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鼻骨骨折もサウナで止血…鳥谷敬“バットマン”誕生秘話

集英社オンライン / 2022年9月24日 14時1分

遊撃手としては歴代1位となる667試合連続フルイニング出場。そんな輝かしい記録もあって「鉄人」の異名も持つ元阪神の鳥谷敬氏だが、現役時代は数々のケガとの戦いがあった。誰にも言わなかった苦悩を初めて明かした著書『明日、野球やめます 選択を正解に導くロジック』より一部抜粋、再構成してお届けする。

肋骨骨折を隠して試合に出場したことも

プロ4年目となる2007年。遊撃手のレギュラーに定着、7月には当時の遊撃手としての連続試合フルイニング出場記録も更新、その後もフルイニング出場を続けている最中だった。9月25日の横浜戦で受けた、右わき腹への死球。試合後に病院へ駆け込んだところ、肋骨の骨折が判明した。

チームは8月後半からの10連勝で、最大12あったゲーム差を逆転し、一時は首位に立ったものの、9月半ばから失速。優勝には手が届かなくなったという状況のなか、遠征先のホテルで岡田監督に呼ばれた。



「どうする?」
「クライマックスシリーズには間に合うか?」
「連続試合出場は続けよう」

そんな内容の話だったと記憶している。結局、9月29日の広島戦で途中交代し、フルイニング出場は398試合でいったん途切れたものの、シーズン終了まで肋骨骨折の事実は明かさず、試合に出場し続けた。

2010年5月8日には、甲子園で遊撃後方への飛球を追って、中堅手のマット・マートンと交錯し、腰椎を骨折。2011年5月15日には、初回の守備でゴロを捕球しようとした際に、アクシデントに見舞われた。ボールが人さし指を突くような形になり、右手人さし指爪床裂傷。爪がめくれあがって、骨まで見えるような状態だった。

この試合は打席に入ることなく交代。幸いにもその後の日程がセ・パ交流戦だったので、指名打者や代打などで出場を続け、なんとかボールが投げられる状態になるのを待つことができた。

2015年6月21日にも死球を受け、再び肋骨を骨折。この時は打順を1番、3番から、6番や7番に下げてもらって、回復させながら試合に出ているという感じだった。

骨折は、痛みを我慢しさえすれば、また同じ場所にボールでも当たらない限り、日に日によくなっていく。だいたい1か月ほど経つと、痛みがフワッと消えてなくなるような感じだ。むしろやっかいなのは、肉離れなどの筋肉系のケガ。

一度、わき腹を肉離れした時は、本当に大変だった。ファウルを打った際に違和感があり、その打席でヒットを打って一塁へ走る間に激痛が走った。完全にやってしまったな……と思ったが、もうどうすることもできない。肉離れは日が経つにつれてよくなるとは限らず、下手をすると悪化してしまう場合もあるので、思いきった動きをするのが怖くなるのだ。あまりの痛みに、1打席1スイングと決めながら試合に出ていた時期もあったぐらいだ。

“バットマン”誕生秘話

最大の危機は、2017年5月24日。甲子園で、読売ジャイアンツとの伝統の一戦。5回裏1死三塁の場面で打席に入った。マウンド上には吉川光夫投手。144キロのストレートが顔付近に向かってきた。

「あれ? 鼻が……」

当たった感覚はなかったが、その場にうずくまって、しばらくは動けなかった。鼻から血が滝のように滴り落ちてくる。ベンチから監督やトレーナーが駆け寄ってきて、心配そうにのぞき込まれる。

意識ははっきりしていたが、顔を覆ったタオルが信じられないくらいのスピードで真っ赤に染まっていった。鼻骨骨折。振動による痛みはある。だが、肋骨の骨折に比べると動き的には問題がなさそうだったので、トレーナーに「なんとか試合に出る方法はないか」と相談した。

その結果、万が一、同じ場所にボールが当たってしまうと大変なことになるので、患部を固定する黒いフェイスガードをつけることとなった。2002年、サッカーの日韓ワールドカップ開幕直前。当時、日本代表のキャプテンだった宮本恒靖さんが、鼻を骨折されて、ゴーグルのようなフェイスガードをつけたまま試合に出ていたのを覚えている方もいると思う。このフェイスガードと同じようなものを作ってもらうことになった。

ただ、どんなに早くても作るのに5時間はかかるという。翌朝7時に家を出て、型を取ったのが8時半。午後になり、できあがったフェイスガードを装着し、問題がないことを確認する。グラウンドに到着したのは、全体練習が始まる直前だった。

読売ジャイアンツの高橋由伸監督、吉川光夫投手から謝罪を受けた。打席に立っていて、わざとではないことはわかっているので、吉川投手には「気にしなくていいよ」と伝えた。さすがに先発メンバーからは外れて、この日は代打での出場。恐怖心を振り払おうと思って、初球から振っていった。三塁ゴロに倒れたのだが、いつも以上に大きな声援をいただいたことを覚えている。

ただ、痛みはもちろんのことだが、ボールが当たった衝撃で鼻の中が切り傷だらけになり、鼻血が止まらない。寝る時も痛み止めの麻酔を染み込ませた脱脂綿を鼻に入れたまま止血しないといけないような状態だった。鼻で息ができないので、苦しくて眠ることができない。

3日ほど経っても、まだ鼻の周りや上唇のあたりがパンパンに腫れている。担当医からは、代謝が上がると余計に血が出るから……と止められていたのだが、いっそのこと全部血を出しきってやろうと思い、無理やりサウナに入った。これがよかったのかどうかわからないが、結果的にはその後、出血も止まり、腫れもひきはじめた。

写真/共同通信社

明日、野球やめます
選択を正解に導くロジック

鳥谷 敬

2022年6月24日発売

1,650円(税込)

四六判/224ページ

ISBN:

978-4-08-781722-5


プロ野球界屈指の遊撃手として、阪神タイガース・千葉ロッテマリーンズで活躍し、2021年シーズンをもって引退した鳥谷敬、引退後初の著書。

「40歳まで遊撃手を守る」「試合に出続ける」という目標をみごとに体現したプロ野球人生18年間。
NPB歴代2位の1939試合連続出場、遊撃手としては歴代1位となる667試合連続フルイニング出場という輝かしい軌跡を辿るとともに、誰にも言わなかった苦悩の日々を初めて本書で明かします。
さらに、プロ野球という個性派集団の中で“ポジション”を守り抜いた著者ならではの思考・発想も紹介!

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