1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. ライフ
  4. カルチャー

「かくして物語は生まれる」周防柳『うきよの恋花 好色五人女別伝』を細谷正充さんが読む

集英社オンライン / 2022年10月10日 14時1分

俊英・周防柳が、井原西鶴の『好色五人女』を、新たな解釈で描く。

かくして物語は生まれる

俊英・周防柳が、井原西鶴の『好色五人女』を、新たな解釈で描く。これだけでワクワクして、早く本を手にしたいという読者がいることだろう。しかし一方で、『好色五人女』は、タイトルしか聞いたことがないという人も多いと思う。だが、そんな人にも、躊躇なくお勧めだ。作者は趣向を凝らして、スムーズに物語の世界に導いてくれるのだから。
西鶴の浮世草子『好色五人女』は、五つの有名な男女の事件を題材にした、モデル小説といっていい。現代で最も知られているのは、惚れた男に会いたくて放火事件を起こし、十七歳で処刑された“八百屋お七”かもしれない。その事件を作者は、第一話「八百屋お七」に持ってきた。


しかも物語は、山善という薬屋が、俳諧の師匠への土産にするため、事件の話を聞く場面から始まる。第五話を除いて、各話共通のプロローグだ。これにより『好色五人女』の内容が、簡単に分かるようになっている。
それが終わると、ストーリーは本番。まず、商家の娘のお七の視点で、寺の世話になっている吉三郎との恋が綴られていく。だが、吉三郎に視点が移ると、それまで見えていた恋物語の風景が一変。おぞましい事実と共に、お七の放火の真実が明らかにされるのだ。
続く、「おさん茂兵衛」「樽屋おせん」「お夏清十郎」も、不義密通や駆け落ちの裏にある、意外な事実が暴かれる。どれも終盤にサプライズがあり、ミステリーとして楽しめた。
そしてラストの「おまん源五兵衛、または、お小夜西鶴」で、山善の集めた話が、井原西鶴のためであることが判明。西鶴の過去の秘密を絡めながら、『好色五人女』が、いかに創られたかを活写するのだ。『逢坂の六人』『蘇我の娘の古事記』『身もこがれつつ――小倉山の百人一首』などで、歌集や歴史書がいかに成立したかを描いてきた作者らしい作品になっている。そしてそこで示されたフィクションの意味に、深い共感と感動を覚えるのだ。

うきよの恋花 好色五人女別伝

周防 柳

2022年10月5日発売

2,200円(税込)

四六判/344ページ

ISBN:

978-4-08-771811-9

この恋は、地獄につながっている――。

女はなぜ、男のために火付けをし、火あぶりになったのか(「八百屋お七」)。
女はなぜ、道ならぬ恋におぼれ、自ら鉋(かんな)で胸を突いたのか(「樽屋おせん」)。
女はなぜ、ふしだらな下男と駆け落ちし、心を喪ったのか(「お夏清十郎」)。

江戸時代の人々の注目の的になった恋の事件の裏には、
悲しい“まこと”と、優しい“ほら”があった――

心中、駆け落ち、不義密通。
江戸のスキャンダルをまとめた井原西鶴の代表作『好色五人女』を大胆に新解釈した、胸に刺さる悲恋時代小説。

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください