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「障がい者を笑うな」の一声で衰退した”こびとプロレス”。現役レスラーが問う、なんとなくの善意

集英社オンライン / 2022年10月30日 18時1分

低身長のレスラーが見せるスピードと、コミカルな技で人気を集め、かつてはテレビなどでも放送さられていた「こびとプロレス」。しかし「障がい者を笑うな」といった声から徐々に衰退し、現在日本で活動しているこびとレスラーは2名のみに。それでも昨年、クラウドファンディングで専用リングをつくるなど、再び話題を集めている。こびとプロレスで笑うことは「差別」なのか? 現役レスラー、プリティ太田さんに、YouTuberたかまつななが話を聞いた。

「病気の人をテレビに出すな」で放送に規制

ーーまず最初に「小人症」とは、どういうものなのでしょうか?

原因はさまざまあるのですが、僕は生まれつきの軟骨の病気で身長が伸びません。

ーーそもそも「小人」という表現は差別用語なのですか。



僕は一切、差別とは思っていません。一部の方々が差別だと言っているだけ。でも、テレビ局では使ってはいけないらしいです。いわゆる「コンプライアンス」でしょうか。この取材では使っていただいて、全然問題ないです。

ーープリティ太田さんはこびとレスラーとして活躍されているそうですが、改めてこびとプロレスについて教えていただいてもよろしいですか。

海外のこびとプロレスは、いわゆる一般のレスラーがやっているプロレスで、身長の低い人にしかできない技や速さを見せていくような試合が多いです。でも日本は少し違っていて、お笑い要素が強い。一般のレスラーができないような技で笑いを取るのが見せ場なんです。

ーー昔はゴールデンタイムのテレビ番組でも放送されていたんですよね。

僕は世代ではないので実際に見ていたわけではないのですが、プロレス中継の中で「こびとプロレス」として放送していたらしいです。あと、『8時だョ!全員集合』にこびとレスラーが出演したことで話題になったんですよ。僕も「言われてみれば、出ていたな」と思ったので少し覚えています。

ーー当時はどのような空気だったのでしょう。

当時はみんな、純粋に見て、笑っていたんだと思いますよ。普通の人ができないことをやっているのが面白かったんでしょう。それがいつの間にか偏見で、笑ってはいけないとなってしまった。

ーーいつ頃からこびとプロレスは縮小してしまったのですか。

1980年代ぐらいになってからですね。僕の聞いた話では、1通の投稿から規制がかかったと。「小人症の人、病気の人をテレビに出して笑ってもいいんですか」ってなって。

ーーその人は「こびとプロレスはよくない」と思っていたんでしょうか。

偽善で言っているだけの偽善者、と僕は思ってます。誰がはじめに言ったのか、その正体さえ、いまだにわからないんです。

「この身長でもプロレスができるんだ」

ーーこびとプロレスは規模縮小傾向にあったものの、太田さんはデビューを決められるわけですよね。どんなきっかけがあったのですか?

僕はもともとプロレスファンでした。プロレスラーになりたいと思っていたけれど、身長の関係でなれないだろうと。それが中3のとき、たまたま地元に全日本女子プロレスさんが来て、その中でやっていた「こびとプロレス」を見たんです。

そのときに「この身長でも、プロレスできるんだ」と思って。そうしたら当時のレフェリーさんが名刺をくれて「もしやりたかったら、来てちょうだい」って。

ーーこびとプロレスがやりたいというより、プロレスが好きだった。

はい、純粋に好きでした。だから衝撃でしたよ。こういう人たちでもプロレスができるんだ、と。当時はこびとレスラーが、日本でもう3人しかいなくて。全日本女子プロレスは地方に行く度に、小人症の人を見たらすぐ声を掛けていたらしいです。

ーーその後、すぐになられたんですか。

いや、なったのは26歳です。親の反対があったので、10年近くかかりましたね。

ーー親御さんはなぜ反対したんですか。

プロレスに対して野蛮、危険というイメージがあったとも思いますが、やっぱり危ないから。普通の人の体型とは違うので、危険の度合いは一般のレスラーより増している。足とかも下半身付随とかになりやすいらしいです。

ーー怖くなかったですか?

怖いですよ。いまだに。リングに上がるたびに、怪我したらどうしようとか。

ーーそれでもやるというのは、どんな気持ちで?

純粋に好きだからです。やっぱり。「やり始めた以上は、やれなくなるまでやったろう」って思ってやってます、今、この業界にいるのは、なによりプロレスが好きだからです。

なぜ、テレビに出られないのか

ーープリティ太田さんがデビューして、こびとプロレス界としては盛り上がりましたか?

当時、こびとレスラーがひとりしかいなかったので、こびとプロレス自体が開催されていなかったんです。僕が入ったことによって復活して、対戦相手のミスター・ブッダマンさんと2人で、18年やってきました。僕が入って以降は、こびとレスラーは入ってきていないです。

ーー18年もの間、2人で戦い続けている。続けられたのはなぜですか?

