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日本産だからといって全て和牛とは名乗れない? 和牛を取り巻く品種改良のヒミツ

集英社オンライン / 2022年10月12日 10時1分

A5ランクの肉と聞くと最高級というイメージがあるけど、ランク付けについては知られていないことが多い。そんな牛肉のランク付けや人気の和牛について、農林水産省 大臣官房広報評価課広報室の白石優生氏の『タガヤセ!日本「農水省の白石さん」が農業の魅力教えます』(河出書房新社)から一部抜粋・再構成してお届けする。

日本で育てているからだけでは「和牛」とは名乗れない

日本中で愛されている和牛のお肉も、日本人の品種改良のたまものです。
「和牛」と「国産牛」のちがい、みなさんは知っていますか? じつは和牛を名乗るためには厳しい決まりごとがいくつもあるんです。和牛の定義は法律でしっかりと決められています。
「和牛」とは日本固有の牛の品種です。具体的には、日本で長い年月をかけて品種改良されてきた黒毛和種、褐毛和種、無角和種、日本短角種の4品種と、それらの交雑種を指します。


日本で販売されている和牛の約98パーセントは黒毛和種です。但馬牛、神戸ビーフ、特選松阪牛、米沢牛などの有名ブランド牛も、黒毛和種になります。

和牛と名乗るためには品種のほか、生育環境の決まりもあります。日本国内で生まれ、日本国内で育てられた牛であること、さらにそのことを牛トレーサビリティ制度※1で確認できなくてはなりません。

写真はイメージです

逆に言えばそれ以外の牛は「和牛」ではありません。日本で育てている牛だからといって、和牛を名乗れるわけではないのです。
ちなみに「国産牛」は、品種や生まれた土地は関係ありません。生まれてから出荷までのあいだ、日本で飼育された期間がもっとも長い牛を指します。
牛は繁殖と肥育※2を分けておこなわれるのが一般的です。そのため、ニュージーランドで生まれて現地で8カ月育てた子牛を日本に輸入し、20カ月日本で育てれば国産牛を名乗ることができます。

※1 牛が生まれてから牛肉として消費者に届けられるまでの情報を追跡確認するためのシステム。BSE(牛海綿状脳症)のまん延防止措置を目的として作られた

※2 牛や豚などの家畜を食用とするために大きく育てること。

A5ランク=おいしいお肉とは限らない?

また、牛肉には日本独自の格付けシステムがあります。「A5ランクの肉」という言い方を聞いたことがある人もいるでしょう。テレビで、「A5ランクの黒毛和牛だから、おいしいんです!」なんてレポートされていることもありますよね。この「A5」が格付けです。アルファベットと数字にはそれぞれ意味があります。
アルファベットは「肉の歩留まり等級」を意味します。歩留まりとは、牛1頭からどれだけの肉がとれるかを表しています。牛肉の格付けでは肉の割合が多い順に「A・B・C」の3段階で表示します。
数字は「肉質」と言われるもので「1、2、3、4、5」の5段階で表します。
この数字は次の4 項目から決まります。

① 脂肪交雑
「霜降ふり」や「サシ」とも呼ばれる脂肪の度合い。数字が大きいほど脂肪が多いことを表す。
②肉の色沢
肉の色と光沢。鮮やかな赤色で、かつ光沢のいいものほど数字が大きくなる。
③肉の締まりおよびきめ
きめが細かく、肉が締まっているものほど等級が高く、数字が大きくなる。
④脂肪の色沢と質
脂肪は白ければ白いほど数値が高くなる。脂肪が白く、光沢と質もかなり良いものが最高級の5と判定される。

この4項目をひとつずつ5段階で評価して、いちばん低い数字がその肉の格付けとなります。たとえば、歩留まり等級がAで、肉質等級の4項目が「5、3、5、4」だったとしたら、その肉の格付けは「A3」になります。

どうでしょう? これで格付けの意味がなんとなくわかったと思います。みなさんは、格付けの意味を知ってどう思いましたか?
僕がこれの意味を理解したときに最初に思ったのは、「格付け=おいしさじゃないんだな」ということでした。特に肉の歩留まりを表すA・B・Cがそのいい例だと思います。

