――まずは、お二人と安倍元首相との関係性は?
古賀 僕はそれほど安倍さんと接点があったわけじゃない。安倍さんが最初に首相を辞めた後の野党時代に、知人から「昭恵夫人が安倍さんにエネルギー政策を説明してほしいと言っている」と連絡があり、安倍さんとサシで1時間ほど話したくらい。
あとは報道ステーション(テレビ朝日)の生放送中にイスラム国に拘束されていた後藤健二さんを見殺しにした安倍政権に抗議して、生放送中に「I am not 安倍」のプラカードを掲げて降板させられたくらいかな。僕とは違って、高橋さんは安倍さんとの接点は多かったでしょ?
【激論】高橋洋一VS古賀茂明 「安倍国葬問題」は岸田政権に“とどめ”を刺してしまうのか?
集英社オンライン / 2022年9月26日 18時1分
すったもんだの安倍晋三元総理の国葬問題だが、この間に岸田内閣の支持率は30%台に急落するなど“危険水域”に入った。はたしてこの問題は岸田政権にとどめを刺してしまうのか? 元財務官僚で第一次安倍内閣ではブレーンとして活躍した嘉悦大学教授の高橋洋一氏と、元経産官僚で政治・経済アナリストの古賀茂明氏が激論を戦わせた。
霞が関の「反社勢力」
高橋 安倍さんとのつき合いは01年にスタートした第1次小泉政権時代からだから、ずいぶん長いね。当時、安倍さんは内閣官房副長官、私は竹中平蔵経済財政政策担当大臣の補佐をしていて、安倍さんから金融財政政策についてしばしば質問を受けるようになって。安倍さんからはよく電話をもらったけど、その半分は金融、財政関連でしたね。安倍さんって、けっこう勉強家なんだよ。
古賀 06年に安倍さんが首相になると、内閣参事官として官邸入りもしたよね。
高橋 そう。じつは小泉政権後は官僚を辞めるつもりで、再就職先の大学も決めていたの。ところが、安倍さんから「いっしょに仕事してほしい」と連絡がきて、10人いる参事官のひとりとして官邸入りした。
古賀 あらためて、安倍さんってどんな人だったの?
高橋 気さくで分け隔てのない人。あと、判官びいきなところもあったな。安倍さん、ヤクルトファンなんだよね。「巨人はみんなが応援してくれるから、自分はヤクルトを応援するんだ」と言っていましたね。
古賀さんも知っているとおり、私は公務員法を改正して天下り規制に取り組んだもんだから、各省を敵に回しちゃったのね。そのせいで財務省の事務次官からは「高橋は3回殺す」って言われたけど(苦笑)、そんな私を安倍さんは「高橋さんは霞が関の『反社勢力』だから面白いんだ」と官邸入りを勧めてくれた。そのあたりも判官びいきだった。
私を登用すれば財務省を敵に回しかねないのに、まったく気にする様子がなかった。そんな政治家、なかなかいませんよ。
古賀 安倍さんには官僚の枠を飛び越えて正論を吐くような人を好む部分があったのかな。
国葬の法的根拠と安倍元総理の「人格問題」
――その安倍さんの国葬が間もなく行われます。率直に安倍元総理の国葬をおふたりはどう考えますか?
