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NHK「ドキュメント72時間」はなぜ本音を引き出せる? 制作陣が明かす他番組との“決定的な違い”

集英社オンライン / 2022年10月6日 16時1分

NHKのドキュメンタリー番組「ドキュメント72時間」。喫茶店や居酒屋、コンビニなど毎回、ひとつの場所に72時間にわたってカメラを向け、そこに行き交う人々がインタビューに対して漏らす本音は、現代の人間模様を伝えている。筋書きのない番組はどのように作られるのだろう。そして、なぜ人は取材に本音を話すのか。撮影現場に同行し、制作陣に話を聞いた。(前編/全2回)

直撃取材で浮かび上がる人間模様

番組のロケ音声を担当する寺田倫昭は言う。

「新鮮だから、じゃないですか。例えば、パン屋さんにいつものように買い物に来て、『どうしてここのパンを買うんですか』なんて聞かれるとは思わないですよね。だからこそ不意に本音を話しちゃうこともあるのかなって」


東京・南千住のパン屋の取材にて。10月7日放送予定

パン屋を訪れた客にインタビューする制作チーム

一角にカメラを設置し、3日間、店の様子を撮影

レギュラー放送開始から今年で10年目を迎えたNHKの番組「ドキュメント72時間」。毎週金曜の夜に放送される30分間のドキュメンタリー番組である。とある場所の3日間にわたる定点観測、そこに訪れた一般人への直撃インタビューから浮かび上がる人間模様――。

その会話の中に散りばめられた、市井(しせい)の極私的な「告白」にハッとさせられることも少なくない。あるときは吹雪の中でうどんをすすりながら青春時代を回想する声、あるときは相席ラウンジで異性と会話が続かない悔しさをにじませる声。はたまた脱毛サロンにやってきた男性たちの「きれいになりたい」という声……。人それぞれに違った人生がある、という当たり前の現実を目の当たりにする。

72時間の“ぶっつけ本番”の取材に、人はなぜ本音を告白するのだろうか。それも初対面の相手に――。ライターも人に話を聞く機会が多い職業である。そのためこの番組のスタッフに話を聞きたいと思っていた。

人の本音を引き出すカギとは

こと日本で、日常生活で赤の他人にいきなり声をかけられる機会は多くない。ましてや近所のパン屋で「なぜ買ったか」についてインタビューされるとは誰も思わないはずだ。聞かれた側は一瞬躊躇しながらも、話が進むにつれて緊張がほぐれていく……。
本音を引き出すカギはどこにあるのか。
番組を10年以上担当するディレクター・岡元啓(以下、岡元D)は次のように答える。

「テクニック的なものはまったくありません。専門家や教授が取材相手の場合はある程度理論武装して準備しますが、『ドキュメント72時間』の対象はあくまで一般の方々。関係性がないところからスタートするわけですから。あなたと店(取材場所)のつながり、あなた自身のことを教えてください、というスタンス。素の自分で『会話』するイメージですね」

岡元D

ロケ音声・寺田によれば、ディレクターには「相手の答えをゆっくり待つタイプ」と「ぐいぐい質問するタイプ」に分かれる。「待つタイプ」のディレクターである岡元Dはあっけらかんとした口調でこう語った。

「じっくり話していただけるかどうかは、その人の体調や気分によるところが大きいんじゃないですかね」

何か秘策があると勝手に思っていた分、拍子抜けしてしまった。それでも、と思う。岡元Dが心がけているという「普通の会話」にこそ、人が本音を話してしまう理由があるのではないか。

「どうなんですかね。その日たまたま話してもいいというタイミングに、たまたま『72時間』の取材が重なっただけな気がします。親友や恋人に話せないようなことでも、気分的にスイッチが入ってポロッと内面を明かす。これまでキャバレーや風俗街も取材してきましたが、そういう場でも意図さえ理解いただければ、10人に1人くらいの確率でじっくり話していただけます」

徹底的に先入観を捨てる取材

たまたま話してもいいタイミングに、たまたま取材が重なった――。その偶然こそが「ドキュメント72時間」を成り立たせているのかもしれない。プロデューサー・篠田洋祐(以下、篠田P)も同調する。

「他の番組、例えば情報番組などでは、それまでの事前取材から答えをある程度想定した上で街角インタビューに臨むことがあります。でも『ドキュメント72時間』では徹底的に先入観を捨てる。こう聞かなきゃいけない、こういった答えがほしい、という意識が強いと、“想定外”のコメントが出てこないんです。事前に決めつけないで撮影に臨む。そういう特殊性はあるかもしれません」

篠田P

そして、「本音を話していただける理由の答えになっているかはわかりませんが……」と前置きした上で、篠田Pは次のように続けた。

「番組の特徴である『だそう』『なんだって』といった伝聞風のナレーションも、事前に決めつけない取材姿勢と関係しています。撮影クルーが取材中に『現場を知っていく感覚』を、番組を見る方も一緒に追体験してほしいという思いがありまして。『我々にはまだ知らないことがたくさんある』が番組のポリシーなんです。

だからこそ、登場する方のコメントの意図も制作側で決めつけたくない。ひとつの番組で『これが現代の日本の姿です』なんて断定できませんし、するつもりもありません。最終的な解釈は視聴者に託しています」

では、実際に現場でどのように取材が進められているのだろうか。9月初旬、東京・南千住のパン屋の撮影に同行した――。

取材・文/田中 仰
撮影/一ノ瀬 伸

【番組情報】
ドキュメント72時間
NHK総合・毎週金曜22時45分〜
※再放送はNHK総合で毎週土曜9時〜、NHK BS1で毎週水曜17時〜
公式HP>>

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