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ミュージカル界のプリンス井上芳雄が初めて降り立つ、聖地・本多劇場

集英社オンライン / 2022年10月23日 11時1分

ケラリーノ・サンドロヴィッチ作・演出の舞台『しびれ雲』で、本多劇場に初めて出演する井上芳雄。帝国劇場など日比谷の大劇場を主戦場にしてきた彼が抱く、下北沢への緊張と憧れとは。プリンスの意外な素顔に迫った。

下北沢は、東京でも“上級者”が集まるイメージ

――舞台『しびれ雲』は下北沢の本多劇場で公演されます。井上さんご自身は下北沢や本多劇場にどんな印象を持っていますか?

下北沢自体が演劇の街というか、小劇場がたくさんありますし、劇団の方々が日夜しのぎを削っているイメージです。もちろん舞台を見に行ったことはあるんですが、どちらかと言うと、僕がやっているミュージカルは大きめの劇場で上演することが多いので、あまり馴染みはなかったです。同じ演劇ではありますけど、畑が違うと言いますか。踏み入れると怒られるのではないかという、ちょっとの緊張感と憧れのある街であり、劇場だなと思います。



――たしかに。ミュージカル作品といえば日比谷の帝国劇場。本多劇場のある下北沢と同じく、日比谷も演劇の街ですが、全く違う雰囲気です。

そうですね。本当は隔たり的なものはないほうがいいので、自分としてはあまり感じないようにしたいなと思いますし、役者としてステージに立つ上ではどこの劇場でも呼ばれれば行きます!

見てくださる方々にはもちろん、お好みの演劇を見ていただければと思うんですけど、日本は同じ演劇ファンでも細分化されているのは確かですよね。宝塚ファンの方や劇団四季ファンの方など、結構細かいんです。もちろん何でもご覧になる方もいらっしゃって、素晴らしいなと思います。

ただ、意外と小劇場ファンとミュージカルファンは被っていなくて。小劇場ファンは下北沢に通い詰めるし、ミュージカルファンは日比谷に通い詰めるという傾向があると思います。それが悪いということではないです。どちらにも素晴らしい部分があるし、好みの違いもあるかと思います。でも、互いを知ってもらったり、両方を行き来して交わるというのも、素敵なことなんじゃないかなと思います!

――今回は井上さんが橋渡しの役目を果たすかもしれませんね!

両方向から行き来し合うきっかけになれば嬉しいですね。ミュージカルをやることが多いですけど、ストレートのお芝居をやるときには毎回思います。ごちゃごちゃになってくれればいいなって(笑)。

――下北沢は心の距離感で言うと近い・遠い、どちらでしょう?

いやぁ、僕は地方出身者(福岡県出身)なので、気軽に行けないというか。ちょっと迷いやすい街です。今は再開発で変わっているところもありますけど。東京の中でも上級者が集う感じがありますね。お店もたくさんありすぎて、どこに入ればいいのか……(笑)。

――では、観劇で訪れる以外は行かない街?

若い頃は舞台を観て、みんなでそのまま朝まで下北で飲むみたいなことはしてました。決して敷居が高いわけではないですけど、独特の雰囲気で個性的な人が集まるイメージ。

――居心地の良さといった点ではいかがですか?

ホッとするというよりも、強い個性への緊張感、みたいなものがあるかもしれないですね。


――井上さんがホッと息をつけるような場所はどんなところなんでしょう?

住んでみて印象が変わったのは西麻布です。実は以前に住んでいたことがあって。住みたかったというよりは、結果的に西麻布になっちゃった感じなんですけど……。長く住んでいた場所なので、そういう意味では落ち着く街ですね。

その前は亀有に住んでました。(母校の東京藝術)大学から通いやすかったのもあって。亀有は下町って感じがしますね。もうあんまり行くことはないですけど、行くとやっぱり懐かしいです。その後が西麻布なので極端ですよね。

――西麻布は実際住んでみると、どんな街でしたか?

昼間はすごく静かだし、おいしいお店もいっぱいあります。当時は一人暮らしだったので、スーパーもあって買い物に不便がなく住みやすかったです。

見たことないような作品が出来上がると思う

――先程も少し地方出身というお話が出ましたが、井上さんのご出身は福岡県。今作『しびれ雲』のセリフは作・演出のケラリーノ・サンドロヴィッチ(以下、KERA)さんが作り出した架空の方言が織り込まれているのも印象的です。方言というキーワードにちなんで、日頃の生活の中で博多弁が出てしまう場面はあるんでしょうか?

博多弁が出ちゃうことはあまりないんです。もともとそこまで強い訛りはなくて。でも、イントネーションは未だに標準語と違うなってときはあります。アクセントについては正解がわからないものが結構あるんですよね。

――アクセントが難しいセリフも過去にはありましたか?

8月まで上白石萌音ちゃんと二人芝居をしていたミュージカル『ダディ・ロング・レッグズ』でも苦戦しました。萌音ちゃんは鹿児島県の出身で同じ九州だからか、同じところで迷うみたいで。例えば本棚って、標準語だと「んだな」っていうアクセントじゃないですか。でも、僕と萌音ちゃんは「ほんな」って言うんですよ。それまで「ほんな」が標準語だと思っていました。萌音ちゃんと「んだなの方が訛ってるよね」って話してました(笑)。

――微妙なアクセントの違いは、指摘されて気づくことが意外とありますよね。KERAさんが作った方言はマネしたくなるようなかわいさがあるように思います。

発明に近いですよね! 僕の役は謎の男で、どうやら舞台となる“梟島”の住人ではなさそうなので唯一、標準語を話す登場人物です。ここから少しずつ方言を話すようになるみたいなことは、KERAさんもおっしゃってたんですけど。方言の響き自体、すごくおもしろい。ただでさえ会話のやり取りがおもしろいのに、そこに方言が加わるってさらにおもしろくなってる感じはありますね。

――KERAさんの演出では、最初に少し決められている設定以外は、稽古しながら物語が完成していくと伺いました。物語冒頭の台本は出来上がっていますが、読んでみた感想は?

