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「人生最高の仕事」「のんはとてつもない天才」。“義兄弟”の監督と原作者が語る『天間荘の三姉妹』のすごい魅力

集英社オンライン / 2022年10月17日 12時1分

のん・門脇麦・大島優子が三姉妹を演じることで話題の映画『天間荘の三姉妹』。その北村龍平監督と、原作の同名漫画著者・髙橋ツトム氏は長年の盟友だ。ふたりだから語れる製作秘話を聞いた。

主演の“のん”はワンアンドオンリー、とてつもない天才

海に面した風光明媚な街・三ツ瀬。そこにある老舗旅館・天間荘は、瀕死の身体を離れた魂が、現世に戻るか、天界に旅立つかを決めるまでとどまる場だった…。そんなファンタジックな設定の映画『天間荘の三姉妹』(10月28日公開/東映配給)の原作は、実は同名の青年漫画! 緻密かつダイナミックな画風と骨太なドラマ作りに定評のある髙橋ツトム氏の作だ。

そして映画化を手がけたのは、『ゴジラ FINAL WARS』(2004)『ルパン三世』(2014)など、スタイリッシュかつ迫力のアクション描写で知られるアメリカ在住の北村龍平監督。本作では得意のバイオレンスは封印、主演ののんをはじめ、豪華キャストの魅力を存分に引き出し、心温まるヒューマンドラマに仕上げてみせた。



実はおふたり、2003年に映画『ALIVE アライヴ』で原作者と監督として出会い、約20年来のつきあい。『天間荘』の元となったシリーズを元にした『スカイハイ 劇場版』(2004)や『LOVEDEATH-ラブデス-』でもタッグを組み、「兄弟」と呼び合う仲なのだ。気心知れた盟友だからこそ引き出せる互いの本音や、映画製作の裏話をたっぷり話していただいた。現場にたまたまいあわせた、脚本の嶋田うれ葉さんのうれしい飛び入り発言も。

ふだんはコワモテをリクエストされるので笑顔の写真を、と希望された北村監督(左)と髙橋氏

──タイトルロールの三姉妹は、若女将の“のぞみ”に大島優子、次女でイルカトレーナーの“かなえ”に門脇麦、事故で臨死となり天間荘を訪れた、母親違いの妹“たまえ”にのん、という実力派ぞろいのキャストですね。

髙橋 のんちゃんが演じてくれたたまえの、あの明るいキャラクター成分は漫画の設定上必要でした。基本的に作品の世界観はダークですし、現世と同じ姿をした街の人たちが実は…という部分をオブラートに包むように狂言回しをするキャラクターのような存在がいなければと。
映画を拝見して、その役割を果たしたのんちゃん、とてつもない天才だと思いましたよ。あの三姉妹の持ってる突出した部分にせよ、性格にせよ、実にリアルな側面も感じさせてくれて。

北村 のんちゃんとは原作や脚本を読んでいただいた段階で話をして、分かりあえていると思ったんですね。彼女は他の誰とも似ていない“のん”というワンアンドオンリーな存在で、ある意味とてもハリウッド的な役者だなと感じました。
もちろん、三姉妹のほか素晴らしいキャスト全員がそうなんですが、きちんと役柄を掘り下げて完璧な準備をして、それぞれの答えを持って現場に来てくれていたので、あとは現場で自由に話し合いながらセッションのような感じで一緒に作り上げていくことができたのは刺激的でした。

左からのぞみ(大島優子)、かなえ(門脇麦)、たまえ(のん)の三姉妹

髙橋 天間荘のみんなが完全に家族になってるのがすごかったです。
大島さんと門脇さんは冒頭のたった3分くらいで、キャラをもうパーフェクトにつかんでくれて。あれでもう俺はこのまんま(物語の世界観に)ついていけばいいんだなって思わせてくれた。

北村 おっしゃるとおり、冒頭の3分で観客を乗せてそのまま惹き込まなきゃダメなんで、長回しのワンテイクに見える演出にしました。映画の導入としても、のぞみの緊張感とリンクした、ある種ジェットコースターの最初のような「ガタガタガタ」と昇って行くようなワクワク感に惹き込まないと、普通のホームドラマみたいになっちゃう。大島さん、門脇さんなら絶対にそれを体現してくれるとわかってました。

三田佳子が面と向かって降板の申し入れを!?

