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自分のことしか考えないエリートは有害以外の何ものでもない―成功や競争のために勉強してはダメな理由

集英社オンライン / 2022年9月23日 14時1分

「学び」がトレンドとなっている昨今。『嫌われる勇気』でもおなじみの哲学者・岸見一郎は「学ぶことに目的はいらない」という。近著の『ゆっくり学ぶ 人生が変わる知の作り方』から一部抜粋・再構成してお届けする。

競争のために学んではいけない

人生は他者との競争ではない

学ぶことに目的を設定し、その上、他の人と競争する人がいます。そのような人は、例えば、大学受験を競争だと見ます。しかし、受験勉強が競争であるかは自明のことではありません。
受験に限らず、多くの人が人生を競争と見ています。幼い頃から何でもかんでも競争させられるからです。それほど競争はありふれたことですが、だからといって、競争することが当然ということにはなりません。



今の世の中、競争することは当たり前のように考えられています。アドラー心理学者のリディア・ジッハーは「競争はありふれたこと(usual)ではあるが正常(normal)ではない」「人間は協力し貢献するものであって、生まれながら協力の感覚を持っている」といっています(The Collected Works of Lydia Sicher)。子どもたちをほめたり𠮟ったりして育てると、親が必ずしも意図していなくても、子どもたちを競争させることになってしまいます。
もしも親が勉強ができることに価値があると考えていれば、子どもの成績がよくなければ𠮟るでしょうし、成績がよい子どもをほめます。そのため、きょうだい間に競争関係が生じます。最初はどの子どもも勉強しますが、兄や姉があまりに優秀であれば、勉強では勝てないと思って勉強しなくなることがあります。
勉強が好きな子どももいれば、そうでない子どももいて当然ですが、勝つために勉強するのも、勝てないとわかったら勉強しないというのもおかしいのです。もちろん、誰もが勉強しなければならないわけではありません。スポーツや芸術で力を発揮する子どももいます。そのような子どもも秀でるためには、学校の勉強とは違った意味で勉強する必要がありますが。

受験を他者との競争であると考える人は、試験でいい点数を取ることしか考えません。しかも、大学に進学するのは、何かを学ぶためではありません。卒業後の就職のことを考えているのです。よい成績を取れば就職できるでしょうが、卒業しなければ就職もできないので、単位をいかに効率的に取るかを考えます。
大学に入る時も、とにかく、大学を受験して合格しなければその後の人生設計を立てられないので、法学部であれ経済学部であれ片っ端から受験して、合格した大学によってその後の人生を考え始める人がいます。しかし、法学部に行くのか経済学部に行くのかでは、その後の人生が大きく変わってくるはずですが、そんなことも考えない人は多いように見えます。

このような選択の仕方は非常に現実的であるともいえますが、自分の人生なのに、それを自分でどう生きたらいいかわからないというのでは心許ないといわなければなりません。
たしかに、大学で学んでみたいことがあっても、入学試験に合格しないと何を学ぶかを考えても意味がないという人はいるでしょう。そもそも、何かを学ぶために大学に進学する人がどれだけいるでしょうか。何かを学ぼうというよりは、大学卒業後にどんな仕事に就くのかということを考えて大学を選ぶ人の方が多いかもしれません。

仕事のことも考えず、有名大学であればどの学部に進学してもいいと考える人もいます。有名大学に入りたいがために受験した大学に合格できず、結果的に何年も空費してしまう人は多くいます。
受験となると定員が決まっているので、それを上回る数の人が入学試験に臨めば、少しでもいい点数を取らなければ合格できません。そこで、受験は他の人との競争だと考えるのですが、競争以前に知識を身につけなければなりません。その段階での学びは他者との競争は関係ありません。

競争に囚われると自分に執着する

さらに問題は、学ぶことを競争と結びつけると、とにかく、結果を出しさえすればいい、そのためには他の人との競争に勝たなければならないし、競争に打ち勝って結果を出すためにはどんな手段を使ってもいいとまで考えてしまうことです。

昔、塾で生徒が先生に殺されるという痛ましい事件がありました。その時、共に学んでいた仲間たちは悲しんだに違いありませんが、「これでライバルが一人減った」といった生徒がいたという話を伝え聞いて驚いたことがあります。
ある学校で自らの命を絶った生徒がいました。受験前なので他の生徒たちに動揺を与えてはいけないと考えた学校は、その生徒の死を伏せました。彼は冬休みの間に転校したという説明を教師はしましたが、受験直前に転校するというようなことは少し考えればよほどのことがなければありえないでしょう。しかし、疑問に思った生徒は誰一人おらず、教師に真相をたずねようとはしませんでした。あるいは、おかしいと思ったけれども、自分のことだけで手一杯だったのであえてたずねなかったのかもしれません。

