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100万円以上しても売り上げは右肩上がり。日本が誇る「等身大フィギュア」の圧倒的クオリティ

集英社オンライン / 2022年10月18日 11時1分

かつては「オタクの趣味」と思われていたフィギュア収集だが、昨今では年齢や性別を問わず多くの人たちが楽しんでいる。そして最近、特に注目されているのは等身大フィギュア。1体100万円超えは当たり前で、300万以上のものも珍しくない。海外でも人気が高まっているという。等身大フィギュアはどんなふうに作られ、どんな人が購入して楽しんでいるのだろうか?

数百万円でも「お買い得」

「購入する側からすれば、100万円以上の等身大フィギュアは高いと思うかもしれませんが、制作工程や手間を考えると、正直かなりお買い得だと思います。私たちが等身大フィギュアを制作するのは、お金儲けよりも自分たちの技術をPRするという意義のほうが大きかったりします。他社のことはわかりませんが、我々は価格が150万以下の等身大フィギュアを作るのは難しいと思っています」



こう語るのは、宮城県仙台市に本拠を置く「デザインココ」の大場春香さんだ。
同社はフィギュア制作において日本を代表するメーカーのひとつで、さまざまなアニメの人気キャラクターのフィギュアを数多く手がけている。

同社の主力商品は7分の1サイズのフィギュアだが、等身大フィギュアも15年ほど前から作り始めた。イベントや展示用のワンオフを含めると100種類以上を作っているという。
最近手がけた市販の等身大フィギュアは『ヱヴァンゲリヲン新劇場版』の綾波レイで、価格はなんと181万5000円。全長2メートルを超えるエヴァンゲリオン初号機(ヒューマンスケールフィギュア)は300万3000円だ。乗用車を購入できる価格だが、それほど等身大フィギュアの制作には膨大な時間がかかっているのだ。

「例えば、ある会社からアニメのキャラクターの等身大フィギュアを作りたいというお話をいただいたとします。私どもはクライアントからいただいた一枚のイラストをもとにゼロからキャラクターの立体造形を作っていくことになります」

デザインココの等身大フィギュア制作の作業場

制作チームは、イラストから3DCGでデータを起こすところから作業を始める。一から設計図を作っていくのだ。それが完成すると、CNCルーターと呼ばれるコンピュータ制御の工作機械を使い発砲スチロールを削って、ざっくりとした等身大のモデルを作る。ここまでの作業が等身大フィギュア制作の成功のポイントになるという。

「2次元のイラストしかないものを、アニメや漫画のキャラクターの独特の雰囲気を保ちながら立体造形にするだけでも創造性の大変さがあります。加えて、等身大フィギュアは小さいスケールのフィギュアよりもバランス感がとても重要。イラストを立体にしていく際に、360度ぐるっと回して見てみると、ちょっとバランスがおかしいなということがよくあります。なので、発泡スチロールでモデルを作ってみてバランス感を確認することが大事なんです」

CNCルーターを使ってまず発砲スチロールのモデルを作成

彩色など職人による手作業の工程も多い

売り上げは右肩上がり

次に、自社で開発した3Dプリンターでパーツを出力し、実際に組んでみる。それを原型に型取りをして、今度は風呂のユニットバスなどに使われているFRPという素材に置き換える。堅牢なFRPのパーツで再び組んで、塗装して完成、というのがフィギュア制作の大まかな流れとなるが、制作期間はどんなに早くても半年以上はかかるそうだ。

「3Dプリントするのにも、やっぱり1分の1サイズなので、たくさんのパーツにも分けて出力しなければなりません。例えば、私たちが過去に制作した初音ミクの等身大フィギュアは150パーツくらいあります。プラモデルのように一つひとつ組み上げていきます。型取りがしやすいように、あまり複雑な形状にならないように工夫をしなければなりません。FRPで組んだときも塗装しやすいように表面をツルツルに研磨する必要がありますし、彩色も完全に手作業で職人の繊細な技術が求められます」

3Dプリンターでパーツを作る

デザインココでは、ひとりのディレクターがCG、削り出し、3Dプリント、型取り、磨き、彩色などの各部門のスタッフを統括し、総勢30~40人のチーム態勢でひとつの等身大フィギュアを制作していく。原型と彩色の段階でキャラクターを管理する、クライアントである版元にチェックを受ける。

「例を挙げると、集英社さんの作品で等身大フィギュアを制作したのは漫☆画太郎先生のババアですね。完成した等身大のババアを先生のご自宅にお届けしたんですが、すごく喜んでいただけました。

また2012年に六本木ヒルズで開催された展覧会『尾田栄一郎 監修 ONE PIECE展~原画×映像×体感のワンピース』で、投獄された(登場キャラクターの)エースの等身大フィギュアを制作しました。そのときには尾田栄一郎先生の直接の監修でしたが、ありがたいことに一発でOKをいただきました」

展覧会で制作されたエースの等身大フィギュア

ババアの等身大フィギュア

同社では、等身大フィギュアの売り上げは右肩上がりだという。最新の3D技術と職人の技で生み出す“メイド・イン・ミヤギ”の等身大フィギュアは国内のみならず、世界でも大きな注目を集めている。

