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K2戦車、FA-50戦闘攻撃機…韓国製兵器が世界中でバカ売れする中、日本が防衛産業でも完敗している理由

集英社オンライン / 2022年10月17日 16時1分

対ロシア戦でウクライナが攻勢を強めているが、これを意外な形でアシストしているのが韓国製の軍事兵器だ。ジェネリック路線で近年、武器輸出額を伸ばしている韓国。スマホやEV、半導体に続き、防衛産業でも日本は後れをとっている。

主力戦車1000両の大型商談

韓国のK2戦車

ドネツク州の要衛であるリマンを奪還するなど、対ロシア戦でウクライナが攻勢を強めている。そのウクライナの善戦を支えているのがNATO諸国からの武器援助だ。ポーランドもその一員で、自国の旧ソ連製T-72戦車240両などをウクライナに供与している。

ただ、ロシアと国境を接するポーランドはNATO内ではロシアとの最前線防衛を任されているため、ウクライナに供与した武器分の穴は早急に埋めないといけない。意外にもその穴埋め役を果たしているのがお隣の韓国だ。



今年7月27日、ポーランドはウクライナ支援に回したT-72の代替として、韓国製のK2戦車(黒豹)180両の購入を決定している。さらに2026年からは、K2のポーランド仕様であるK2PLを820両も国内で生産する基本合意書も交わしている。主力戦車計1000両という大型商談には正直、驚くばかりだ。

1999年にNATOに加盟して以来、ポーランド軍はそれまでソ連式装備が中心だった兵器体系を西側の規格に合わせ、他のNATO加盟国との相互運用に傾注してきた。とはいえ、設計思想の異なる兵器体系を変えるには時間も費用もかかる。

そのため、保有する約800両の主力戦車も西側装備はドイツ製「レオポルド2」240両にとどまり、残りの70%は依然として旧ソ連製の「T-72」が主流を占めていた。

ところが、ロシアによるウクライナ侵攻が起き、兵器体系を切り替える動きを加速化せざるを得なくなった。その商機を逃さず、主力戦車1000両という大型商談受注に成功したのが韓国だったというわけだ。

東欧諸国も韓国製武器に熱視線

7月の基本合意後、ポーランド、韓国双方が9月16日に交わした本契約では、前述の-2戦車に加え、K9自走砲「サンダー」48門とFA-50戦闘攻撃機48機も追加購入されることとなった。10月13日には両国の間で米国のHIMARS(高機動ロケット砲システム)にあたる多連装ロケットシステム「天武」を300両導入することも明らかにされた。

とくにFA-50の契約締結は欧州マーケット上陸を宿願とする韓国防衛産業にとってマイルストーンになるだろう。FA-50の原型はT-50「ゴールデンイーグル」と呼ばれるジェット練習機で、米ロッキード・マーチンの技術的支援を受けて韓国の韓国航空宇宙産業「KAI」が開発・製造した機体である。これにレーザー誘導兵器を使えるようにした新型火気管制レーダーなどを装備するのがFA-50戦闘攻撃機である。

小型軽量でマルチロールのミッションに使え、米国製で海外に輸出されている「F-16V」多用途戦闘機と対地攻撃能力ではほぼ同等の性能を持つ。価格も割安で、訓練サポートやスペアパーツなどの維持関連費を考慮すると、「F-16V」の約半分ですむ。

そのため、ポーランド同様、旧ソ連製装備から西側の武器体系への切り替えを進めるハンガリー、チェコ、スロバキアなどの東欧諸国も韓国に視察団を送りこんで購入を検討するなど、韓国製武器に熱い視線を向けているのだ。

ポーランドが韓国から”爆買い”したFA-50軽攻撃機

「ジェネリック」路線を行く韓国製兵器

先にあげたFA-50はすでにフィリピン、イラク、タイ、インドネシアでも採用されている。また、ポーランド、トルコ、インド、エジプトなど8カ国が採用する韓国製の「K9自走砲」にも世界の熱いまなざしが注がれる。

南北軍事境界線付近に実戦配備され、最大射程40キロ、1分間に6~8発の発射能力を備える「K9自走砲」は火力、機動性、防御力がそろった武器として高い評価を受けており、今年4月にはノルウェー、フィンランド、エストニア、豪州などの各国視察団が韓国内の製造工場を訪れた。

その他にもアラブ首長国連邦が迎撃ミサイル「天弓2」(22年1月・35億ドル)を購入契約、タイやインドネシアが護衛艦、潜水艦の購入を検討するなど、韓国製武器の人気は高まる一方だ。

ストックホルム平和研究所の最新データによれば、2017〜21年の韓国の武器輸出額は世界8位で、この7年間で177%の伸びを見せている。輸出額ベースでも昨年時点ですでにすでに70億ドル(約1兆円)に達した。このまま韓国の武器輸出が順調に推移すれば、その商談実績はさらに伸びることは確実だ。