──大女将役の寺島しのぶさん、客の財前役の三田佳子さんも素晴らしかった。

北村 お二人しか考えられませんでした。やっぱりとんでもなく素晴らしい女優じゃないですか。
寺島さんとはお互いに遠慮なく議論ができたんですね。ドラマとか映画の現場って、どうしても時間もお金も制限がある中で、プロとしてどんどんこなしてスケジュールを消化するような状況でやるしかない現場も多いのですが、今回はちゃんと現場でディスカッションして撮れるような予算と日数をプロデューサーが守ってくれたので、納得いくまで議論し、試しながら撮影することができて、それがとても有意義でした。

『リトル・ロマンス』(1979)が好きという北村監督。『天間荘』にもそれを意識した場面があるそう

──三田佳子さん演じる財前は、かたくなに打ち解けず長逗留している客という難役。引き受けるのはある意味かなりの勇気もいったのではと察するのですが。

北村 三田さんは漫画のキャラを完コピすると言ってくださって。「そこは特に寄せなくともかまいませんよ」とお伝えしましたが、原作通りの同じサングラスで同じ髪型で完コピするんだと(笑)。しかしマンマでしたね。女優・三田佳子は、やっぱりとてつもなく凄かったです。僕が生まれるより前から60年間、銀幕の世界でのトップランナーなんてとんでもない話ですよ。

原作のキャラを完全に再現した、財前役の三田佳子(右)

コミックス4巻分ある原作を、映像ではなんとか2時間半で収めなきゃいけなかった。登場人物全員の見せ場を作りたいので、組み合わせには悩み、脚本作りにおいては、とてつもない難解なパズルをやってたわけです。時にはまったく違う方向に行ってみることも必要で、三田さん演じる財前についても試行錯誤を繰り返していました。

そんな中、プロデューサーから「三田先生が明日、監督とお会いしたいと云っておられます」と聞きました。その時点での脚本では財前の役がどうにも迷走してしまっていて、魅力に欠けていたので、これは降板の申し入れに来られるのだな、と考えました。礼節を重んじる方だから、断る時にも面と向かってその機会を設けたいという意味なのではと。
絶対そうだと。まずいと思って。そう言わせてはいけないと思っていましたし、僕の中で脚本の問題点はわかっていたので、真摯に修正点と気持ちをお伝えしようと考えていました。

翌日、三田さんがいらして「監督…」とおっしゃった瞬間、やはり断りに来られたんだと確信したんですよ。しかしそれだけは言わせちゃならないと思ったので、速射砲のように30分くらい延々想いを伝え続けたんです。そしたら三田さんが「あらいやだ、監督。私、お断りしようと思って来たんですよ。でもやる気になっちゃった(笑)」と。三田さんは女優としてもひとりの女性としても素晴らしくてとてもチャーミングな方なんです。そこから脚本を全面的に書き直したら大変気に入ってもらえたのですが、結果、出番がめちゃくちゃ増えてしまって事務所の方には「大変ありがたいんですが、スケジュールがハード過ぎて」と言われました(笑)。

原作漫画を読み、泣いて感動した監督

──その脚本を手がけられたのは嶋田うれ葉さん。起用の理由は?

北村 10年ほど前から仲良くさせていただいてるんですが、それがまた不思議な縁なんです。
実現しなかったあるプロジェクトで一緒に脚本を書いていて。当時はまったくの無名でしたが、僕は彼女の人柄と才能に惚れ込んで、ただ者じゃないと感じていました。以来ずっと仲良くしていて、2019年に久しぶりに会った時に、NHK連続テレビ小説の『エール』を書くことになったと聞いても、驚きませんでした。

