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天国の安倍元総理も泣いている⁉ 3700人分の追悼記帳を廃棄せざるをえない横浜市の杜撰

集英社オンライン / 2022年9月26日 15時1分

安倍元総理の訃報を受け、7月11日から8日間にわたって市役所に記帳所を開設した横浜市。だが、税金をかけて集めた約3700人分の記帳を廃棄せざるを得ない状況に追い込まれているという。いったい、何が起きているのか? ジャーナリストの犬飼淳氏がレポートする。

税金をかけて集めた記帳を廃棄?

9月27日に開催予定の安倍晋三 元総理の国葬。総額16億円ともいわれる多額の税金をかけるにもかかわらず、岸田内閣は法的根拠が無いまま閣議だけで実施を決めてしまった。

安倍元総理の死後の対応を巡っては、この国葬以外にも、法令に定められた手続きを逸脱する事例が地方自治体でも頻発している。今回は筆者が1年間にわたって継続的に市長記者会見に参加している横浜市の例を紹介する。



横浜市は安倍元総理の訃報から3日後の7月11日から18日まで8日間にわたって記帳所を市役所1階ロビーに設置。約3700人もの市民の記帳が集まった。

開設2日目(7月12日)の記帳所の様子(横浜市役所1階で筆者撮影)。受付に座る職員に話を聞いたところ、当日は所管(横浜市 総務局)の職員が勤務時間中に1時間おきに交代して受付対応していた

しかし、この記帳所設置には多くの問題点があった。7月21日の横浜市長記者会見で筆者が懸念点について質問した結果、以下3点が明らかになった。

① 一国会議員である安倍元総理の記帳に公費を投入して対応したことに法的根拠は無い
② 「一時的な保管」という理屈で市は個人情報保護条例で定められた「本来の手続き(市長への事前の届出、等)」を怠った
③ 同条例で実施機関外への提供が禁じられているため、市は記帳を外部に届けることができない
(可能性が極めて高い)

つまり横浜市は、個人情報保護条例を逸脱した超法規的対応をとらない限り、記帳を外部機関に提供することは不可能。法的根拠のない業務に公務員を従事させた上、3700人分の記帳は永遠に「一時的」と言い張って保管するか、廃棄するしか道がないのだ。これは記帳に訪れた市民の弔意を踏みにじった行為と言えるのではないか。

自ら定めた個人情報保護条例を完全無視

横浜市が定める個人情報保護条例の内容に則って、今回の手続きがいかに杜撰であったのか説明すると、まず第6条では個人情報を収集する前に市長に詳細(目的、範囲、記録項目、収集方法、等)を届け出ることが義務付けられている。

安倍元総理の訃報が7月8日(金)夜に流れてから横浜市が11日(月)に記帳所を設置するまでの間、土日を挟んで役所としての業務時間がほとんど無い。こうした手続きが踏まれたのか疑問を抱いた筆者が横浜市に問い合わせたところ、「今回の記帳は届け先が決まるまでの『一時的な保管』のため、個人情報保護条例の適用外と判断した」(横浜市 総務局 7月20日)との答えが返ってきた。

先ほど紹介した第6条には、確かに「一時的な使用であって、短期間に廃棄され、又は消去される個人情報を取り扱う事務その他規則で定める事務を除く」という例外が規定されている。しかし、この回答を受け取った7月20日時点でも記帳開始から10日が経過し、すでに「一時的」とは言えない期間、横浜市は個人情報を保有していた。

さらに、この解釈は横浜市の首を自ら絞める結果を招いている。なぜならば、個人情報保護条例との整合性のため、記帳の届け先は永遠に決まらない可能性が極めて高いからだ。なぜ届け先が決まらないのか。これには個人情報保護条例 第10条が関係している。

個人情報保護の考え方に立ち返れば当然だが、ごく一部の例外(法令等の定めがある、本人の同意がある、報道等で公になっている、人の生命に関わる、など)を除いて、実施機関(=横浜市)以外への個人情報の提供は禁止されている。ゆえに、この条例を破らない限り、横浜市は記帳を外部に届けることは絶対に不可能だ。

