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西川貴教、花江夏樹も参加し、台湾で「最も熱いアニメ」と評価。日台コラボ特撮人形劇の舞台裏

集英社オンライン / 2022年10月6日 16時1分

今回紹介するのは台湾の伝統的な人形劇。といっても日本のそれとは大違いで、剣劇シーンあり、爆破シーンありの大活劇なのだ。『魔法少女まどか☆マギカ』の脚本家、西川貴教なども参加した日台コラボ作品を紹介する。

台湾では知らぬ者のない伝統芸能「布袋劇」

今回、台湾が世界に誇る伝統芸能「布袋劇(ほていげき)」の世界に案内してくれたのは、台湾在住の西本有里さん。台湾の布袋劇最大手・霹靂(PILI)社で、日台コラボシリーズ『Thunderbolt Fantasy 東離剣遊紀』のプロデューサーを務めています。

東宝株式会社での勤務を経て、台湾へ移住。香港や台湾合作映画の通訳を務めつつ2013年より霹靂社で日台合同企画シリーズ『Thunderbolt Fantasy 東離剣遊紀』のプロデューサーとして、日本をはじめ世界各地を駆け回る


布袋劇とは、木彫りの人形に人形師が手を入れて操作する、昔ながらの人形劇のこと。17世紀に中国大陸の福建省で誕生した後に台湾へ伝わったといわれ、廟(びょう)の前で神様に向けて演じ、大衆がそれを観劇するという形で、ストーリーなども次第に現地化されながら広まっていきました。テレビのなかった時代、布袋劇は人々にとって貴重な娯楽でした。

特徴的なのは、ストーリーが武侠(武術に長け人情に厚い人間たちが織りなすドラマ)であることと、言語が台湾で古くから使われてきた「台湾語(ホーロー語)」であること。私は台湾で使われている中国語「台湾華語」しか話すことができないので、昔ながらの布袋劇を観てもぼんやりと理解することしかできませんが、台湾では今でも世代を超えて親しまれているんです。

西本さんが勤める霹靂社は30年以上も前から布袋劇の制作・配給を手がけており、特に大迫力でド派手な“特撮方式”で制作した「霹靂布袋劇シリーズ」で大成功を納めています。60分程度のエピソードを週に二話制作し、テレビ放送のほか、DVDが台湾中のコンビニで販売されていますが、一話あたり3万本は売れているというから驚きです。

「霹靂社には人形師だけで40人ほどが在籍し、朝8時から夜中の午前1時半まで六班体制で撮影するというのを長く続けているんですよ」と西本さん。

特撮の「霹靂布袋劇」を作り続ける一方、同社では、現代化や国際化を視野に入れて新たな可能性を模索しています。今話題のNFTにも挑戦し、すでに高評価を得ているそう。

そうした挑戦の中でも世界中から広く注目を集めているのが、西本さんがプロデュースされている日台コラボ作品の『Thunderbolt Fantasy 東離剣遊紀』。これまで3期にわたるテレビシリーズと、2本の劇場版が公開されているほか、関連小説や漫画も制作されているほどの人気ぶりなのです。

『Thunderbolt Fantasy 東離剣遊紀』(写真提供:霹靂社)
©2016-2022 Thunderbolt Fantasy Project

宝塚で演劇化もされた 日台コラボ作品

日本からコラボレーションに名乗りを上げたのは、大ヒットアニメ『魔法少女まどか☆マギカ』などで知られる脚本家の虚淵玄(うろぶち・げん)さんが所属するニトロプラス。もともと武侠の世界観が大好きだったという虚淵さんが、台湾で出版された著書サイン会のために訪台した際、出版社から紹介された「霹靂布袋劇」に魅了されたことがきっかけでコラボが実現したのだそう。

しかも、日本の声優による日本語のアフレコに中国語(台湾華語)字幕が付けられているので、日台どちらのファンも楽しむことができます。声優陣には鳥海浩輔さん、諏訪部順一さん、西川貴教さん、大塚明夫さん、花江夏樹さんらを迎え、主題歌はT.M.Revolution(西川貴教)さん、音楽は澤野弘之さんといった豪華製作陣が揃ったこともまた、業界を大いに沸かせました。

麗しい顔立ちにファンも多い、東離の謎の男・凜雪鴉(リンセツア)。
©2016-2022 Thunderbolt Fantasy Project

ここで、気になるあらすじをざっくりとご紹介。

舞台となるのは人間界。ですがそこには、200年前に人類滅亡を狙う魔界によって攻められた歴史があります。その大戦は、人類が神々からの教えで無双の武器を作って追い返しましたが、大戦の影響で世界が東西に分断されてしまっています。代々それら武器を守る「護印師」と、それを虎視眈々と狙う賊党たち。東側の世界東離では日々緊張が高まっていました。そんなとき、西からやってきた謎の男・殤不患(ショウフカン)と、東離の謎の男・凜雪鴉(リンセツア)が出会い、無双の武器を巡って物語が展開していきます。虚淵さんならではの綿密に練られたストーリーや壮大な世界観が魅力の作品で、あの宝塚でミュージカルにもなっています。


百聞は一見にしかず。『Thunderbolt Fantasy 東離剣遊紀』オフィシャルトレーラーを見ていただければ、その世界観の一端をわかっていただけるでしょう。