僕がいなくなったら、こびとプロレスがなくなるからです。とにかく僕とブッダマンさんがやれている間に、ひとりでも入ってくれたらなんとか持ちこたえられると思うんで。体がもつ限りやってやろうと。

ーーそこまでしてこびとプロレスを守りたいのは、どうしてなんですか。

最初はそこまで思わなかったんですが、だんだんと日本のこびとプロレスの重要さがわかってきました。僕ひとりで他団体に出させてもらうこともありますが、小人というキャラクターが欲しい場面もあるんです。

もちろん偏見をなくしていくために、との想いもありますが、そもそも海外のプロレスにはこびとレスラーがめちゃくちゃ出ているんです。アメリカ、特にメキシコは強いです。一般のレスラーよりもこびとレスラーのほうが人気があったりもします。スピードが他のレスラーとは違って、速いんですよ。技の入り方も見事で。それに魅了されるんじゃないですか。

2004年に全日本女子プロレス入門。同年5月のミスター・ブッダマン戦でデビューした。同年、全女が解散したため、「全女最後の新人」でもある

ーー偏見をなくすために意味がある、という点についてもう少し説明していただいてもよろしいですか。

僕らはこびとプロレスを見ていて普通に面白かった。なのに、それを「面白い」と言っちゃいけないというのが、本当によくわからないんです。「かわいそう」って偏見じゃないですか。

今はテレビもコンプライアンスが厳しくなってしまいましたけど、そうした偏見をなくして、僕たちも当たり前のようにテレビに出られるようにしたい。プロレスもそうですけど、やっぱり普通に僕らがテレビ業界に出られることが、一番の起爆剤になると思うんです。

ーー海外の作品にも小人症の方が出てくるものは多いですよね。映画『ロード・オブ・ザ・リング』とか。

そうです。普通に出てるじゃないですか。小人症の人が、当たり前のように。海外はすごいなと思いますよ。

ーー「小人症の人を出すな」みたいな空気ができてしまうと、結局、困るのは小人症の人だと。

僕に言わせれば、「こびとを出すな」という時点で差別でしょう。なんとなくの善意じゃないですか。だから僕はそういう人たちを「偽善者」と言っているんです。

新人をスカウトしたい

ーー東京五輪のパラリンピック公式映像作品『MAZEKOZEアイランドツアー』にも出演されたと伺いました。反響はありましたか。

世界配信したらしく、反響はすごかったそうですよ。ただ、その一瞬の盛り上がりで終わってしまった。一発の盛り上がりではなく、継続してテレビやメディアに出演していけるような状態にしたい。

ーー太田さんの普段の生活はどんな感じですか。収入はプロレスだけだと厳しいのでしょうか。

僕は、普段はバイトをしながら、プロレスをやったり芸能の仕事をいただいたりしています。理想はプロレスと芸能だけで食べていけること。プロレスは月に1~2試合しかないので、それだけでは生活できないです。売れない芸人さんと一緒ですよ。

ーーそんな中、昨年クラウドファンディングを立ち上げ、こびとプロレス専用リングを作ったと伺いました。

昨年、こびとプロレスを復活させたいという思いを持ったつばきHOLDINGSの大木信夫会長を中心に、有志メンバーで結成した「こびとプロレス再生プロジェクト実行委員会」でクラウドファンディングを行ったんです。どうなるか僕も不安だったのですが、あれよあれよという間に400万円近く集まって。

それで専用のリングを購入し、日本初のこびとプロレスの道場を開設することができました。そこからこびとプロレスの団体・椿ReINGzが立ち上がったという経緯です。今は現役プロレスラーの伊藤薫選手、藪下めぐみ選手が指導をされている伊藤道場と共に歩んでいます。

2021年8月 、こびとプロレスの復活を願う有志メンバーが「こびとプロレス再生プロジェクト実行委員会」を発足し、練習場所がないこびとレスラーのために、リングを購入することを目的としたクラウドファンディングを実施。目標額250万円に対し、4,778,000円の資金調達に成功した

ーー練習場があるのとないのでは、違いますか。

全然違います。僕は今まで全日本女子プロレスにいたんですが、練習場はなかった。それがようやく練習をさせていただけるようになってうれしい。受け身の練習などもできるようになって。これまで自己流で練習していたのが、練習場ができたことで伊藤選手や藪下選手の指導を受けることもできました。改めてプロレスって奥深いと思いながらやっています。

ーー今後はどんなところに力を入れていきたいですか。

最優先は、最低でもひとり新人レスラーを入れたい。そして僕自身、スキルアップはもちろん、受け身もしっかりできるようにしていきたい。この2つです。

今、日本のこびとプロレスにはたった2人しかレスラーがいないんです。興味のある方がいらっしゃったら、まずは見学だけでいいのでぜひ道場に見に来ていただきたいです。そして、ぜひ観戦してください。単純に見て「面白いな」とか「すげえな」と思ってくれたらなと。何の偏見もなく、純粋な気持ちで「こびとプロレス」を見てもらえたら、それに勝る喜びはないですね。

ーーぜひみなさんに、こびとプロレスを見に行っていただければと思います。ありがとうございました。

取材/たかまつなな 編集協力/塚田智恵美

関連動画はこちら【小人プロレスの衰退は、なぜ?】「笑ってはいけない」は誰の声?

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