている人に見てもらいたいです。男とか女とか、性別で対象をくくりたくなかったし、全性別に向けた映画だと思っています。それがすなわち、愛についての映画だと思いますから。

©2022日活

――ロマンポルノが作られていた70〜80年代と今とでは、性に対する意識にも違いがあると思います。

松居 実はロケで使わせてもらう物件を探すのにめちゃくちゃ苦戦したんです。50〜60代の方に「ロマンポルノの撮影で使いたいんです」というと、「そんな撮影には貸さないよ!」みたいに言われてしまって。逆に20〜30代の方だと「あ、面白いっすね、どうぞ」となる。ロマンポルノに対する価値観が全然違うんだなと思いました。それはもちろん世代の違いだと思いますし、性別や環境によっても受け取られ方は違うなと思いましたね。

福永 私自身は、この作品がロマンポルノであるということはそれほど意識しなかったんです。純粋に、この物語の中で生きるということだけ考えて撮影しました。ただ、ロマンポルノに触れてくれる人が増えて欲しいという思いはもちろんあります。きっと先入観で避けてしまう人もいると思うのですが、見てから判断するのと、見ずに避けるのとは違う。認めるとか気に入るというところまでいかなくても、「こういうジャンルがあるんだな」と、知っておくだけで世界は広がると思うんです。この作品が、世界を広げる間口になればいいなと思います。

出演作を待ちわびる映画スター

――「ロードショー」は1972年に創刊された映画専門誌です。時代を象徴する映画スターを数多く取り上げてきた歴史がありますが、みなさんにとっての映画スターは?

松居 ライアン・ゴズリングですかね。

金子 大好き!

松居 彼が出演している作品は、映画を見にいくというよりも、ライアン・ゴズリングを見にいくみたいな気持ちがあります。好きな映画は『ラースとその彼女』(2007)。でも『ブルーバレンタイン』(2010)もやっぱりいいな。同じ人のはずなのに、映画の中で全然雰囲気が違って見えて、この人面白いなって思いました。

金子 目がいいですよね。

――演出してみたいと思いますか?

松居 ああー、してみたいっすね!

金子 オファーしてみてください(笑)。

福永 私は高峰秀子さんがすごく好きです。木下恵介監督や、成瀬巳喜男監督の作品に何度も出演されていて。これだけ同じ監督に何度も「一緒にやろう」と言ってもらえるのは、お芝居はもちろん、人柄の良さも絶対にあったんだろうなって思って。スターだなと思いますね。特に好きなのは『カルメン故郷に帰る』(1951)。すごくチャーミングだし、主人公の自由に生きている感じがすごく可愛らしかったです。

金子 僕はベネディクト・カンバーバッチかな。『ホビット』(2012〜2014)シリーズでドラゴンを演じていて、メイキング映像を見たことがあるんです。顔にモーションキャプチャーの印をつけて、床に腹ばいになってすごい形相でお芝居をしていて。この人、ものすごいなと思いました。

松居 僕、ちょっと変えていいですか。やっぱりジム・キャリーにします(笑)。コメディができてシリアスな演技もできるのは、やっぱり映画スターですよね。あとはジョナ・ヒルも好き。

福永 あ、私はアーミル・カーンも好きです。

松居 『きっと、うまくいく』(2009)のね。

福永 1年に1回くらいしか役を引き受けないそうなんです。その分、1年くらいかけて役の準備をするみたいで。彼が出演する作品は絶対に面白いから、インドの人たちは出演作を楽しみにしているそう。それこそスターだなって。

松居 そうだよね。そういう意味で言ったら渥美清さんだって。

金子 渥美さんはスターですね! あと田中邦衛さんも大好きです。もう、挙げだしたら止まらないですね(笑)。

『手』(2022) 上映時間:1時間39分/日本

中年男性の写真を撮ってはコレクションするのが趣味のさわ子(福永朱梨)は、これまで付き合ってきた男性も年上ばかり。それなのに、なぜか父親とはうまく話せず、ぎくしゃくとした関係が続いていた。そんな彼女が、同年代の同僚・森(金子大地)との距離が縮まっていくにつれて、次第に心境に変化が訪れる。山崎ナオコーラの小説を原作に映画化。

9月16日(金)より全国順次公開
©2022日活
配給:日活

松居大悟
まつい だいご
1985年11月2日生まれ、福岡県出身。劇団ゴジゲン主宰。主な監督作は『アフロ田中』(2012)『ワンダフルワールドエンド』『私たちのハァハァ』(2015)『アズミ・ハルコは行方不明』(2016)『バイプレイヤーズ』シリーズ(2017〜2021)『くれなずめ』(2021)『ちょっと思い出しただけ』(2022)など。

福永朱梨
ふくなが あかり
1994年12月7日生まれ、広島県出身。主な映画の出演作は『君の膵臓をたべたい』(2017)『彼女はひとり』(2018)『君は月夜に光り輝く』(2019)『本気のしるし』(2020)『LOVE LIFE』(2022)など

金子大地
かねこ だいち
1996年9月26日生まれ、北海道出身。主な出演作はドラマ『おっさんずラブ』(2018)『腐女子、うっかりゲイに告る。』(2019)『鎌倉殿の13人』『魔法のリノベ』(2022)、映画『猿楽町で会いましょう』(2021)『サマーフィルムにのって』(2021)『先生、私の隣に座っていただけませんか?』(2021)など。

取材・文/松山梢 撮影/小田原リエ ヘアメイク(金子さん)/Taro Yoshida(W)スタイリスト(金子さん)/千野潤也(UM)

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