しかし、このまま保管し続けると「一時的な保管」という言い分で省略した手続き(個人情報保護条例 第6条で定められる市長への事前届出)との整合性を保てない。横浜市はまさに八方塞がりの状況と言える。

この点を筆者が横浜市に対して指摘したところ、「記帳に訪れた時点で情報提供の本人同意はあったと解釈する」(横浜市 総務局 総務課 7月29日 回答)という信じ難い回答が返ってきた。

個人情報保護の概念を根底からぶち壊す横浜市の解釈に驚きつつも、「明確な本人同意を得ないまま、横浜市が収集した個人情報を外部提供した事例があるのか?」と問い質すと、「そのような事例は無い」(横浜市 市民局 市民情報課 9月12日 回答)という当然の答えが返ってきた。

こうした問題点を踏まえて、筆者は7月21日の市長記者会見で本件を自ら追及した。以下、その際の質疑を紹介する。

*質疑は上記YouTubeの0分29秒から視聴可能
*外部配信サイト等で動画を再生できない場合は、筆者のYoutubeチャンネル「犬飼淳」 を参照下さい。動画タイトルは「【安倍元総理 記帳所設置の法的根拠は無い】 山中竹春 横浜市長記者会見2022年7月21日」

【犬飼】この横浜市役所の1階ロビーに設置されていた、安倍元総理の記帳所について質問します。首相経験者とはいえ、一国会議員に過ぎない人物の記帳所を横浜市は税金を使ってまで設置しました。その法的根拠をお答え下さい。

【山中竹春 市長】(質問の意味を理解できなかった様子で)法的根拠とは・・、何に対する法的根拠でしょうか?

【犬飼】一国会議員に過ぎない安倍元総理の記帳。それに横浜市が税金を使って対応した法的根拠です。

【山中竹春 市長】横浜市として長らく総理大臣にあった方が、演説中に凶弾に倒れるという類を見ない事件を受けて・・、(言葉に詰まった山中市長に職員が回答用の原稿を渡す)市民の皆様から弔意を希望する声もありましたので、弔意をお受けする場所として記帳所を設置し・・、(再び言葉に詰まり、同席する所管部門の職員に目をやりながら)所管、所管から。

【総務局 佐藤康博 副局長】総務局の副局長の佐藤と申します。特に、こういう法律に決まって運用したということはございません。一般的な事例と言いますか、こうした弔事に対して、規模・内容の中で、行政事務の範疇で実施したということです。

【犬飼】つまり、法的根拠は無いということですね。法的根拠に基づかない行為に公務員を従事させたということなので、それだけでも大問題です。しかも昨日、所管の横浜市 総務局に私が問い合わせたところ、記帳した人数は千人を優に越えている。

ただ、肝心の届け先は「現在も調整中」とのことでした。これ、保管期間が長くなればなるほど、横浜市の個人情報保護条例との整合性の問題も出てきます。というのは、今回の記帳で横浜市は個人情報保護条例で定められた手続きを完全に無視している。

その言い分として「一時的な保管であるから条例の適用外」と主張している。しかし、記帳所の開設は7月11日ですから既に10日以上が経過し、もはや「一時的な保管」と言えないです。「一時的な保管」とは、いったい何日間までと認識しているんですか?

【総務局 佐藤康博 副局長】今、正確に私の方で把握している訳ではありませんけど、所管の市民局 市民情報課と協議する中では、一定程度の範囲であれば可ということで、今回もその範疇と確認しています。

【犬飼】その理屈では、たとえ1年経っても10年経っても「一時的」と言い張れてしまう。そもそも横浜市の個人情報保護条例10条では、実施機関以外への提供は禁じられています。この記帳、廃棄するしか道が無いんじゃないですか?
【総務局 佐藤康博 副局長】基本的には短期間の措置で、適切に保管、及びそれを然るべき機関にお届けするということで確認してしますので、適切に運用されていると理解しています。

【犬飼】届け先、決まったんですか?

【総務局 佐藤康博 副局長】現時点では、まだ調整中です。

【犬飼】いつまで「一時的」と言い張るんですか?