じゃあそろそろ一緒に何かやろうっていう流れのタイミングで、『天間荘』の原作を読んでもらったら、彼女が「今の時代こそ伝えなきゃいけない物語です」と言ってくれて。まずは脚本だということになり、僕はアメリカからリモートやたまに帰国した時に打ち合わせ、うれ葉さんがずっとまとめてくれてて。完成までにかれこれ1年かかりました。

髙橋 確かにその頃、龍平監督は実写で『天間荘の三姉妹』をやりたいと言ってましたね。連載時から、「すごくよかった。泣いた。感動した」と言ってくれたんだけど、内容は難しいし、世間が求めてる北村龍平像は違うところにあるんじゃないかとか、そう簡単ではないぞと。

でも俺は彼と付き合いも長いし、本当にやるならなんとかするんだろうとは思ってた。

意外にもオードリー・ヘプバーン好き。来日時には追っかけをしたこともと語る髙橋氏

北村 映像化が非常に難しいというのはわかっていたんです。でも今回、最初に導火線に点火してくれたのは、やはり嶋田うれ葉さんなんですね。
朝ドラの脚本家っていうのはやっぱりすごい看板なわけなんですよ。かつ彼女の持つフレイヴァーというものがこの作品に合っている。そういう意味でも、彼女が乗ってくれたことはとても大きかったんです。

髙橋 いきなり北村龍平に『天間荘の三姉妹』撮れっていう人はあまりいないと思うんです。でもそれが成立するような雰囲気というか流れになってきましたよね。北村龍平は今、そういうフェーズに入った。本作を見てもらったら、彼にこういうタイプの作品を注文していいんだという。血の一滴も出てないですからね。あっても魚の血程度(笑)。
うれ葉さんもぜひ参加してくださいよ!

嶋田うれ葉 原作を読んだ瞬間にホントに今やんなきゃ!と感じて、すぐ脚本にしますって。今この瞬間にやらなかったらこの企画が実ることはないかもしれない、やっと龍平さんと組める作品が来たと感じて。

龍平さんって映画のイメージや見た目から勘違いされることが多いんですけど、脚本作っててもキャラクターに対する突っ込みがすべて愛に溢れてるんですよ。もうめちゃくちゃスイートなことばかりで。当然、要求は厳しいんですが、そのキャラクターのことを本当に深く考えていて。愛あるキャラクターにしようと願うツッコミしかなかったんです。

調理や食事のシーンが印象的。板長役の中村雅俊(右)とのん

髙橋 とてもよかったのはみんなで食事するシーンですね。食べる姿ってすごく意味があって、生きる意志につながってしまうんですよ。だから俺はデビュー作『地雷震』の主人公、いつでも死ぬ覚悟を背負った刑事については、19巻で一回も飯を食うシーンは描かなかった。その食事のシーンを、この映画では正々堂々と描いて、感動を与える。
特に打ち上げの食事の場面、あのしっとりとした雰囲気の中でたまえが呟いたセリフは漫画にも描いたと記憶してますが、とてつもないことを決断したのにみんな笑って写真撮ってごはんを食べる。映像的にもかなり素晴らしかったですね。

自分でビラ配ってでも、見てほしい

──本作が実写化に向けて本格的に動き出したきっかけは?

北村 カリフォルニアに移り住んで15年経ちましたが、東日本大震災があったときはたまたま日本にいたんですね。ある日ツトムさんと食事をしてるとき、戦後最大級の天変地異が起こったというのに被災地の人間でなければすぐに忘れてしまう、1年も経てば風化してしまうという話になって。

そのとき彼が「この状況に対して、俺はモノ創りとして生きてきたんで漫画でモノを言う」と言ったんです。それに僕はものすごいインパクトを受けて。それに対して僕は「映画でモノを言う」とは、なかなか簡単に言えないわけですよ。何をやるんだろう?と思ったら、のちに彼は原発問題もテーマに盛り込んだ『ヒトヒトリフタリ』という作品を描くんです。その後、更にもう一発出てきたのが『天間荘の三姉妹』だったんですよ。

──3.11の震災を経験して『天間荘の三姉妹』を描かずにはいられなかった?