A・B・Cは、肉の卸売業者さんが市場で肉を買うときの判断材料としては必要な表記ですが、肉を食べる消費者にとってはほとんど関係のないものです。にもかかわらず、「A5」の言葉だけが世間でひとり歩きしているような気がします。みなさんのなかにも、A・B・Cを「おいしさの順番」だと思い込んでいる人はいませんか?
格付けだけを基準に牛肉を選んでいる人は、本当にもったいないです! なぜなら、自分好みの食材を味わって選ぶ楽しさを捨てているようなものだから。

味の好みは十人十色です。甘みのあってやわらかい霜降り肉が好きな人もいれば、赤身の味としっかりとした歯応えが好きな人もいます。
牛肉のおいしさに正解はありません。また、どの格付けの牛肉も畜産農家さんが手間暇をかけて一生懸命作っていることには変わりはありません。いろいろな格付けの牛肉を自分で食べ比べてみて、自分好みの味を見つけてほしいなと思います。

写真はイメージです

和牛の価格が高い理由

「和牛、おいしいんだけど……でも高いじゃん!」
そう思って、なかなか手が出ないという気持ちもわかります。日本では1991年に牛肉の輸入が自由化され、外国産の安価な肉がたくさん入ってくるようになりました。
そんな状況のなかで、日本の畜産農家さんたちは外国産の安い肉と競争しなければなりませんでした。どうすれば和牛を買ってもらえるか、必死に知恵をしぼってきました。
その結果、和牛はいかに霜降りのやわらかい肉を作るかという方向性を追求していくことになったのです。

霜降り肉を作るのは難しく、時間がかかります。そのため、多くの需要に対して供給量は少なく、必然的に霜降りの肉がたくさん取れることを意味する「A5」の牛肉の値段が高くなっている現実があります。牛肉を買う消費者として、みなさんにはぜひこのことを知っておいてほしいと思います。
ちなみに日本人が大好きな和牛はここ数年、海外でも大人気! 海外には和牛のような霜降り肉がほとんどないため、味の良さと肉質のやわらかさが珍重され、A5の肉が人気を集めています。

2020年から和牛の輸出量は右肩上がりで伸びています。
2021年はコロナ禍によって消費者がインターネット通販や宅配を使って外食より安価に和牛を楽しめるようになったことなどが影響し、なんと2020年の倍以上の輸出量となりました。現在、アメリカ、ヨーロッパ、アジア諸国に輸出されており、今後もますます輸出量が伸びると期待されているんですよ。
僕たちが「おいしい」と思っているものが海外でも評価されているいまの状況は、日本の農業にとってもうれしいニュースですよね。


品種改良によって生まれた「コシヒカリ」「博多あまおう」「和牛」の素晴らしさについて見てきました。日本には、ほかにも品種改良によって誕生した優れた農畜産物がたくさんあります。日本ではなぜ、これほど品種改良がさかんにおこなわれてきたのでしょうか。

理由はいくつか考えられますが、最大の理由は日本の地理的条件にあります。
日本は国土がせまいために広い農地を作ることができず、大量生産ができません。そこで、せまい土地でも毎年安定した量を収穫できるよう、品種改良に力を注いできました。雨に強い品種、暑さや寒さに強い品種、病気に負けない品種、害虫に強い品種などを作り出し、小さな農地でしか農業ができない弱点を克服してきたのです。

たとえば、日本の小麦の作付面積はアメリカのそれに遠くおよびませんが、1平方メートルあたりの収量は日本のほうがずっと多いのです。すごいですよね。これはまさに、品種改良の成せるわざです。

せまい土地でも効率よく、質の高い作物を安定した収量で確保する。そうした努力を続けながら、日本の品種改良は、味の良さを追求することにも力を注いできました。その結果、国内外から高い評価を受けるたくさんの品種が誕生したのです。海外と比べて農地に使える土地が少ないという弱点があったからこそ、日本の品種改良がこれだけ発展していったのです。

『タガヤセ!日本
「農水省の白石さん」が農業の魅力教えます』

白石優生 農林水産省 大臣官房広報評価課広報室

河出書房新社
2022年7月26日発売

1562円(税込)

四六判/192ページ

ISBN:

978-4-309-61740-4

農業ってこんなに面白い! 若き官僚YouTuberとして多くのメディアにも登場する著者が、最新の農業から、実はスゴい日本の農作物のこと、さらには日本の農業の未来までを語る1冊。

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