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史上初となる漫画家国会議員・赤松健が実践したい“漫画外交”が成し遂げるもの

集英社オンライン / 2022年9月19日 14時1分

選挙期間中に安倍晋三元首相が凶弾に倒れるというショッキングな事件も起きた第26回参議院議員選挙。お笑いタレント・水道橋博士氏や、暴露系ユーチューバーの「ガーシー」こと東谷義和氏など、今回も話題性に富んだ面々が比例区にて立候補した。そんな彼らを抑え、比例区トップで当選を果たしたのが、自由民主党所属の漫画家・赤松健。漫画家である彼が国政で目指すものとは?

TVアニメ、劇場版アニメ化もされた赤松先生の代表作『魔法先生ネギま!』は、海外でも高い人気を誇る

1998年に連載開始、2000年にはTVアニメ化もされた『ラブひな』を皮切りに、『魔法先生ネギま!』『UQ HOLDER!』と連載コミックが立て続けに大ヒットした赤松健。自著コミックスの発行部数は全世界で累計5000万部超を記録する。



つまり、過去によくあった、食い詰めたフリーランスが政治家に転身したわけではなく、「国際的に名が知られている現役漫画家」という社会的ポジションを獲得した上に、さらに “日本初のストーリー漫画家出身政治家”として歴史に名を残すことになったのだ。そんな赤松氏に漫画家という天職を小休止してでも政治家の道を歩もうとした理由を語ってもらった。

比例区全国トップとなる52万8053票の原動力とは

初出馬で比例区全国トップの約53万票という結果を導き出せた要因は、自身でも「わからない」と言う。

「特定の支持団体があれば、票数がある程度読めるんですよ。でも、漫画家の僕の場合はそうではなかったので、まるで票数が読めなかった。すごい不安でしたし、選挙の途中でそんなに良い状況じゃないっていうのは、なんとなく理解していて。

実は当初、100万票を目標にしていたんです。“#赤松健100万票プロジェクト”という公式応援ハッシュタグがあったんですけどメディアの情勢調査などで、『とてもそんな得票数はとれないどころか、当落選上にいる』という状況が判明し、途中で取り下げたんです。振り返っても、これは本当に恥ですね。

でも、取り下げた時に『あ、赤松、本当にやばいんだ』って、みんなが思ってくれたみたいで、その後、すごく支持率が伸びたんです。こういう動きが積み重なってウェーブができて、波の最上部にいた時に、タイミングよく選挙日が来たって感じがします」

そういって微笑んだ赤松氏だが、少し厳しい顔をしてこう続けた。

「確かに比例区でトップ当選しましたが、あくまでも投票結果だけですから。これは本当にすぐ崩れる砂の城。しっかり結果を出さないと離れていってしまう数字だと思っています」

そう謙遜した赤松氏だが、女性アイドルグループ、元SPEEDの今井絵理子氏や片山さつき氏といった、同じ自民党の比例区出馬の先輩議員よりも高い得票数を獲得。このことは、2016年6月より適用された「18歳選挙権」が大きく関わっていると感じる。

「何をやっているのかわからない政治家」よりも、「ネットで話題になっている人」や「見たことのあるアニメの原作者」「いつも読んでいる雑誌に連載していた作家」の方が身近に感じられる世代やサブカルファン。彼らに向けたSNS上での選挙活動が、功を奏したと言えるだろう。

参院選最終日にTwitterに投稿された「最後のお願い」。この動画に心動かされ、赤松議員に一票を投じた有権者も少なくなかった

漫画家の“表現の自由”を勝ち取るために

日本初の漫画家出身政治家となった赤松氏だが、なぜ漫画家として順風満帆であるのに、政治家を目指すようになったのだろうか?

振り返れば、2012年10月に公益社団法人日本漫画家協会に入会し、2018年6月には常務理事に就任、この頃から衆参議員会館通いをしていたという。

「いわゆるロビイング(政治家に対して行われる陳情)っていうやつですね。特に重点を置いていたのが『表現の自由』です。出版社とタッグを組んで、児童ポルノ禁止法改正案の中に創作物を入れようという改正法案について抵抗していました」

実在する児童の保護が目的のはずなのに、実在の被害者のいない漫画、アニメ、CGなども規制しようという方向に向かっていた児童ポルノ禁止法改正案に対し、漫画家など多くのクリエイターが「3次元と2次元の区別はついている」「2次元の児童ポルノはあくまでもファンタジーだと書き手も読み手もわかっている」として、漫画雑誌の誌面やネットで、反対の声をあげていた。