自分のことしか考えないエリートは有害以外の何ものでもありません。勉強ができても他者のことを少しも考えられないようでは駄目なのです。最近はそのような政治家や官僚が起こす問題をニュースなどで見ない日はないといっていいくらいです。

勉強がよくできる子どもも競争することで疲弊します。むしろ、勉強ができる子どもが競争に囚われます。いい成績を取っても、ずっといい成績を取り続けなければならないからです。競争は精神的健康をもっとも損ねます。競争して負ける子どももさることながら、負けてはいけない、常に一番でなければならない、あるいは、そうであることを他者から期待されていると考えている子どもはいつも戦々恐々としています。

アルフレッド・アドラーは次のようにいっています。
「子どもたちは、他の子どもたちが先に進むのを見たくない。そこで競争者に追いつくまで労を惜しまないか、あるいは、逆戻りして失望し、自己欺瞞に陥ってしまう」(『子どもの教育』)
勝てると思った子どもは勉強するが、勝てないと思った子どもは勉強しなくなるということです。

成功のためではない学びがある

入学試験も含めて何かを学ぶ時に、それを競争と捉える人は成功することを目的にしています。このように考える人は、他者と競争し入学試験に合格し就職することを目指して勉強します。資格試験を受ける人も、資格を得ることが就職や昇進に有利だと考えて勉強するのです。

このように、学ぶことの実用的な目的は成功であり、成功するために他者と競争しなければならないと考える人は多いですが、誰もが成功するために学ぶのかといえば、そうではないでしょう。

成功することではたして幸福になれるかどうかというようなことはあまり考えません。成功を目指す人の人生がどれも似通っているのに対して、成功を人生の目的としない人の生き方は特異なものに見えます。

私の高校時代の同級生は、大学で学ぶことはないといって、卒業後、長く山にこもって生活していました。誰も彼のような人生を真似ようとはしないかもしれませんし、そもそもそのような生き方を理解する人はいないかもしれません。しかし、そんなことを彼は意に介してはいませんでした。
どこかで羨ましいと思う人がいるかもしれません。しかし、成功する人生とは程遠い生き方を選ぶことは、あまりにリスクが大きいと考える人もいるでしょう。

哲学者の三木清は、幸福は人それぞれにオリジナルなものだが、成功は一般的で量的なものだと考えています(『人生論ノート』)。オリジナルなものは誰も真似ることはできませんが、一般的で量的な成功は追随されやすく、妬まれやすいです。

ここで頭の片隅に置いておいてほしいのは、成功のためではない学びがあるということです。成功するためでなければ、他者と競争する必要はありません。成功を目指さない人生を生きれば、学び方も変わってきます。


文/岸見一郎

人生が変わる知の作り方 #2 はこちら(9月24日13時公開予定)

ゆっくり学ぶ 人生が変わる知の作り方

岸見一郎

2022年6月3日発売

1,650円(税込)

四六判/272ページ

ISBN:

978-4-420-31095-6

「競争のために学んではいけない」
「学ぶことそれ自体が喜び」
「学び方を変えると生き方が変わる」……
ミリオンセラー『嫌われる勇気』の著者がおくる、幸福に生きる「学び」のヒント!

勉強がつらくて、やりたくない、長続きしない……。
多くの人は受験や資格を取るために勉強し、悩み苦しんでいます。
しかし本来の学びというのは、効率よく目的を達成するためにあるわけではありません。
本書は、哲学者・岸見一郎が、ギリシア哲学、アドラー心理学の知見や、
自らの読書や外国語学習の体験をもとに、コロナ禍の今だからこそ知ってほしい学びの意義、楽しみ方のコツを紹介します。

学ぶことで何かの目的を達成する必要がなければ、効率的に学ぶ必要はありません。
どんなことも、時にはゆっくり、時には集中的に学ぶ、そして、時には中断もしながら、ゆっくり学び続ける。
その時、学び始めた時とはいろいろなことが変わったことに気づきます。
(本文より)

今、学んでいるその時が喜びであり、幸福であると感じられる一冊!!

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