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「家族をバンドや劇団に置き換える」マキタスポーツに聞く“老害おじさん”にならないための処世術

集英社オンライン / 2022年10月14日 12時1分

芸人、ミュージシャン、俳優、文筆家として活躍し、プライベートでは4人の子供の父親でもあるマキタスポーツ。映画『MONDAYS/このタイムループ、上司に気づかせないと終わらない』が話題の彼に、つまらない大人にならないための処世術を聞いた。

“おじさん”は自分でループを作り出す生き物

マキタさんが『MONDAYS/このタイムループ、上司に気づかせないと終わらない』で演じた永久部長
©CHOCOLATE Inc.

――映画『MONDAYS/このタイムループ、上司に気づかせないと終わらない』(2022)は、小さな広告代理店に勤める社員たちがタイムループに陥る物語。マキタさんが演じたのは、社員の中で唯一タイムループに陥っていることに気づいていない、永久(ながひさ)部長役です。完成した作品をご覧になった感想は?



こんなに同じ1週間を繰り返していたんだって、本当にうんざりしましたね(笑)。若い社員たちは徐々にタイムループに気づいていくんだけど、最後まで部長だけがわかっていない。時間の解釈が人によってまだらな感じが、じんわりと面白かったです。

――くだらない親父ギャグを言いながら出社してくる永久部長の姿を見て、部下たちは「また同じ月曜日を繰り返している!」と気づきます。同じシーンに見えますが、すべて演じわけられたんですか?

使い回しはほとんどしてないんじゃないかな。実際に演じましたね。僕がまず思ったのは、部長自体がタイムループの象徴だということ。なんかね、おじさんになってくるとイレギュラーなものを許せなくなってくるんですよ。

同じ時間帯に起きて、同じ時間帯の電車に乗り、決まった時間にトイレに行って、ご飯を食べる。同じお店の同じ席に座り、そこで決まった数のビールを飲んでお家に帰る……。そういうループを自分で作り出すようになるんですよね。だからこそ、毎日同じような新鮮な気持ちで、低レベルのダジャレを言えるんだろうなって。

映画の中では、そんな部長にもチャレンジ精神があって、若い頃には夢が正しくあった過去が描かれます。歳をとってルーティンに埋没し、ひとりだけタイムループに気づかない“つまらない大人”の典型である永久部長を変えようとする展開は、面白かったです。

――マキタスポーツさん自身は、“つまらない大人”と真逆のイメージです。

そう思っていただけたらすごくありがたいんですけど、家族からは、同じ話をするおじさんとしておなじみです。家族の中では永久部長ですよ。

僕自身は自由業ですから、サラリーマン的な暮らしをしている方の生活スタイルとは違うし、そこにあまり馴染めずにエンタメの世界に入った人間です。だからこそ、規則の中でルーティンを繰り返すことに対する漠然とした憧れがあるんです。

自由業ではあるけれど、その中でどうやって規則やマイルールを作っていくかに関心があります。ルーティンを作ると、安心しますからね。僕の場合はカバンの中がそう。“このブロックにこれを入れる”ということを全部決めているんです。でも、ルールを決めて環境を整備すると、今度は旅先とか、イレギュラーな場所で想定外のことが起こるとパニックになるんですよね。

これって、災害とかに関しても言えることだなって。人間が環境を整えて、想定内の範囲をいくら広げても、想定の範囲外からやってきたものに対しては対応ができない。ルールやルーティンの中にいると安心だけど、イレギュラーなことはあるんだということを、考えておかないといけないと思います。

価値観を更新させられる、娘たちからの言葉

――マキタさんは、若い世代から指摘されて、初めて自分の一面に気づいた経験はありますか?

家族とのやり取りの中ではありますね。まさか自分が老害化しているなんて思っていないですから。うちは長女、次女、歳が離れた双子の男の子がいるんです。どうしても男の子をしつけるときに「泣くんじゃない、男だろ!」みたいなことを言っちゃうんです。そうすると、娘から「はい出たー! 男だろうが、女だろうが関係ないんだよ」なんて言われます。

僕は男性中心のホモソーシャルな世界で当たり前に生きてきたので、ポロンと、そういう発言が出ちゃうんですよね。問題意識のあり方が、ちょっと違う。そこに気づく感性や観点が必要とされてきていることはわかるんですけどね。

一番身近にいる若い世代の娘たちから、新たな問題意識を提示されて「ああ、そうか」と気づかされることは多いです。

あと妻や娘たちから「パパは表情がないね」と言われるんです。「街を歩いているおじいちゃんを見てごらん。難しい顔をしてるでしょ。でもおばあちゃんを見てごらん。梅の木なんかを、ニコッとしながら見てるよね」って。

つまり、女性の方がにこやかに、しなやかに社会や事象に接していたりするということ。男の人はやっぱりね、滅多に笑うもんじゃないみたいな感じで思ってるんですかね。

難しい顔をしているつもりはないけれど、「パパは人より笑ってなくちゃダメなんだよ」と言われています。

――価値観や意識の更新を日々されているんですね。

ただね、やっぱりループおじさんなんで。気がつくと自分の安心・安全なルーティンに戻りたがる傾向はありますよね(笑)。

家族を一番ミニマムな社会に置き換える

――映画では、部長と若手社員の世代間の断絶を描いているように見えますが、難局を乗り越えるために一致団結する、意外にも感動的な展開が待ち受けています。マキタさんは、人との断絶を生まないために、心がけていることはありますか?