「限界まで人力で作られる」奇跡の特撮人形劇の制作現場

西本さんの案内で、台北から新幹線で一時間半ほどの雲林県にある本社スタジオと、土庫スタジオの2か所の撮影現場へお邪魔しました。

スタジオに到着して真っ先に目に飛び込んできたのは、特撮ならではの“大爆発シーン”。

「霹靂布袋劇」が日本の人形劇と違う最大の特徴は、やはりこの激しいアクションシーンです。『Thunderbolt Fantasy 東離剣遊紀3』でも、そのメイキングの一部がインターネット上で公開されています。

西本さんによれば「爆発と撮影のタイミングや角度を合わせるのはプロでも難しい」とのことで、爆発時に出た煙を風で飛ばしながら、何度も撮影を繰り返していました。

爆発シーンの撮影

爆発の迫力に負けず劣らず、舞台の上で軽やかに立ち回る人形たちは、まるで魂が宿ったように生き生きとして見えます。それらを動かすのは、熟練の技を備えた人形師たち。撮影現場の花形ですが、主役クラスの人形を担当するまでには、少なくとも15年以上のキャリアが必要になるのだそう。

舞台下で人形を動かす人形師たち
©2016-2022 Thunderbolt Fantasy Project

©2022 PILI INTERNATIONAL MULTIMEDIA ALL RIGHTS RESERVED
17歳で入社して以来、35年間人形師を務め続ける吳基福さん

手が込んでいるのは特撮だけではありません。西本さんが次に案内してくれたのは、木彫りの人形や衣装、武器などを制作する現場でした。

こちらは人形造形の製作チーム。これまではすべて木彫りで手作りされてきましたが、最近では新たな試みとして3Dプリントを採用することもあるのだそう。削り出された人形たちは、一体一体丁寧にヘアメイクを施されていきます。

今回のスタジオ取材で撮影を担当してくれた陳素稜さん。実は同社で人形のヘアメイクを担当するベテランスタッフ(撮影:近藤弥生子)

次は人形の衣装を制作する現場へ。

「『Thunderbolt Fantasy 東離剣遊紀』では、日本のニトロプラス社によるキャラクターデザインに合わせて、台湾のデザイナーが衣装や小道具を作るという協業が行われました」と西本さん。

「現場から『そんなのできないよ!』という声はなかったのですか?」と私が訊くと、「驚くべきことに、霹靂社のスタッフたちはどうしたら日本のイメージに近づけられるかと、懸命に試行錯誤してくれたんです。そんな姿勢に、私が感動してしまいました」とのこと。


人形の総重量は衣装や武器も合わせると3〜5kgほどとなり、人形師の操作にも大きく影響します。衣装はなるべく軽く仕上げてあげたいけれど、生地の見栄えにもこだわりたいところ。現場の挑戦は続きます。

デザイナーは、パタンナーと相談しながら生地を選びます

そして私が最も驚いたのは、人形が持つ武器などを担当する小道具の制作現場です。
ニトロプラス社によるキャラクターデザインを元に、担当者は武器のコンセプトから外観、動きなどの使い方までをイメージして制作し、撮影チームに提案するというのです。彼らは普段からさまざまな素材を研究していて、イメージ通りの小道具を見事に創り上げてくれるのだそう。


こちらの石信一さんは、幼い頃から「霹靂布袋劇」の大ファンで、模倣した人形を自作して遊んでいたというほどの筋金入り。武器制作への思い入れも相当なものでした。

武器などの小道具を担当する石信一さん。とても熱心に説明してくれました

西本さんを魅了した制作現場

『Thunderbolt Fantasy 東離剣遊紀』のために日々忙しく駆け回る西本さんですが、意外にも「もともとは布袋劇にそこまで興味がなかった」のだとか。確かに、武侠の概念になじみがなく、台湾語も話せない外国人にとっては、なかなかハードルの高い伝統芸能のようです。

「そんな私が『Thunderbolt Fantasy 東離剣遊紀』という作品を通じて、布袋劇を再認識することができたのは、とても幸せなことでした。虚淵さんを始めとする日本の熱き魂を持ったクリエーターの皆さんとやり取りをしながら、現場でスタジオのスタッフたちと苦楽を共にし、同じ釜の飯を食いながら過ごすことで、彼らの布袋劇にかける並々ならぬ情熱や、独自の技術、職人技に魅せられていったというのが正直なところです、布袋劇という台湾の伝統芸能の進化形に大きな可能性を感じています」

1980年入社のベテラン王嘉祥監督(左)、曾豪銘美術監督(右)と話し合う西本さん


「過去に通訳としてさまざまな日台、日本香港のコラボ作品の映像制作に関わってきましたが、この作品ほど日台の制作現場が互いを認め合い、尊敬し合うという対等な立場で制作されたものはなかったように思います。私自身も、霹靂社のメンバーも、日本とのコラボをきっかけに、改めて『霹靂布袋劇』の新しい可能性を感じることができました」

「私はこの作品にとても誇りを持っています」ーーそう語る西本さんの陰の努力が実ったからこそ、この日台コラボが成功したように思えました。

今回ご紹介した『Thunderbolt Fantasy 東離剣遊紀』は、日本からバンダイチャンネルニコニコ動画Amazonプライムビデオで第1話のみ、無料視聴が可能です。

取材・文/近藤弥生子、撮影/陳素稜

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