ウクライナ侵攻による経済制裁もあって、現在世界シェア2位(1位は米国)のロシアの武器輸出は今後、減速することが予想される。そのシェアを奪うかのように、このタイミングで韓国が旧東欧諸国の武器市場に参入できたのは、韓国製武器が西側兵器体系であり、かつコスパがよいという条件を満たしていたからだ。

米国製武器が高価な新薬だとすれば、韓国製武器は効能が同じで価格の安い「ジェリック」薬品にたとえられるだろう。また、コスパや性能だけでなく、操作性のよさや購入後のサポートの充実ぶりも韓国製武器のセールスを後押しする。

韓国軍の装備は徴兵による運用を前提としており、訓練熟度の低い兵士でも比較的簡単に操作できるよう設計されているため、他国の軍隊も運用がたやすいのだ。また、韓国政府が軍需ビジネスを輸出産業に育成しようと強力にプッシュしていることも見逃せない。

国家主導による柔軟なライセンス生産、納入後の手厚いサポート体制の整備などがセールスポイントとなり、韓国製武器輸出にさらに拍車をかけている。

韓国に完敗続きの日本

一方、日本の防衛産業はどうだろう? スマホやEV、半導体といったハード、K-POPや韓ドラといったソフトなどの輸出が好調な韓国に比べ、日本はいささか元気を失っているかのように見える。携帯電話しかり、コンテンツしかり、メイド・イン・ジャパンは韓国製に世界でのシェアで後れをとり始めている。

たとえば、携帯電話はサムソン電子のGalaxyシリーズがアップルのiPhoneを抜いて世界1位だ。その一方で、日本メーカーはトップ10にランク入りすらしていない。それと同じことが防衛産業にも起きているというのが私の評価だ。

韓国の兵器産業は単独でオリジナルな武器を製造して市場を開拓するというより、コアな軍事技術を複数の提携する外国軍事企業から導入して開発費を抑え、それらの最新技術を統合させてひとつの兵器を生み出す「ビルドアップ能力」に長けている。

また、市場の分析も巧みで、輸出先国のニーズに合わせてハイエンドからミドルレンジまでの武器を開発することがうまい。

では、日本の防衛産業はどうか。兵器売買=「死の商人」であるかどうかの議論は別の機会にするとして、2014年に安倍政権がそれまでの「武器輸出3原則」を「防衛装備移転3原則」へと変えたことで、今では一部の武器輸出は可能となっている。

にもかかわらず「MADE IN JAPAN」の兵器は2020年8月にフィリピンが警戒管制レーダーを購入したのが目立つくらいで、めぼしい商談は成立していない。「防衛装備移転3原則」でも輸出は「救難」、「輸送」、「警戒」、「監視」、「掃海」の5任務に限るという制約があるとはいえ、防衛装備の輸出ビジネスは韓国に完敗していると言えよう。

「ガラパゴス化」する日本の防衛産業

こうした「輸出不振」を背景に、国内では防衛ビジネスから撤退する企業が相次いでいる。その数は2003年以降、すでに100社を超えるほどだ。防衛装備の納入先は防衛省一択のみ、しかも武器は少数製造が多く、企業として利益を見込めないためだ。

しかも、その防衛省の研究開発費も潤沢とはいえず、国家支援を期待できない企業は独自開発するしかない。その一方で、受注が少ないので資金面で技術者の育成はおぼつかない。これでは国産武器は世界の市場ニーズにもついて行けず、ますます適応性と生存能力が劣り、いずれは淘汰されるという「ガラパゴス化」が進む一方だ。

こうした悪循環が続くかぎり、日本の防衛産業は成り立たず、いずれも国防にも綻びが出かねない。有事の際の継戦能力を維持するためには装備品を生産する防衛産業はなくてはならないものだからだ。

アメリカの巨大な兵器産業ですら、そのバックには米政府がついている。武器売り込みの交渉は政府間同士による「対外有償軍事援助(FMS)」制度=対外軍事援助プログラムが基本だ。

装備品の教育、訓練までもがパッケージとして米政府から提供されるため、兵器の値段は本来より高騰し、それが米兵器産業のさらなる輸出額アップに貢献している。

岸田政権は年末までに改定を予定する「国家安全保障戦略」の中で、防衛装備品の海外輸出を「国主導」で推進する方針を打ち出し、国内防衛産業を育成する姿勢を見せているものの、具体的にはなっていない。アメリカのようにとは言わないまでも、せめてライバル国・韓国並みくらいの育成手腕を見せてほしい。

文/世良光弘 写真/gettyimages KAI

世良光弘

1959年福岡県出身。大手通信社、出版社勤務を経て99年より軍事ジャーナリストとなる。80年代より世界の紛争地を回り、国際報道のルポなどを主に週刊誌や新聞等に発表してきた。釣り好きという趣味が高じて、小型船舶操縦免許も持つ。阪神タイガースの熱狂的なファンでもある。

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