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スペインのリゾートで金目鯛の炊き込みご飯を堪能!? 美食の街サンセバスチャンのグルマンな映画祭

集英社オンライン / 2022年9月26日 18時1分

カンヌ国際映画祭やヴェネチア国際映画祭などと並び、国内外の映画関係者が「一度は参加したい」と語るサンセバスチャン国際映画祭。今年はオフィシャル・セレクション(コンペティション)に菅田将暉&原田美枝子主演『百花』(川村元気監督)が選出されて話題になったが、他の映画祭と何が違うのか? その魅力を3回にわたってレポートする。

スペイン語圏最大規模の映画祭

川村元気監督(左)は『百花』(2022)で最優秀監督賞を受賞。主演の原田美枝子(右)も映画祭に参加した

ミシュラン星付きレストランが多数点在していることから「美食の街」と称されるサンセバスチャン。ビスケー湾に面した風光明媚な景色に惹かれ、スペイン王室が避暑地として訪れていたほど人気のリゾート地だ。日本でも最近はバスクチーズケーキの本場として、サッカー日本代表の久保建英が所属するラ・リーガ・レアル・ソシエダを擁する街として知られるようになった。



年間を通じたカルチャーイベントも多彩で、筆頭が毎年9月に開催されるサンセバスチャン国際映画祭。今年は9月16日〜24日に開催された。人口約18万8000人の街に、会期中は17万5000人(2018)が訪れる。スペイン、いやスペイン語圏最大規模の映画祭だ。

設立は1953年。以来、バスクを激しく弾圧したフランコ政権時代も、多くの国際映画祭がオンラインに切り替えざるをえなかったコロナ禍も、歴史を途切れさせることなくリアル開催して今年で70回。国際映画祭ならではの華やかな一面も、コンペティション部門のピリッとした緊張感もあるものの、穏やかな街の雰囲気も手伝って、どこか牧歌的な雰囲気が漂う。

これまで何度も映画祭に参加している是枝裕和監督。2018年には生涯功労賞にあたるドノスティアを受賞した
(c)Gorka Estrada

その象徴が、スターとの距離の近さ。彼らの宿泊先もホテル到着時間も公表されており、ホテル前には出待ちファン用の待機スペースまで設置されている。誰もがジョニー・デップやヒュー・ジャックマンらと気軽に触れ合えるのだ。

人で賑わう上映会場前。車椅子利用者や杖を付いた人がどの会場にもいるのがサンセバスチャンでは見慣れた光景(撮影:中山治美)

国際映画祭とは思えぬこの敷居の低さは、観客層を見れば一目瞭然。映画を学ぶ学生やフツーの地元住民が圧倒的多数で、車椅子利用者や杖をついた人の姿を、どの会場でも見かける。これはスポサンサーになっている地元銀行のカードで決済すると、チケット料金が50%引きになるなどの各種割引サービスが充実しているため。街を上げてのアクセシビリティの整備ももちろんだが、観客と映画を繋げるための運営方針が際立っているのだ。

例えば、本映画祭のいまや看板プログラムとなっている、料理をテーマにした映画を集めたキュリナリー・シネマ部門。実はこちら、教育も兼ねている。

キュリナリー・シネマ部門に選ばれたのは日本映画

ベルリン国際映画祭に触発されて(本家のベルリンは2019年に終了)2010年に設立された同部門は、サンセバスチャンにある料理専科大学バスク・キュリナリー・センターとの共同企画。鑑賞後に、世界各国のスターシェフが映画にちなんだ料理を提供するディナーイベントがあり、ワインなどの飲み物付きで80ユーロ(1ユーロ=140円換算で11,200円)。各回80席限定のチケットが30分で完売してしまう。今年は日本から作家・水上勉の料理エッセイを原作にした映画『土を喰らう十二ヶ月』(中江裕司監督)が選ばれた。

『土を喰らう十二ヶ月』(2022)は11月11日(金)より全国公開
© 2022『土を喰らう十二ヵ月』製作委員会

ディナーを担当するのはスペインのレストラン・グループ「NOMO」でエグゼクティブ・シェフを務める萩野谷尚之さん。当日の厨房のサポートと給仕を担当するのは同センターの学生だ。彼らにとっては、現役トップシェフの仕事を間近で学べる貴重な実地研修。なのでディナー料金が破格プライスなのだ。

左からバスク・キュリナリー・センターのディレクター、ホセ・マリ・アイゼガ、荻野野尚之シェフ、映画『土を喰らう十二ヶ月』の中江裕司監督(撮影:中山治美)

スターシェフにとっても本イベントは刺激になるようだ。映画は信州で約1年にわたって撮影されたもので、劇中に出てくるのは精進料理。しかもそれらの料理を担当したのは料理研究家・土井善晴。撮影現場でも原作同様に、その日収穫できる旬な食材と向き合いながら、茹でた筍や、山菜のお浸し、胡麻豆腐などが作られたという。日本ではお馴染みの料理だが、いずれもスペインではなかなか手に入らない材料ばかり。

萩野谷シェフは映画を8回鑑賞してメニューを考案。自身で栽培している穂紫蘇などの日本の食材や地元の特産を組み合わせながら、胡麻豆腐といくら黄身醤油、チャングロ蟹と朴葉柚子味噌焼、金目鯛の炊き込みご飯と赤だしなどを提供。食通たちを唸らせた。

学生スタッフの盛り付けをチェックする萩野谷尚之さん(写真中央) (撮影:中山治美)

劇中に登場する胡麻豆腐もメニューに登場。大トロとヤリイカのお造り。胡麻豆腐といくら黄身醤油(撮影:中山治美)

映画は精進料理がテーマですが、ディナーは肉や魚も提供。見事に炊き上がった金目鯛の炊き込みご飯(撮影:中山治美)

萩野谷シェフは「劇中は土井先生の料理ですから、僕にとっては大仕事。家で料理を考えながら汗が出たのは初めてです。映画のように自然に寄せながら、皆が楽しめるように肉や魚を出しましたが、僕にとっては蟹30杯の身を取り出す作業は精進でした」と言う。さらに「僕の料理は日本料理なんですけどフュージョンを提供することが多く、あまり日本人には馴染みがないかもしれません。なので、ここに呼ばれて光栄です」と喜びを噛み締めていた。

ほかにも同映画祭には公用語であるバスク語教育を兼ね、アニメなどにバスク語吹き替えやバスク語字幕をつけた「ペロドローム」(子供映画部門)もあり、連日、近隣の小学生2,000人が鑑賞にやってくる。市民に支持され、70回の歴史を刻んだ理由はここにある。



取材・文/中山治美

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