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圧倒的男性社会の「映画界」を「映画祭」から改革。ジェンダーギャップに取り組むサンセバスチャン映画祭の本気度

集英社オンライン / 2022年9月30日 18時1分

世界的にパワハラ、セクハラ問題が深刻な映画界は、ジャンダー平等の実現が最優先事項。映画祭の立場からジェンダーギャップの解消を目指す、サンセバスチャン国際映画祭の取り組みをレポートする。

最優秀作品賞を受賞したのは3年連続女性監督作

2015年に国連総会で採択された、持続可能な開発のための、2030年までに達成すべき17の国際目標を掲げたSDGs(Sustainable Development Goals)。映画祭だって無縁じゃない。特に全世界的にパワハラ、セクハラ問題が深刻な映画界は”ジェンダー平等を実現しよう”が最優先事項で、影響力の大きい国際映画祭も動き始めている。

ゴールデン・シェル賞を受賞したコロンビアのストリートキッズのロードムービー『The Kings of the Worl(英題)』


© CiudadLunar-LaSelvaCine

9月に行われた第70回サンセバスチャン国際映画祭。映画祭のメーンであるオフィシャル・セレクション(コンペティション)で、本年度のゴールデン・シェル賞(最優秀作品賞)を受賞したのは、ラウラ・モア監督『The Kings of the World(英題)』(2022/コロンビア・ルクセンブルグ・フランス・メキシコ・ノルウェー)。1981年生まれ、コロンビア出身の女性監督の作品だ。

『The Kings of the Worl(英題)』のラウラ・モア監督(写真中央)と出演者たち
©Alex Abril

ゴールデン・シェル賞を女性監督が受賞するのは、第68回のデア・クルムベガスビリ監督『Begining』(2020/ジョージア・フランス)、第69回のアリナ・グレゴレ監督『Blue Moon(英題)』(2021/ルーマニア)に続いて3年連続。

実は、今年の8月〜9月にかけてイタリアで開催された第79回ヴェネチア国際映画祭で金獅子賞(最優秀作品賞)に輝いたのも、女性監督のローラ・ポイトラス『All the Beauty and the Bloodshed (原題)』(2022/アメリカ)で、こちらも3年連続女性監督の受賞だった。

これは偶然ではないだろう。主要な国際映画祭はジェンダー平等を意識し、女性を審査委員長にすえ、審査員の男女の構成比も対等にするのが昨今の流れ。サンセバスチャンの今年の審査委員長も、当初はグレン・クローズだった(家族の非常事態で直前にキャンセルしたため、アルゼンチンのプロデューサー、マティアス・モステイリンが務めた)。一方のヴェネチアも、ジュリアン・ムーアが務めた。

さらに応募作から選出するセレクションメンバーの比率も、男女平等に配慮するようになった。もちろんいずれの監督もすでに国内外で高い評価を得ている実力者だが、選ぶ側に女性の視点が加わったことで、彼女たちの作品がより正しく理解されるようになったことは間違いない。ちなみに、第35回東京国際映画祭(10月24日〜11月2日)の審査委員長も、ミュージカル『ライオン・キング』の演出家としても知られる映画監督のジュリー・テイモアだ。

持続可能な映画祭を模索するSDGsに則った改革

意義なし!の生涯功労賞を受賞したジュリエット・ビノシュ
©Gorka Estrada

国際映画祭が目に見える形で女性をフィーチャーしているのには理由がある。サンセバスチャン国際映画祭は2019年より応募作品全てを対象としたジェンダー・アイデンティティ・リポートを発表している。

2019年の応募本数は3013本。うち監督の男女比は、男性69.7%に対して女性は30%(ノンバイナリー&ノー・インフォメーションは共に0.15%)。2021年は応募本数3218本のうち、男性68.35%で女性30.33%(ノンバイナリーは1.24%。ノー・インフォメーションは0.08%)。

この割合はプロデューサーら他のスタッフも同様、かつ3年間ほぼ同じ。圧倒的な男性社会であり、監督やプロデューサーといった現場での決定権を持っているのも男性ということを示している。つまりこの構造は、当事者たちが確固たる信念と意思を持って行動しなければなかなか変わらない。

イザベル・コシュ監督(写真左から4番目)と映画『El Sostre Groc(原題)』の出演者たち
©Jorge Fuembuena

それを強く意識しているのが、サンセバスチャン国際映画祭である。まず映画祭の目玉であるドノスティア賞(生涯功労賞)には、デヴィッド・クローネンバーグ監督と共にフランスの国際派女優ジュリエット・ビノシュに授与。そのプレゼンターには、ビノシュと『エンドレス・ナイト』(2015)で組んだスペインのイザベル・コイシェ監督が選ばれた。

コイシェ監督は、2001年〜2008年にスペインの演劇学校で起こった教師による性的虐待を告発した女性たちのドキュメンタリー『El Sostre Groc(原題)』(2022)を発表し、裁判でも癒えぬ女性のたちの心の傷を世に知らしめた。

シンポジウムに参加したバスクの女性映画背製作者団体のメンバー
©Pablo Gomez

また同作の上映に合わせて、映画祭はCIMA(女性映画製作者および視聴覚メディア協会)や(H)emen(バスクの女性映画製作者団体)らとシンポジウムを開催し、男女平等や多様性のある社会を推進させるための調査・報告書を共に作成していくことを発表した。

映画祭期間中に設けられた託児所のポスター。映画祭スタッフとゲストも利用可能

他にも本映画祭は、映画祭運営に携わる子を持つ女性たちが働きやすいようにと、託児所を設置。レッドカーペットを再利用してエコバッグを作成し、それをフードバンクに寄贈して再利用したり、映画祭カタログの発行を中止してデジタル化、会場外の照明器具をLED電球に変えるなど、SDGsに則った改革を微に入り細を穿っている。
持続可能な映画祭とは何か?
サンセバスチャン国際映画祭はそれを模索し、問い続けている。

映画祭会期中にはスペイン文化庁主催のスペイン国民映画賞の授賞式も行われ、今年はペネロペ・クルスへ。賞金の3万ユーロは小児ガン患者の支援団体と俳優の福祉団体に寄付するという
©Gari Garaialde

取材・文/中山治美

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