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24年ぶりの「円買い介入」の効果と副作用。なぜ日本政府は負け試合にクローザーを投入したのか?

集英社オンライン / 2022年9月27日 17時1分

政府・日本銀行が9月22日に実施した約24年ぶりの円買い介入。市場関係者からは介入効果を評価する声が聞かれる一方で、「焼け石に水」「もはや打つ手がない窮状を明らかにしてしまった失策」との声も聞こえてくる。じつに24年ぶりとなったサプライズ介入の効果と副作用を検証する。

サプライズ介入の背景

たびたび国際金融市場の潮目を変えてきたカンザスシティ連銀主催の「ジャクソンホール会議」。8月26日に開かれたこの重要会議で、パウエルFRB議長は「やり遂げるまでやり続けなければならない」という強い表現で、インフレ抑制に強い意志を表明した。

これに対して、日本の黒田日銀総裁は「緩和継続以外に選択肢はない」と語るのみ。つまり、アメリカは利上げを加速させ、日銀はゼロ金利のまま動かないということだ。



こうして日米の金利差は15年ぶりの水準に拡大し、9月1日に24年ぶりに1ドル=140円台、7日には一時144円にまで円は下落した。

そして9月21日(日本時間22日)、「ジャクソンホール会議」での宣言どおり、FRBは3会合連続となる0.75%の大幅利上げを実行し、日銀は大規模緩和を維持した。すると円はさらに下落し、一時145円をつけた。金融筋が驚いたのはその直後のことだった。

政府・日銀が約24年ぶりとなる円買・ドル売りの政策的為替介入を断行し、円相場は一気に5円も上昇し、140円台にまで戻してしまったのだ。

9月7日に鈴木財務相が「あらゆる措置を排除しない」、9日には黒田日銀総裁が「急激な為替の変化は好ましくない」と発言したものの、これらは「口先介入」と報じられ、マーケットは文字通りこれらを「口先だけ」と相手にしなかった。

また、9月22日は日米だけでなくイギリス、スイスで中央銀行の政策決定会合日程が重なり、「中銀デー」となった。アメリカ、イギリス、スイスが金融引き締めに動くことは確実で、日銀の緩和継続も確実だ。しかも、日本は翌23日が祝日で外為市場の取引がない。

これだけ材料がそろえば、市場関係者は皆、場が荒れると考える。投機筋にとっては垂涎のタイミングだ。しかし、そこにだれも予想しなかった政府・日銀の円買い介入が入った。そのサプライズ効果は抜群で、円売りドル買いを仕掛けた投機筋はさぞかし大損したことだろう。

2度目、3度目のサプライズはない

では、投機筋はなぜ、政府・日銀の円買い介入を警戒しなかったのか。それを実行するにはかなりの困難が伴い、しかも政策的効果がさほど期待できないからだ。

まず、日本単独の介入とならざるをえない。インフレ抑制に血眼になっているアメリカにとって、ドル高は輸入価格の低下となり、プラス材料だ。円高ドル安を誘導する政府・日銀の政策介入にアメリカが協調するはずがない。

次に、円買い介入の原資が限られている。円買い介入は日本政府が保有する外貨準備を売って円を買う。日本の外貨準備保有額は中国に次ぐ世界第2位で、およそ180兆円にもなる。ただ、その大半は米国債で運用されている。これを売却してドルに換金するにはNY連銀に売却手続きを委託するなど、アメリカ当局の理解と協力が欠かせない。

そうなると、財務省や日銀が機動的に介入資金として利用できる外貨準備は預金として保有する20兆円ほどとなる。今回の介入規模は日銀関係者によれば、「数兆円単位」だという。日本の外国為替市場取引額は1日当たり40兆円以上にもなる。その巨額さを考えると、「数兆円単位」の円買い介入では、抜群のタイミングで足を引っかけないと相手(市場)は転ばない。

かりに一度うまくいったとしても、FRBは年内に予定される残り2回の会合で、合計1.25%利上げするという見通しだ。欧州中央銀行(ECB)の追加利上げも間違いないだろう。サプライズは一度だから効果的なのだ。つまり、政府・日銀にとって2度目、3度目のサプライズはもうない。

円買い介入の政策的矛盾

為替レートは外国為替市場価格だから、ある程度の期間をおけば、異なる通貨間の需要と供給によって決まる。アメリカが金融引き締めを加速させればドル供給が減り、高金利を材料にドル買いを呼び、ドル高になる。日銀が金融緩和を維持すれば円の供給が増え、それに見合う需要がなければ、円は安くなる。

日本の貿易赤字は急増している。8月は2.8兆円でこれは単月では過去最大で、1~8月通算では12.2兆円にも膨れ上がってしまった。貿易代金支払いのためには円を売ってドルを買わなければならない。実需面で見ても円の需要は乏しく、当然、円は安くなる。

政府・日銀の円買い介入は、マーケットに真っ向から逆らう動きだ。しかも、一方で金融緩和を継続し(円供給増大)、もう一方で円買い介入(円需要創出)というのは政策的に矛盾している。こうした市場と政策との歪み、政策方向の歪みこそ、投機の餌食となりやすい。

もはや円を買う主体が見当たらない

野球では、リードしているチームが最終回に、勝利を確定させるために登板させる投手をクローザーと呼ぶ。いわば抑えの切り札だ。それでいうと今回の円買い介入は試合の前半で、しかも負けている場面でクローザーを投入したようなものだから、たしかにサプライズだ。

しかし、その場は抑えられても、すでに切り札を使ってしまったわけだから、イニングが進めばどんどん苦しい展開になる。

そもそもの問題は、守備うんぬんではなく、得点能力の低さなのだ。外国為替市場に対する日銀単独の政策介入は、もはや円を買う主体が日本政府の他に見当たらないという窮地を明らかにしたといえるだろう。

円が買われない理由は簡単である。日本経済の得点能力=成長に対する市場の期待が乏しいからだ。世界の中銀が金利引き上げへと動くなかで、日銀だけが利上げできないのは日本の景気が回復せず、積みあがった財政赤字の利払い負担増加を恐れているからに他ならない。

これだけ巨額の財政支出を繰り出してきたにもかかわらず、なぜ、日本は景気が足踏みし、経済成長に見通しが立たないのか――。

9月26日の円相場は再び144円台までに下落してしまった。円買い介入サプライズでつかの間に為替投機を回避できたとしても、今の日本はこうした根本的な問題を解決しないことには、浮上の見込みはない。そのことをマーケットは冷たく教えている。

文/金俊行

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