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ゲームの沼に堕ちてペットボトルに排尿、体重20キロ減…子供たちが抱えるゲーム・ネット依存の闇

集英社オンライン / 2022年9月24日 18時1分

急速にネット社会が進化し、世界中でオンラインゲームの市場規模が拡大する中、ゲームやネットにハマり、日常生活に支障を来す子供たちが増えている。課金で金銭を費やし、時には健康を蝕む…なぜ、子供はゲーム・ネット依存に陥るのか? そこにはひとつの共通点が浮かび上がる。

3年間ゲーム漬けで体重40キロに…

ゲーム・ネット依存の疑いのある中高生は、全国で93万人、およそ7人に1人とされています。

出典:厚労科研報告書2019 (独)国立病院機構 久里浜医療センターより

ただし、これは2017年に厚生労働省が発表した数字であって、コロナ禍を経た現在は、大幅に増加していると推測されています。あるゲーム依存の子供は次のように話しています。



「3年間家に閉じこもってゲームだけしていました。僕としてはただ遊んでいただけって気持ちでしたが、気がついたら体重が40キロくらいまで減っていて、歩けないほどになっていたんです。トイレに行こうとしたら途中で倒れて、その時に親に119番されて病院へ運ばれました。医者の話ではおそらく何か月も前から栄養が足りない状態がつづいていて、死の一歩手前までいっていたみたいです」

時として、ゲーム依存は子供を死の淵まで追いつめます。それだけ深刻な問題にもかかわらず、ゲーム・ネット依存の本質はほとんど知られていません。

私は拙著『ルポ 誰が国語力を殺すのか』(文藝春秋)で、ゲーム・ネット依存が、なぜ起きて、子供をどのように追いつめるのかを明らかにしました。そこからヒントになることを記したいと思います。

ゲーム・ネット依存と言っても、厳密にはそれぞれ異なるものです。ゲーム依存は男子に多く、文字通りゲームに没頭して課金等をしてしまう状態を示し、ネット依存は女子に多く、SNSなどを通して投げ銭等にはまる状態です。

では、どこからどこまでを「依存」と呼ぶのでしょうか。

家庭や学校に問題を抱える子供がハマりやすい

実は、1日に何時間やっていれば依存というふうに、利用時間で線引きされるものではありません。医療機関の簡単診断(インターネット依存度テスト)を受けていただければと思いますが、大まかに言えばゲームやネットにのめり込むことで、次のように日常生活に支障が出る状態を示すのです。

・学校、習い事、バイトに行かなくなり、ゲームをしている。
・家族や友人とのコミュニケーションが激減する。
・多額の課金をしてしまう。
・食事や運動をしなくなり、体調が悪化する。


ゲーム・ネットの優先順位がリアルよりも上回ることで問題が生じる状況です。時に、子供はそれらにのめり込むあまり、食事や入浴さえしなくなることがあります。ひどい場合は先の例のように生命にかかわる事態にもなりかねません。

また、脳に及ぼす次のような悪影響も指摘されています。

・前頭前野の機能低下
・ゲーム、ネットへの過剰反応
・ドーパミン受容体の減少による報酬欠乏症
・脳細胞の破壊


脳機能まで破壊するのが、ゲーム・ネット依存の恐ろしさなのです。なぜ、子供はゲーム・ネット依存に陥るのでしょう。誰もが依存症になる可能性がありますが、重症の子供たちに会っていて感じるのは、少なくない者たちが家庭や学校などに何かしらの問題を抱えているということです。

ひとつのケースを簡単に示しましょう。

現実逃避の手段としてゲームに依存

A君は比較的裕福な家庭で一人っ子として生まれ、親に溺愛されて育った。頭もよく、スポーツも得意だった。ところが、中1の時に、父親が事件を起こして逮捕されてしまう。

父親はそのまま家からいなくなり、母親とともに小さなアパートに移り住むことになる。A君は一生懸命に働く母親を支えようと、洗濯に料理にとがんばって励んだ。自分が父親代わりにならなくてはと考えていた。