髙橋 今話に出た『ヒトヒトリフタリ』、その作品を介して原発問題と戦ったなという自負はあったんです。
また、知り合いの霊能者に「あなたは福島県の人ですよ」みたいに言われたんです。行ったこともなかったのに。
でも、生まれて初めて絵を描いたとき褒めてくれた、ひいおばあちゃん、その人が縁側でずーっと絵を描かせてくれて、俺、絵が好きになったんですね。そのひいおばあちゃんが、福島県人だったことがわかって。

その霊能者に震災の後に会ったら、「あのときは大変だった、人が天空の穴に向かってまとめていっぱい吸い込まれて同時に上がっていった」みたいなことを言うんです。その瞬間にバーッて絵が浮かんできて。そんな着想で『天間荘の三姉妹』は作っていったという感じですね。

──撮影監督は、北野武監督の作品も多く手がけておられる柳島克己さんでしたね。

北村 今回、敢えて新しいチームとやりたかったんです。もちろん日本には気心の知れたやりやすい仲間のスタッフもたくさんいますが、居心地のいい場所にいて甘えたくないっていうのもあって。
そこで、初めて大ベテランの柳島さんに撮影をお願いし、最初にお伝えしたことは、70~80年代の日本映画が本当に活き活きとしていた頃のような、王道の力強い絵を撮りたいんですということでした。圧倒的にガーンというパンチの効いた迫力があって絵力のある映像を創りたかったんです。柳島さんの撮る実景しかり、たとえば海辺にしてもどーんと引いた絵の狙いも僕たち映画屋としてのこだわりですよね。要するにスマホとかiPadで見る絵ではない綺麗な絵を見せたいっていうのはすごくありました。

また、小細工など要らない、そこに存在するだけで説得力のある役者さんたちが集まってくださり、僕にとっても監督として生きてきた20年、生まれてから53年の中で間違いなく一番良い仕事をしたと思っています。尊敬を感じ、ときに嫉妬を感じる本当に素晴らしい人たちに恵まれて。

そういう意味でもこれまででもっともモチベーションが高かった作品ですし、人生で最高に良い仕事して、生まれてきた意味があったのかなと思える作品だと自負しています。

この映画だけは自分で街中でビラを配ってでも、ひとりでも多くの人に見てもらいたいんです。

北村龍平 きたむら・りゅうへい
映画監督。『ヒート・アフター・ザ・ダーク』(1998)で監督デビューし、初の長編映画『VERSUS-ヴァーサス-』が世界的に評価を受ける。『ミッドナイト・ミート・トレイン』(2008)以来、拠点をハリウッドに移す。そのほかの作品に『あずみ』(2003)『ゴジラ FINAL WARS』(2004)『ルパン三世』(2014)など。1969年生まれ、大阪府出身。

髙橋ツトム たかはし・つとむ
漫画家。1989年『地雷震』でデビュー。2001年から「週刊ヤングジャンプ」で連載開始した『スカイハイ』はシリーズとして長く続き、北村龍平監督によりTVVドラマ、映画化された。2020年から「ビッグコミック」にて『JUMBO MAX』、「ビッグコミック増刊」で『ギターショップ・ロージー』を連載中。そのほかの作品に『SHIDO/士道』『ヒトヒトリフタリ』など。1965年9月20日生まれ、東京都出身。

天間荘の三姉妹 (2022)上映時間:2時間30分/日本
監督:北村龍平
原作:髙橋ツトム(『天間荘の三姉妹 スカイハイ』集英社 ヤングジャンプ コミックス DIGITAL刊)

フリーターのたまえ(のん)が連れて行かれた海辺の旅館「天間荘」は、生死の境にある魂が、現世かあの世かを選ぶための場所。しかも初めて会うそこの若女将のぞみ(大島優子)とかなえ(門脇麦)は、母親違いの姉だという。見習いとして宿で働き始めたたまえは、逗留客や街の人々との交流から、この場所が存在する意味を知り、生きるか死ぬかの選択を下していく。

10月28日全国公開 配給:東映
©2022 髙橋ツトム/集英社/天間荘製作委員会

撮影/尾形正茂

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