【総務局 佐藤康博 副局長】現在は調整中でございます。

【犬飼】このままではわざわざ税金使ったのに記帳した市民の気持ちまで踏み躙ってしまうのでマズいです。ちゃんと対応して頂きたいと思います。終わります。

出典:7月21日 横浜市長記者会見

山中竹春横浜市長

この質疑は、法的根拠のない業務に公務員を従事させたことを横浜市が公の場(市長記者会見)で認めており、非常に大きな意味があったと言える。また、山中市長は質問に対して自らの口では何一つ回答できなかったが、「市民の皆様から弔意を希望する声もありました」という非常に気掛かりな発言をしている。

先ほども説明した通り、安倍元総理の訃報が7月8日(金)夜に流れてから横浜市が11日(月)に記帳所を設置するまでの間、土日を挟んで役所としての業務時間がほとんど無い。いったいどのように市民の声を聞いたというのか。

弔意を希望した市民はわずか3人

この市長発言を不審に感じた市民が「記帳所設置の件で市民から寄せられた意見・要望」「その意見・要望に対して市がどのように協議・意思決定・対処したのか」について開示請求した結果、該当する意見・要望はたった3件(人口約377万人の0.0000007%相当)だった上、「市民からの意見・要望に対して協議・意思決定・対処していないため行政文書は作成していない」という驚きの回答が返ってきた。

横浜市からの「非開示決定通知書」(開示請求した市民から筆者が入手)。非開示の理由として「市民からの意見・要望に対し協議、意思決定、対処していない」と記載

もし実際に横浜市が市民からの意見・要望をもとに意思決定したのであれば、その行政文書を作成しないことはあり得ない。つまり、山中市長が記帳所設置の根拠として述べた「市民の皆様から弔意を希望する声もありました」は真っ赤な嘘である。

そもそも、どうしても市民からの弔意を受け付ける場を設けるのであれば、自民党 神奈川県連(横浜市役所から徒歩圏内に事務所ビルあり)が対応すれば済んだ話である。自治体である横浜市が税金をかけてまで対応する必要は全く無い。

さらに、本記事を執筆するにあたって、記帳の届け先の最新の調整状況を確認したところ、今現在も「届け先は未定」(横浜市 総務局 総務課 9月12日 回答)と判明した。つまり、記帳開始から約2ヶ月が経過したにもかかわらず、いまだに「一時的な保管」と言い張る異常事態が続いているのだ。

冒頭にも紹介した通り、横浜市は個人情報保護条例を逸脱した超法規的対応をとらない限り、3700人分の記帳を永遠に「一時的」と言い張って保管するか、市民が忘れた頃に廃棄するしかない。

役所に記帳所を設置した自治体は他にもあるが、記者会見や開示請求結果から判断して、横浜市の杜撰さは群を抜いている。事実、横浜市では本件に限らず、口頭決裁の横行による意思決定の不透明化、杜撰な文書管理、不祥事の組織的隠蔽などがここ半年だけでも続発している。

・開示請求1件に対して、通常はまとめて連絡するところをわざわざ担当部門ごとに分けて126通の決定通知書を送付。126通の一覧作成すらも市は拒み、開示請求を実質的に妨害(詳細は三宅勝久記者ブログ参照)

・小学校教師による児童いじめを第三者委員会と教育委員会が組織的に矮小化(詳細は筆者ニュースレター参照)

・いったん公表した公文書を不可解な理由・プロセスで取り消し(詳細は井上さくら市議ブログ 参照)

横浜市の人口は約377万人で、全国の市町村としては2位以下に大差をつけてトップだ。規模が巨大過ぎることを背景に横浜市役所では長年にわたって行政手続きの軽視・腐敗が進行していたことに加え、昨夏に市政に徹底的に無関心な市長が就任したことで職員の職権濫用が容易になってしまった。

横浜市は日本最大の政令指定都市のため、「大都市だから、しっかりしているはず」との印象を持つ人も多いだろう。だが「そうした先入観を隠れ蓑に、法令や倫理観を逸脱した行為が横行している」のが実態と言うほかない。


文/犬飼淳

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