しかし、中2のある日、母親が見知らぬ男性を家に連れてきて、「お母さんの恋人だから」と紹介してきた。60代で祖父ほどの年齢差のある人だった。

男性は頻繁に家にやってきては、A君に対して「勉強しろ」「片づけをしなさい」などと言って父親のように振舞った。時を同じくして、学校でも同級生から「オヤジが逮捕されたんだろ」と言われていじめが始まる。

A君は家庭でも学校でも居場所を失い、部屋に閉じこもってゲームにのめり込んでいった。その時間はどんどん長くなっていって、日に2、3時間の仮眠をとる以外はずっとゲームをしていた。

彼の言い分としては、オンラインで他のユーザーとつながっているので自分だけ抜けることができなかったのだという。ゲームの中で必要とされていることが自分の存在意義になっていたのだ。

それで、トイレに行く時間さえも節約するためにペットボトルに用を足していた。

中学3年時はほとんど登校しないまま卒業。進学した定時制高校もすぐに中退し、ますますゲームにのめり込んでいった。こうした生活が祟ってA君の体重は20キロも落ち、栄養失調状態に陥った。そうして母親に連れられて緊急入院することになった――。

「ゲームしている時だけは、嫌なことを忘れられる」

かなり重篤な例ですが、どのような問題を抱えた子供が依存症になるのかがわかるのではないでしょうか。ゲーム依存の当事者の言葉です。

「ゲームしている時だけは、嫌なことを忘れられるんです。もう何も考えなくていい。だから、そっちの世界の方が居心地が良くなって、自分の居場所になる。そうなると、リアルの世界で何を失おうと、困ったことになろうと、どうでもよくなるんです」

依存症は「孤立の病」と呼ばれています。心にぽっかりと穴が開いた時、それを埋めようとして何かに没頭する。ゲーム・ネット依存の場合、現実から二次元への逃避なのです。それを容易にしているのが、ゲームやネットの持つ中毒性です。これらの商品には、ユーザーを没頭させる数々の仕組みが施されています。

あらゆる端末で楽しめる利便性、物語のアップデートで半永久的に楽しめる持続性、眠気を吹き飛ばす激しい音や振動、景品をもらえるガチャ、プッシュ通知、オンラインユーザーからの誘い……。

こうしたトラップ(罠)のような仕組みが、無自覚のうちに子供たちを二次元の世界へ引きずり込んで、抜け出せないようにしているのです。大前提として申し上げておきますが、私はゲームやネットが絶対的に悪だとは思っていません。使い方によっては、良い気分転換になるし、コミュニケーションをより円滑にする効果もあるでしょう。

私が問題だと考えているのは、先の例の子供のように、リアルの空間に居場所を失った子供たちが、現実逃避として二次元の世界に逃げ込み、そこで知らず知らずのうちに金銭から健康まで多くのものを奪われている事態です。

社会的に弱い立場にある子供の方が依存になりやすい

日本には、依存症の子供たちを治療する医療機関が数多くできています。そのうちの1つである高嶺病院(山口県)の佐々木順院長は、拙著での取材に次のように語っていました。

「(ゲーム人気に拍車をかけているのは)昨今の社会状況があります。五輪にeスポーツを競技として組み込もうとする動き、プロゲーマー養成コースを設置する専門学校、文化人やユーチューバーがゲーム実況などで多額のお金を稼いでいる実態。子供たちの目には、ゲームの素晴らしい面しか映っていないのです。

私はゲームを完全悪だと言いたいのではありません。ただ、たとえば東大を卒業して実業家となって、宇宙事業までやっている堀江貴文さんがゲームをやっているのと、ネグレクト家庭でゲーム依存になってご飯も食べられないようになった子がやっているのとでは意味が違いますよね。これはきちんと切り分けて考えなければならないものだと思っています」

この病院で行われているゲーム依存の子供に対する取り組みについては、拙著をお読みいただければと思います。

本記事で指摘したいのは、社会的に弱い立場にある子供の方が依存になりやすいのであれば、社会の側がきちんとその実態を把握し、何でもかんでもいいよと肯定しないこと。困難な子供がより大きな困難を抱えないように、何をしなければならないのかということを、広く議論する必要があるということです。

これだけ依存症の子供が増えている今、良い悪いの二元論ではなく、どうするべきかという有意義な議論が社会全体で行われることが求められていると言えるでしょう。

取材・文/石井光太

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