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【激論】高橋洋一VS古賀茂明  原発新増設が命とりに⁉ 発足1年・岸田政権の行方

集英社オンライン / 2022年10月5日 16時1分

10月4日に発足から1年を迎えた岸田文雄政権。7月の参院選までは順風満帆だったが、旧統一教会や国葬、物価高を巡る問題で内閣支持率が急落。はたして今後はどうなるのか? 元財務官僚で第一次安倍内閣ではブレーンとして活躍した嘉悦大学教授の高橋洋一氏と、元経産官僚で政治・経済アナリストの古賀茂明氏が激論を戦わせた。

アベノミクスで雇用は増えたが……

――安倍元首相が国葬に値する功績を残したのか否かで世論はかなり割れましたが、そもそも安倍元首相が取り組んだアベノミクスをお二人はどう評価していますか?

高橋 私はアベノミクスは十分に成果があったという見解。雇用政策でもある金融政策をわからない政治家がほとんどなのに、その重要さをちゃんと理解してアベノミクスに取り入れ、雇用を飛躍的に増やしたことは評価しなければならない。


9月に発売されたばかりの新著でも「安倍さんほど政策を“世界標準”で考えた政治家はいなかった」「ハッキリ言う、安倍さんが日本を救ったのだ」と記した高橋洋一氏

――アベノミクス第一の矢は異次元の金融緩和でした。

高橋 そう。「金融緩和すれば雇用が生まれる」というのは世界標準的な話なんです。そのことを私は財務省にいた頃、米プリンストン大学に留学し、後にFRB議長になるバーナンキやノーベル経済学賞に輝いたクルーグマンといった教授陣から学んだ。

それで安倍さんから金融政策についてレクチャーしてほしいと求められた時にそのことを伝えたんです。安倍さんは当初は半信半疑だったんだけど、だんだんと理解を深めてアベノミクスの第一の矢に異次元の金融緩和を掲げた。

古賀 それまで日本は財務省が主張する財政「健全化」路線が基本で、「健全化」と言っても、増税狙いが露骨で、高橋さんたちから緊縮財政だと批判されてましたね。

高橋 緊縮を進めると、失業者があふれ出る。一国の経済を評価する時、私はなにより雇用を重視して分析する。だって国民が食べていくための仕事を作り出すことは、国家の一番の経済目標でしょう。アベノミクスは歴代政権のなかで最も、それも断トツで雇用を増やした。民主党政権なんて足下にも及ばない。

民主党政権時代は60%台に低迷していた新卒の就職率もいまでは90%台になっている。これってすごいことだよ。あとは給与が上がっていれば政権として100点満点をあげてもいいんだけど、増えたのは名目賃金のみで実質賃金は伸び悩んだので、その分マイナス20点。それでもトータルで80点をあげてもいい。これはかなりの高得点だ。そんな人は歴代の首相でいませんよ。

古賀 高橋さんは、マクロ経済的な部分のみを見て評価するという立場ですよね。でも、僕はその立場はとらない。ある政権の経済政策を評価するには、単に雇用が増えたというだけでは不足でしょう。

賃金が高い質の良い雇用が増えたのか、社会保障も含めて富が国民に適切に分配されているかどうか、イノベーションが起こって国力が上がり、国民が豊かに過ごせるかどうか? そうした点の評価が欠かせない。この問題意識に照らし合わせると、アベノミクスはまったく合格点に達していませんよ。

太陽光、EV、半導体分野で惨敗した日本

高橋 高橋はマクロの雇用を重視しすぎと言われたら、たしかにそうなんだけど、でもね、GDPギャップを埋めないかぎり景気回復はせずに、失業者が増えるというのはマクロ経済学の基本。失業者が続出するというのは国家にとって最悪なんですよ。マクロの雇用の確保が政府の最大の役目というのは先進国では共通認識だ。

古賀 でも、そうやって金融緩和で雇用をつなぎとめている間に、日本企業はどんどん国際競争力を失ってしまった。金融緩和がもたらす円安に頼って輸出の手取り金額を増やして利益は出すけど、安倍さんは8年近くも首相を続けたのに何のイノベーションも生産性の向上もできなかった。

かつて「報道ステーション」で「I am not 安倍」のプラカードを掲げた古賀茂明氏は「アベノミクスで株価や不動産は上がったかもしれないけど、日本の国力アップにはほとんど貢献していない」と話す

アベノミクスの致命的な欠陥は第1、第2の矢である金融緩和と財政出動をするだけで、本当に必要な成長戦略という第3の矢を、無能な経産省と既得権を維持したい経団連に任せきりで放てなかったこと。

たとえば、原発維持にこだわって再生可能エネルギー産業を潰しちゃった。かつては太陽光で世界トップシェアだったのに、いまでは日本製の太陽光パネルを買う国はありません。やはり世界をリードしていた風力発電も2019年の日立撤退を最後に、国内で製造できるメーカーがなくなってしまった。