その結果、2014年の参院本会議では、創作物である二次元の児童を除外した改正案が可決されたことは記憶に新しい。赤松氏らのロビイ活動が成果を上げたのだ。

つい最近も、「献血キャンペーンのポスターに採用された漫画のキャラクターが巨乳すぎる」「アニメキャラクターのスカートのシワが性的」などと、ネットの炎上対象となっていたサブカルチャーコンテンツ。それに対して「どうしてそういうイラストになったのか」を理路整然と説明する漫画家は少なく、表現の自由を守ることより、創作活動が第一というクリエイターの方が多い印象があることも否定できない。

「おっしゃる通り、『自分の好きなものを描いているだけで幸せ』という仲間は多いですね。そういう仲間が、議員会館まで表現の自由の重要性について、国会議員に説明しに来るっていうのは、なかなかハードルが高いですよ。だから私が主にやってきた、というのは確かにあります。

そもそも私は、編集者になりたかったんですよ。漫画だけ描きたいっていうよりは、漫画を通して誰かの才能を売るとか、発掘するというのをむしろやりたかった方だったので、ロビイ活動にはもともと向いていたかもしれないですね」

長らく漫画業界を悩ませている問題がある。「海賊版」の存在だ。違法にスキャニングした漫画を読むことができる海賊版サイトは、巨額の広告収入を目的に運営され、日本の法律の手が及ばない第3国のサーバー上で運営されおり、その取り締まりは、お手上げ状態だ。

「海外の海賊版サーバーを停止させるためには、議員外交で現地に赴かないと向こうの警察もわざわざ動かないなと思ったり、漫画の連載をやりながらロビイ活動をしているのではもう間に合わないっていう段階にきたんですよね。もう待ったなしの状態です。『ロビイストではなく、本物の議員になってやっていかないとだめだな』とうことになって、立候補しました」

見事初当選した赤松健・参議院議員。売れっ子漫画家として週刊連載を抱えつつ、公益社団法人日本漫画家協会の常務理事としても、海賊版対策や著作権法改正、表現の自由について国会ロビイングや政党ヒアリングに参加し、何年もクリエイターとユーザーの権利を守ってきた

漫画家系政治家の考える外交とは?

政治家となった赤松氏がメインに据えたいと考えている活動。それは「漫画外交」だという。

フランスでは、2009年には『ベルサイユのばら』で知られる漫画家・池田理代子氏に、レジオン・ドヌール勲章を授与するなど、他国のサブカルチャーにも最大級の敬意を払う文化がある。アメリカでも日本の「漫画」と、それを生み出す「漫画家」の社会的地位は、向上の一途を辿っている。

「フランスでは、2000年から日本文化の総合博覧会・ジャパンエキスポが開催されているのですが、2015年にオフィシャルゲストとして呼んでいただいているんです。あちらのファンの熱量は本当にすごくて、『「魔法先生ネギま!」の終わり方が中途半端なのはなぜか』とか多くの方が質問してこられて、もうビックリですよ(笑)。この知名度を外交に役立てたいと思っています」

かつて、プロレス界の大スター・アントニオ猪木が国会議員の時代に、その国際的なネームバリューによって、湾岸戦争時のイラク在留邦人人質解放に多大な貢献をしたように、日本で唯一、「国際的に人気の高い漫画家」と「国会議員」の二足のわらじを履く赤松氏だからこそ可能となる「漫画外交」がある。たとえば、文化大臣など高官の目前で自身のキャラクターイラストを描く「ライブペインティング」などを通じて、日本の漫画の文化価値の向上などに貢献するといったことにも期待が高まる。

「ウクライナで暮らす漫画家さんが『早く平和になって欲しい』って言っていたんですよ。『平和じゃないと漫画は描けないし、読めないよね』とか『漫画の力で世界平和を成し遂げたいよね』という思いで、世界がまとまる。そういったものが、私の目指す漫画外交のひとつなんですね。

絵を描ける人じゃないとできないこと、そして漫画家で政治家の私だからこそできることがわかってきたので、それを生かしてやっていきたいです。実は早速、9月にフランスに行く予定があるんです。とりあえずこの1年、私としてはしっかりと実績を上げるつもりなので、ぜひ見守っていただきたいです」と胸を張った。

刻々と変化する社会そして国際情勢の中、大好きな「日本のサブカルチャー」を守るため、そして「自らにしかできないこと」を見つけた彼だからこそ成し得るであろう未来を、52万8052票を投じた有権者と共に見守っていきたい。

漫画家ならではの活動として、Twitterにて国会レポート漫画『赤松健の国会にっき』も連載中(月・水・金曜に更新予定)

取材・文/中村実香

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