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重要文化財を1億円かけて映画館にリノベ。オープン約1年で動員1万人を突破した東京・青梅「シネマネコ」

集英社オンライン / 2022年10月15日 17時1分

東京・青梅市にあるミニシアター「シネマネコ」は、国登録有形文化財・旧都立繊維試験場をリノベーションした都内唯一の木造建築映画館。地元の人のみならず、全国からファンが駆けつけるという、レトロかわいい映画館の魅力に迫った。

都内唯一の木造建築映画館

養蚕が盛んだった青梅は、ネズミ除けとして猫を大切にしてきた歴史が。館名の由来はここから

東京都青梅市に50年ぶりに復活した映画館「シネマネコ」。2021年5月2日にオープンしてから約1年半。座席数63席ながら約1年で観客動員1万人を突破し、特別会員「ネコ会員」の会員数も800人を超えた。8月からは連続講座もスタートし、地域の文化発信基地として根付きつつある。



今夏開催された連続講座第1弾のタイトルは「建築デザインからまなざす シネマネコ」。都内唯一の木造建築の映画館であり、しかも青梅織物工業協同組合敷地内にある国登録有形文化財・旧都立繊維試験場をリノベーションしたというシネマネコの真髄を解き明かす内容だ。

講座を始めたきっかけは全国からの声。オープン以来、シネマネコ代表・菊池康弘さんのもとには、「映画館を作りたい」「地域活性化事業をしたい」という相談や講演依頼が相次いだという。その声に応えるべく、キーマンである建築家・池上碧さんを招いて開館までの軌跡を辿った。

代表の菊池康弘さんは、俳優として活動していた過去が

そもそもシネマネコは、青梅市内で飲食店を経営する菊池さんの侠気から生まれたものだ。かつて青梅には映画館が3館あったが、1974年に消滅。その後は地元商店街活性のため、映画看板師・久保板観さん(本名・昇さん)による名作映画の看板で街を彩り、“昭和レトロな街”をウリに観光の呼び水としていた。しかし2018年に板観さんがこの世を去り、看板も老朽化が進んだことから安全のために撤去された。

菊池さんは寂しくなる街を見ながら「再び映画で復活させたい」と、2018年に映画館プロジェクトを始動。候補地についてタウンマネジャーの國廣純子さんに相談したところ、提案されたのが集会所として活用されていた旧都立繊維試験場。費用は、経済産業省の商店街活性化補助金とクラウドファンディング、地元企業の協賛金、そして自己資金で賄うこととなった。

しかし肝心な建築家が見つからない。すると國廣さんが「ウチの旦那も建築家です。あまりオススメしませんが」と謙遜しつつ池上さんを紹介してくれたという。

シネマネコを手がけた建築家の池上碧さん

「著名な建築士も紹介してもらいましたが、必要だったのは、木造を生かしながらリノベーションする能力に長けた方。池上さんのポートフォリオを見せていただいたときに、非常にインスピレーションを得た写真がありました」(菊池さん)

胡同の再生プロジェクトで完成した図書館
©ZAO/standardarchitecture, 撮影:Su Shengliang

それが池上さんが中国の建築事務所に所属していたときに手がけた、北京の旧市街にある胡同の再生プロジェクトの写真だった。胡同は中庭を建物で囲んだ四合院という中国伝統の住宅様式が立ち並ぶ趣きある街だが、人口増加に伴い中庭に増築する人が増えた。そして、北京五輪後の都市整備などで取り壊しや空き家が増え、荒廃してしまったという。政府の要望は、古い建物を真似た新家屋を作り、ドラマに出てくるような街並みに戻すこと。

だが以前、同じく中国オルドス市の都市開発に携わった池上さんには、苦い思い出があった。同市は地下資源が豊富で不動産投資が進み超高層ビルが乱立。ところが寒さ厳しい地域で移住が進まず、あっという間にゴーストタウン化してしまったのだ。

胡同の中庭に建てられた図書館は子供たちの遊び場にもなっている
©ZAO/standardarchitecture, 撮影:Su Shengliang

その経験を踏まえ、池上さんが胡同のプロジェクトで提案したのは観光招致よりも残っている住民のための街の再生。そして、模倣建築ではなく伝統を生かすリノベーションだった。完成したのは、雑然としていた中庭に開放感を与えた子供図書館。子供たちが自由に遊んでいるその写真は、建築は人に活用されてこそ息づくことを見事に物語っていた。

2021年にグッドデザイン賞を受賞

フランス・キネット社の劇場用シートは、2018年に閉館した新潟県の十日町シネマパラダイスから受け継いだもの

自分が理想とするリノベーションの方向性と合致していた菊池さんは、早速、池上さんに依頼。池上さんも「中国の経験が生かせるのではないか」とふたつ返事で快諾したという。

ただし木造建築を映画館にリノベーションするのは消防法や興行場法で厳しい基準があり、相当ハードルが高い。特に今回は、天井や壁に張り巡らされていた梁をそのまま活用しており、その解体工事だけでも2か月を要したという。費用もかさみ、最終的には予算を遥かにオーバーする約1億円に。

梁を生かした高い天井が特徴

それでも館内に入ってまず目に飛び込んでくる梁は、木造建築の良さを実感させてくれるシネマネコの名物に。愛らしいブルーの外観も手伝って、2021年度のグッドデザイン賞(主催:公益財団法人日本デザイン振興会)の「商業のための建築・環境」分野で受賞に輝いた。

カフェではネコ形のフレンチトーストが提供されている

「木造建築を商業施設に改修した例として評価頂き、映画ファンだけでなく建築家の方が参考にと来館してくれる。織物の街である青梅の歴史も、映画と共に伝えられたら」(菊池さん)

「建築を一から作る楽しみもありますが、歴史を紡いでいくのも大切。青梅には古くて魅力的な建物がたくさんあるので、そんな仕事に自分がどうやって関わっていけるのか。それがこれからの自分のテーマかなと思っています」(池上さん)

9月15日には、地域の高齢者の声を反映した映画館入り口のバリアフリー化も完了。講座のみならずコンサートなどのイベントも増え、訪れる幅広い観客たちの息吹がシネマネコを進化させていく。


文/中山治美 構成/松山梢

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