「一昔前はアニメや漫画のフィギュアは、男性のアニメ好きの方が購入するケースが多かったのですが、昨今は状況が全く違います。女性の購入者も多いですし、アニメやフィギュアが日本国内では今やかなり一般的なものとして受け入れられています。

世界では日本の代表的な文化として捉えられているのかなと感じています。北米やヨーロッパでも人気がありますし、最近は中国での売り上げがかなり伸びています。過去にルイ・ヴィトンとコラボした初音ミクの等身大フィギュアを作ったことがあるのですが、それはルーブル美術館でも展示していただきました。欧米では等身大フィギュアはアートとしての文脈も大きくなってきています」

コスプレDJ声さんの自宅

大人の「夢」であり「家族」

では、等身大フィギュアはどんな人が購入しているのだろうか。デザインココでは、等身大フィギュアの購入者への自宅まで発送も自社で行っており、「立派な家に住んでいる方が多かった」と大場さんは語っていた。

取材を進め、実際に所有者に話を聞くことができた。

最初に話を伺ったのは、東京都心のマンションの最上階に家族で住んでいる声(こえ)さん。漫画専門店『まんだらけ』のコスプレ店員として活躍したのち、現在はアニメや特撮ソングのコスプレDJをしている。

等身大フィギュアやサブカルチャーへの愛を語る声さん

眺めのいいリビングルームに隣接する声さんのコレクション部屋は、まるでサブカルチャー関連のショップのようにさまざまなグッズが並ぶ。壁には古い特撮映画の大きなポスターが貼られ、数々の書籍や漫画、ビデオ、レコードとともにたくさんのフィギュアやソフビ人形がある。その中でもひと際、存在感を放っていたのが、『新世紀エヴァンゲリオン』の綾波レイの等身大フィギュアだった。

「等身大フィギュアは大人の夢ですよね。最初はもちろん小さいものしか買えなかったのですが、徐々に大きいものを購入するようになって、最終的に等身大にたどりついた感じです。うちのレイちゃんは13年くらい前に主人が誕生日プレゼントでくれました。値段は当時で50万円ぐらいですね。もらったときはうれしくて、大喜びで鼻血ブーでした(笑)」

そう笑顔で語った声さん。部屋をよく見ると、他にも有名漫画の等身大フィギュアが2体あった。『天才バカボン』のウナギイヌと、『ケロロ軍曹』のケロロだ。

「ウナギイヌは12年前に銀座の松屋で開催された『追悼 赤塚不二夫展~ギャグで駆け抜けた72年~』で注文しました。当時で23万ほどだったと思いますが、ウナギイヌも主人が記念日に買ってくれたんです。ケロロは中古で自ら購入しました。主人とはアニメの趣味は合うのですが、彼にはフィギュアを買って楽しむという趣味は全くありません。苦笑いしながら見ている感じです(笑)」

綾波レイ、ケロロ、ウナギイヌの等身大フィギュア

声さんがフィギュアにハマったのは社会人になってからだという。

「『まんだらけ』でフィギュアやアニメ、漫画に触れて知識を蓄えていきました。同時にコスプレ店員だったので、好きなキャラクターのコスプレをして接客するんですね。例えば、『週刊少年チャンピオン』に連載されていた『がきデカ』(1974〜1980年)のこまわり君、大映の特撮映画『宇宙人東京に現わる』(1956年)に登場したパイラ人、東宝の特撮映画『マタンゴ』(1963年)のキノコ人間、『仮面ライダーストロンガー』(1975年)の電波人間タックル、あとケロロのコスプレもしていましたね。コスプレをしていると、フィギュアやソフビがほしくなって買い始めました」

現在では結婚しふたりの子どもの母親となった声さんだが、コレクションは順調に増えていった。声さんにとって、綾波レイの等身大フィギュアは「家族」だという。

「地震でレイちゃんが本棚の下敷きになってしまったことがあります。揺れが収まった後で、『レイちゃーん!!! 大丈夫?』と思わず叫びました(笑)。その時は奇跡的に無傷で、ホッとしました。レイちゃんは私にとって家族です。中学1年生と小学校2年生の子どもたちは、レイと一緒に育ってきましたし、お友達が家に遊びに来ると必ず紹介しています。みんな最初は苦笑いしていますが、最後は一緒に記念撮影をしています(笑)」

綾波レイの等身大フィギュアは、声さんと同じくらいの身長だ

声さんにとって、家族同様に大切な存在である等身大フィギュア。そして声さんとともに今回取材したもうひとりの男性も等身大フィギュアを家族だと語っていたが、その意味合いは少し違っていた。
「等身大フィギュアと結婚したい」というのだ。後編で紹介しよう。

取材・文/川原田 剛
撮影/村上庄吾
写真提供/デザインココ

川原田 剛

フリーライター

1991年からF1専門誌で編集者として働き始め、その後フリーランスのライターとして独立。一般誌やスポーツ専門誌にモータースポーツの記事を執筆。現在は『週刊プレイボーイ』で連載「堂本光一 コンマ1秒の恍惚」を担当。スポーツ総合雑誌『webスポルティーバ』を始め、さまざまな媒体でスポーツやエンターテイメントの世界で活躍する人物のインタビュー記事を手掛けている。

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