僕は放っておくと断絶しようとするタイプなんです。元々、芸人としては漫才をやりたかったし、音楽ではバンドを組みたかった。でも若かりし頃は両方うまくいかなかったんですよ。漫才の新たな相方を探すとか、バンドメンバーを探すということよりも、僕ひとりでいることを選びました。そのほうが楽だから。

でもやっぱりある程度、社会にコミットするためには、他者に貢献しないといけないということは、家族を持ってからリアルに感じるようになりました。家族をバンドや劇団だと思えば、その場に対する頭や身体の使い方は違ってきますよね。

家族を一番ミニマムな社会に置き換えて、どう貢献できるかは考えるようにしています。断絶しがちな脳みそだからこそ、そうならないことに意識的なんだと思います。

――具体的には、どんな貢献をされていますか?

家族で旅行をしたり、結婚記念日を忘れないこととかですかね。家族だとどうしても甘えてしまうけど、所詮、他人同士の集まりですから。いくらでも関係性がひっくり返る可能性はあるという意識を持っています。家族の存在は、僕にとって明らかにいい変化をもたらしたと思います。

――普段、娘さんから辛辣なことを言われることも多いようですが、逆にかけられてうれしかった言葉は?

長女が通っていた学校の行事に参加したことがあったんです。そしたら彼女がいないところで学校の先生から、僕のことを尊敬しているようだと聞きました。僕の前では基本的に悪態をついていますけど、うれしかったですね。

というのも、その先生が、僕の出演するテレビ番組をよく見てくれていたんですって。で、「君のパパは音楽をこういう角度で紹介していて、すごく面白くてためになるんだよ。君のパパはすごいんだよ」と娘に言ってくれたらしいんです。
そしたら「でしょ。私もパパをすごいと思ってるもん」と……。

その日は、強くて高めのウイスキーをゆっくり、舐めるようにいただきました(笑)。

――『MONDAYS/このタイムループ、上司に気づかせないと終わらない』がSNSで話題になっていることを教えてくれたのも、娘さんだそうですね?

「パパ、話題の映画に出るんでしょ」と言ってましたね。長女は今、大学生なんですが、学校で映画史的なものを勉強しているらしいんです。感性が育ち始めている中で、この映画の情報を見たと思うのですが、それはうれしかったですね。

最近は「パパのおすすめの映画ある?」と聞かれました。学校で『市民ケーン』(1941)を見たらしく、「死ぬほど退屈だった」と言っていて(笑)。

確かに、20歳の女の子がいきなり『市民ケーン』を見るのはキツいだろうなと思って。いくつか思いついた映画を教えました。そしたら「買って〜」なんて、急に甘えられましたけど。

――おすすめした作品とは?

黒澤明監督の『七人の侍』(1954)、北野武監督の『ソナチネ』(1993)、ブライアン・シンガー監督の『ユージュアル・サスペクツ』(1995)。

あとはジャック・ベッケル監督の『穴』(1960)、ジャン=リュック・ゴダール監督の『勝手にしやがれ』(1960)、ルイ・マル監督の『死刑台のエレベーター』(1958)あたりをすすめました。

――ますます尊敬されそうですね。

僕は恵まれていると思います。でもそれは、一朝一夕でできたものではない。貢献もしてきたし、普段、辛辣な言葉を浴びていますから(笑)。



取材・文/松山梢 撮影/MISUMI ヘア&メイク/永瀬多壱(VANITÉS) スタイリスト/小林洋治郎(Yolken)

ジャケット/¥44,000/FACTOTUM/Sian PR、シャツ/¥5,500/remember/Sian PR、ベレー帽/¥13,200/MAISON Birth/Sian PR

『MONDAYS/このタイムループ、上司に気づかせないと終わらない』(2022)上映時間:1時間22分/日本


小さな広告代理店に勤める吉川朱海(円井わん)は、ある月曜日の朝、後輩2人組から、自分たちが同じ1週間を何度も繰り返していることを知らされる。他の社員たちも次々とタイムループに気づいていくが、脱出の鍵を握る永久部長(マキタスポーツ)だけが、いつまで経っても気づいてくれない。どうにか部長に気づかせてタイムループから抜け出すべく、社員たちの悪戦苦闘の日々が始まる……。

10月14日(金)より東京・大阪・名古屋で先行公開 10月28日(金)より全国順次公開
配給:PARCO
©CHOCOLATE Inc.
公式サイト
https://mondays-cinema.com

マキタスポーツ
1970年1月25日生まれ、山梨県出身。芸人、ミュージシャン、俳優、文筆家。主な出演作は映画『苦役列車』(2012)『みんな!エスパーだよ!』(2015)『闇金ウシジマくん』シリーズ、『劇場版 きのう何食べた?』(2021)など。

松山梢

フリーライター

映画専門誌「ロードショー」の編集を経てフリーライターに。 現在は、映画や演劇に関するインタビューをはじめ、スポーツや美容、ライフスタイルに関する記事などを執筆。日本映画ペンクラブ会員。

ロードショー編集部

1972年に創刊し、2008年に休刊となるまでの36年、多くの映画ファンから愛されていた 映画雑誌「ロードショー」。
現在も数多く届く復刊希望の声をうけ、集英社オンラインでは、映画に関する記事は「ロードショー」レーベルで発信します。
劇場で、配信やサブスクリプションでと、映画を作る環境も見る環境も多様化し、膨大な数の作品が作られている今だからこそ、本当に見たい映画を選び、より広く深く楽しむための情報や読みものを届けます。

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