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「なぜナイキはスニーカーバブルで一人勝ちできたのか?」10年で時価総額約4兆円から約16兆円に成長できた理由

集英社オンライン / 2022年9月22日 18時1分

手取り14万8千円のサラリーマンから300万円を元手に約400億円のスニーカー店を作った男が明かす、スニーカー市場で一人勝ちを続ける「ナイキ」の魅力とは!? 『SHOE LIFE「400億円」のスニーカーショップを作った男』(光文社)より一部抜粋・再構成してお届けする。

スニーカーは「バブル」か「貨幣」か?

なぜスニーカーはカルチャーや文化と呼ばれるのか。

僕は文化を、生活の中で生まれ、使われる茶碗やコップといった民藝品が象徴していると考えている。「民藝」とは思想家の柳宗悦が作った言葉で、それまでただの道具にすぎなかった工芸品に生活で使われることの美しさを見出し、そう名付けた。日常に密着し、日常で使われるものであること。民藝品には、作り手の思いや、それを使う個人の思いが日々重なり合って文化ができている。



スニーカーにもそういった側面がある。元々スポーツ用に使われていたものが、生活の場に出て、新たな一面が見出されていく。憧れのスポーツ選手が履いていたスニーカーを街で履くことで自分を少しその選手に重ねてみることだったり、成功したラッパーの象徴として自分もその一員になったかのようにそのスニーカーを手に入れたり……。日常生活の中にストーリーや魂が宿り、積み重なって、初めて文化となる。

そして、スニーカーの値段も鍵だろう。高校生や大学生でもお年玉やバイト代で買えるぐらいの値段。数千万円する車や数百万円する時計が二次市場で倍やそれ以上の値段になっても、誰でも買えなければカルチャーとしては根付かない。

これには投機的なお金の流れも影響している。2008年のリーマンショック以降、金利引き下げによる金融緩和で、世界中でお金の量が増えた。お金の量が増えると、銀行の金利が下がり、人々は投機対象を探し始めた。文化という信用を持ち、市場規模もあるスニーカーはうってつけだったわけだ。金融緩和によって、アメリカをはじめとした株式市場は高騰し、大金持ちは車やパテック フィリップに、ほどほどのお金持ちはロレックスに、そして若者はスニーカーに投機し始めた。

「資産」としてのスニーカー

スニーカーは最も身近で手ごろな「資産」になった。それはまるで、17世紀に起きたオランダのチューリップ・バブル(記録に残された史上初の投機バブル)そのものだ。チューリップ・バブルは、オランダ独立戦争が収束に向かい、経済が活発化してきたときに、珍しい花びらを持つチューリップの球根が高値で取引されるようになったバブルである。

転売屋と化した商人たちが値上がりを見込んで球根を大量に仕入れるようになり、一般人も巻き込んで投機熱が高まっていった。人々は土地や宝石、家具などと引き換えにしても球根を手に入れようとしたという。球根一つで家が建ったという話もあるほどだ。

現代でも、「メルカリ」をはじめとするフリマアプリや、プロの鑑定士による鑑定証明付きのスニーカー売買サービスが続々と立ち上がり、誰でも自由に簡単に、スニーカーを個人間で〝買って売る〟、取引市場が確立した。インターネットで調べれば、どのスニーカーが高くなるかの予想はつく。

ちょっとした背取りの知識さえあれば、誰でも転売に参戦できる〝1億総転売屋時代〟の幕開けである。スニーカーはできるだけ定価で買って、それを高く売る時代。並行輸入バイヤーか国内バイヤーかの違いはあれど、僕に言わせれば、〝1億総チャプター化〟とも言える。

2015年前後から今に続く、世の中はまさに、「スニーカーバブル」へと突入した。ナイキが発売日の間隔を極端に狭め、次から次へと発売することで、熱狂のボルテージを上げていった。以前は文字通り、希少価値が高いという意味で使われていた「レアスニーカー」は、熱狂する・興奮するという意味のスラングである〝ハイプ〟を用いて、「ハイプスニーカー」と呼ばれるようになり、二次市場で高いか安いかが人気のバロメーターを表す要素となっていった。

これがバブルになるのか、この先も続く傾向になるのか、正直なところ僕にも分からない。ただ、もしこの熱狂が続いていくことがあれば、その先には、スニーカーが「貨幣」になる未来が来るかもしれない。

スニーカーバブルの王者・ナイキ

このスニーカーバブルで一番成功したのはやはりナイキだろう。時価総額の上がり方を見れば一目瞭然。2011年ごろは400億ドル(約4兆円)前後だった時価総額は、現在1400億ドル(約18兆円)規模まで伸びている。アディダスの現在の時価総額は320億ユーロ(約4兆円)だから、恐ろしいほどの一人勝ちだ。

僕は魅力的なスニーカーを発信し続ける、その開発力がナイキの強みだと思っているが、その開発力の源泉を垣間見た出来事があった。2018年、ナイキの経営陣が小売店の意見を経営戦略に反映させるべく、「T32」を集めてアメリカでサミットを開催した。

ナイキは世界のアカウント(正規卸先の小売店)の中からトップティア(ランキングの階層)を選び、その32のトップアカウントを総じて「T32」と名付けていた。そこにはアトモスの名前もあった。

発売前のサンプルが並べられた会場で、小売店の代表者たちが意見を述べていくのだが、アメリカのアトランタを拠点とするスニーカーショップ「ア マ マニエール」のオーナー、ジェームズ・ホイットニーが、新作の「エア ジョーダン」シリーズを見た瞬間、「こんなの売れねぇよ」と放り投げたのは衝撃だった。

「こんなに素直に、忖度なく本当のことを言えるやつがいるのか」。僕も忖度はできないタイプで、悪口は言わないけど、メーカーの売り出し方が悪いとか、売れそうにないとか、アトモスのYouTube なんかでもはっきり言っている。たまにメーカーから怒られることもあるけど、結局、メーカーの言う通りにやっていたら商売は長く続かない。おべっかを使ってもお客さんをだますことはできないし、お客さんを裏切ることになるからだ。

ナイキは、そういった忖度のない声を本当に欲していたし、マーケットを本気で取り込もうとしていた。耳の痛い情報でもプラスになるならしっかりと聞く。僕らを尊重して自由に意見させてくれるこの姿勢が、商品力を支える要因の一つなのだと実感した。

SHOE LIFE(シューライフ) 「400億円」のスニーカーショップを作った男

本明秀文(光文社)

2022年9月22日

1760円(税込)

単行本(ソフトカバー) 212ページ

ISBN:

978-4-344-03977-3

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