高橋 憲政史上最長の8年8か月も首相をやったんだから、十分にその資格はある。根拠法がないとか、閣議決定だけで決めたとか、手続き的なことを問題視する人もいるけど、99年に内閣設置法が成立した時に、国葬を国の儀式として執り行えるという整理が行われている。
第4条で「国の儀式並びに内閣の行う儀式及び行事に関する事務」を内閣の所掌事務と定めてあるんだけど、その時に政府の中央省庁等改革推進本部事務局が逐条解説として作成した文書に、国の儀式を①憲法7条による国事行為としての儀式、②閣議決定により国の儀式として位置づけられた儀式に分類し、②の例として「吉田茂元首相の国葬」と明記されている。つまり、岸田内閣が閣議決定で国葬儀をやると決めることは法的には何の問題もない。
9月に発売されたばかりの新著でも「安倍さんほど政策を“世界標準”で考えた政治家はいなかった」「ハッキリ言う、安倍さんが日本を救ったのだ」と記した高橋洋一氏
古賀 僕は、その指摘は間違っていると思っている。たしかに4条には内閣の所掌事務として国の儀式などがあると書かれているんだけど、これは法制的に何かで決まった儀式について「事務」を担う担当部署がちゃんとありますよ、というだけのこと。
国葬を内閣の一存で決められるということではない。吉田茂の国葬を実施した佐藤栄作内閣以降、歴代内閣は国葬をしていない。そんな異例の国葬をやるからには閣議決定だけではなく、少なくとも国権の最高機関である国会の了承くらいは必要でしょう。
高橋 法律問題では司法の判断が重要で、東京地裁や大阪地裁などの裁判所も市民団体の国葬差し止め請求を次々と却下している。だからこの件はもう答えが出ているじゃないの?
私は内閣が国葬を法的にやれないことはないと言っているだけで、安倍さんが国葬に値するかどうかの価値判断はまた別。その評価は人によっていろいろあるだろうし、言いだしたらキリがない。今回の国葬については最終的に閣議決定をした内閣のトップである岸田首相が政治的責任を負うことになる。
古賀 僕は2つの点で安倍さんは国葬に値しないと思っている。ひとつは人格面。「モリ・カケ・サクラ」疑惑への安倍さんの対応を見たら、子どもたちに「安倍さんという立派な人がいたんだよ」とはとても言えない。国会で何度も虚偽答弁したり、公文書改ざん問題では赤木俊夫さんの自死を招いた。
普通は申し訳ないと思うはずなのに、安倍さんは「自分は逮捕されなかったから間違ったことはしていない」と胸を張っているようにも見える。とても人格的に国葬に値するような人ではないと僕は思う。
また、後藤健二さんがISの捕虜になった件では、後藤夫人が必死に解放交渉をしているのを知っていながら、安倍さんがわざわざ中東を訪問。ISに宣戦布告するような演説をしたことも後藤さんの殺害につながった。集団的自衛権の行使容認に踏み切るために後藤さんの帰国を妨害するためだったのは明らかです。
あの時、何と情け容赦のない人なんだろうと憤りを覚えました。だから、私はそれを批判して「I am not 安倍」と言ったんです。それと、これは後で高橋さんとじっくり議論したいと思っているんだけど、安倍さんが取り組んだアベノミクスや外交・安保などの実績面も、歴代の総理に比べて著しく優れているとは思えない。
高橋 それは古賀さんの評価だが、歴代政権最長とはそれだけ国民が支持した結果でもあり、長期政権を反映した外交面での評価もある。いずれにせよ、今になっていまさら国葬を中止にするのはありえない。
ただ、結果としては直前の調査で岸田内閣は支持率が急落し、危険水域に入った。さっきも言ったけど、今回の国葬問題で最終的に政治的責任を負うのは岸田首相。はたして今後、どうなるかを見届けたい。
撮影/村上庄吾
安倍さんと語った世界と日本
高橋洋一
2022/9/1
990円(税込)
新書 : 262ページ
978-4898318713
「ハッキリ言う、安倍さんが日本を救ったのだ! 」(髙橋洋一)
・今も続く的外れな「アベノミクス批判」
・アベガーよ、「安保法制反対! 」をウクライナで叫んでみろ!
・「悪い円安論」は無知の極み
・日本は今も全くインフレを心配する必要はない
・岸田総理よ、いま緊縮財政をしてはいけない!
・ウクライナで世界と日本の経済はこうなる
・ロシアの金融破綻の確率は・・・100%だ!
・実は日米同盟は世界基準だと「弱い同盟」である
・日本の戦争確率を確実に減らす方法を教えよう
・「平和ボケ」はお花畑からでて来なさい!
・財務省は防衛省の植民地化を狙っている
・NATO加盟を安倍さんは考えていたはずだ
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