自動車産業も、日本メーカーと経産省が水素自動車に固執してEV作りに背を向けている間に、テスラや中国のBYDなどの外国勢がシェアをとってしまった。まずいのはEVで後れを取ると、EVに載せるバッテリーも後れをとってしまって、それまで世界シェアトップで技術面でも断トツだったパナソニックが中国のCATLや韓国のLGに抜かれ、世界では3位に転落。しかも、その差は今もどんどん広がっている。

また、半導体も台湾のTSMC、韓国のサムソン、SKハイニクスなどのアジア勢に完全に置いてきぼりにされる始末です。1人当たりGDP、購買力平価賃金、実質賃金、国際競争力といった指標で見ても世界における地位は軒並みダウンしている。アベノミクスは金融緩和しただけで、たしかに株価や不動産は上がったかもしれないけど、日本の国力アップにはほとんど貢献していないというのが僕の評価です。

高橋 そういうミクロの話はマクロが出来た後に行うもの。日本の停滞はアベノミクス下の10年間だけでなく、この「失われた30年間」の長い積み重ねだから、すぐに改善はできない。

だから、アベノミクスはその第一歩として、まずはマクロで金融緩和で雇用を増やそうとしたというわけ。マクロ環境ができればその後にミクロの話は自ずとついてくる。安倍政権は、日本は社会主義国でない自由主義の国だから、産業や企業のミクロの話に国はあまり関与しない方がよいという健全な考え方も持っていた。

岸田首相はいつまで「検討」を続けるのか

古賀 デフレ脱却のために金融緩和や財政出動がある程度必要だったということは僕も理解している。ただ、アベノミクスはその第1の矢と第2の矢が飛んでいる最初のうちに、第3の矢を射ることができなかった。というか、そもそもその「絵」がなかった。それは致命的な失敗です。

高橋 もちろん私もアベノミクスですべてが成功したと言うつもりはない。第3の矢が飛ばなかったという古賀さんの指摘は一部その通りです。でも足を引っ張ったのは2度の消費税増税と「カケ」騒ぎで規制改革が進まなかったからでしょう。それらがなければ、もっと早くに景気が回復し、2%の物価上昇やデフレ脱却という目標は達成できていたはずだと私は思ってます。

古賀さんも知っている私の知り合いは、安倍政権で規制改革をやっていたのですが、「カケ」騒ぎになったら、一部野党からその人も攻撃をされ、規制改革も開店休業状態になったと言っていました。

また、当時、安倍さんに「消費増税だけはいけません」と何度も進言したんだけど、「わかってる。わかってるけど、消費税上げは民主党政時代からの決まり事で、自分の政治パワーをもってしても抗えないんだ」と言っていた。今となってはそれがすごく印象に残ってますね。

――岸田政権が発足して1年になりますが、アベノミクスの継承も含めて、おふたりは岸田首相の政策をどのように評価していますか?

高橋 検討ばかりの印象だ。「深く検討する」「さらに検討する」「検討を加速する」って、検討のバージョンはたくさんあるけど、検討しかしてないんだから評価のしようがない。そうこうしているうちに国葬問題で支持率が危険水域まで下がった。こうなったら、もう政策どころじゃない。

古賀 これまでは原発への依存度を下げると訴えていた岸田政権だが、電力危機を煽ったあげく、8月末に原発新増設の方針を打ち出した。「決められない男」と言われた岸田さんが、あの安倍さんですら言えなかったことを言ったのは、ある意味すごい。すごいというのは正しいという意味じゃないんだけど(苦笑)。

ただ、国民は、電力危機対応で原発再稼働までは理解を示すかもしれないけど、新増設まで打ち出せば、かなり反対するんじゃないかと僕は思っていて、経済界などにおだてられて、そこを読み間違えて動くと、政権の命とりになるかもしれない。

撮影/村上庄吾

安倍さんと語った世界と日本

高橋洋一

2022/9/1

990円(税込)

新書 ‏ : ‎ 262ページ

ISBN:

978-4898318713

「ハッキリ言う、安倍さんが日本を救ったのだ! 」(髙橋洋一)

・今も続く的外れな「アベノミクス批判」
・アベガーよ、「安保法制反対! 」をウクライナで叫んでみろ!
・「悪い円安論」は無知の極み
・日本は今も全くインフレを心配する必要はない
・岸田総理よ、いま緊縮財政をしてはいけない!
・ウクライナで世界と日本の経済はこうなる
・ロシアの金融破綻の確率は・・・100%だ!
・実は日米同盟は世界基準だと「弱い同盟」である
・日本の戦争確率を確実に減らす方法を教えよう
・「平和ボケ」はお花畑からでて来なさい!
・財務省は防衛省の植民地化を狙っている
・NATO加盟を安倍さんは考えていたはずだ

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