今のところ僕も、役名と島の外から来たってことしか知らないんです(笑)。でも、すごくおもしろいなと思いながら稽古しています。KERAさんも「大事件が起こるような話ではない」とおっしゃっていたんですけど、でもその分、島の人達の日常の営みやそこから見えてくる家庭の問題などがおもしろい。

「あまり大きな笑いが起こるようなことは求めてない」ともおっしゃっていたんですが、演じる上でそのさじ加減をどうしたらいいのか。あまり経験したことがないような作品ではありますが、共演者の皆さんと稽古しながら作っていると、「なんかすごいことしてるな!」と思います(笑)。誰も見たことないような作品が出来上がると思うと、演じる側の僕もすごく楽しみです!

――稽古中に台本が上がってくるスタイルということで、短期間での記憶力も勝負になってくると思うのですが、ずばり井上さんの記憶力は?

瞬発的な記憶力はいいと思います。覚えることも苦ではないので。でも、長期的なものはどんどん忘れていってます……。終わったことはすぐ忘れちゃう。

――1番古い記憶はおいくつ頃の記憶ですか?


そうですね…2〜3歳くらいの頃、住んでいた家のお風呂のお湯を混ぜる棒があったのは覚えてます(笑)。断片的な記憶ですね。全体的な流れまでは覚えてないです。中学の1年間、家族でアメリカに住んでいたとき、英語がわからなくてすごく大変で。それ以来、この1年より前の記憶が薄くなっちゃって。記憶喪失までいかないけど、アメリカ生活が必死すぎて、その前は何してたっけ?という感じになってます。

家でお酒を飲む時間がいちばんの楽しみ

――井上さんは今年デビュー22年目。大きな作品や劇場、そして数々の主演を務めていますが、本番を前に緊張することは?

あります! 毎回、何十回何百回と経験している公演でも緊張します。極端に言うと、今日はうまくできるわけがない……みたいなことを思います。今まではできたけど、今日はできないかもしれないというような。逆に言うと、何の根拠もなく舞台に立っています。お芝居中は、相手の共演者さんに集中するのでそういう不安は忘れられる……いや、忘れられたらいいなと思っている自分がいます。

――そんな井上さんのメンタルやパワーを保つ秘訣は?

お酒を飲んで忘れることくらいですね(笑)。結局ごまかせてないですけど、昂った神経を落ち着かせるにはいいかなと。家で「今日こんなお仕事だったよ」なんて話しながらお酒を飲むのがいちばんの楽しみです。

――最後に『しびれ雲』の見どころと、意気込みをお聞かせください。

下北沢の本多劇場でKERAさんの新作舞台に参加できることはすごく幸せです。KERAさんは長年演劇に携わってきて、毎年何作も脚本を書いて演出もされていることもすごいことなんですが、毎回初めての作風にチャレンジされていて、『しびれ雲』も初めてのことに挑んでいます。尊いことですよね。自分がその場にいさせてもらえることが本当に嬉しいです。

まだどんな舞台になるかわからないですけど、かと言って奇想天外なものではなく、誰しもが知っているような、でも実際にはない「梟島」で繰り広げられる島の人達の話。KERAさんもきっといい話になるとおっしゃっていたので、年末の寒い時期にピッタリな、心に染み入るいい話になると思います。ぜひ劇場にいらして、下北沢の空気と一緒に楽しんでいただけると嬉しいです。


取材・文/小波津遼子 撮影/石田壮一 ヘアメイク/川端富生 スタイリスト/吉田ナオキ
タートルネックニット(CULLNI) 38,500円/Sian PR 03-6662-5525、その他/スタイリスト私物

井上芳雄
1979年7月6日生まれ、福岡県出身。東京藝術大学在学中の2000年にオーディションを受けたミュージカル『エリザベート』の皇太子・ルドルフ役でデビュー。「ミュージカル界のプリンス」と呼ばれ、ミュージカル『モーツァルト!』、ミュージカル『ナイツ・テイル ー騎士物語ー』、ミュージカル 『ガイズ&ドールズ』などに出演。舞台にとどまらず、歌手活動のほか、テレビドラマやバラエティ番組と活動の幅を広げている。

KERA・MAP#010 『しびれ雲』
劇作家・演出家のケラリーノ・サンドロヴィッチが主宰劇団「ナイロン100℃」以外の演劇活動の場としてスタートした「KERA・MAP」の3年ぶりとなる新作公演。前作『キネマの恋人』の舞台となった架空の島・「梟島」と架空の方言を話す島の住人達が再び登場する。
主演・井上芳雄が演じるフジオは梟島の港に突如として現れた。フジオを中心に見えてくる島の人々の小さな喜び、悲しみ、驚き、嫉妬、幸せ、不幸を描く人間ドラマとは…。

東京公演:2022年11月6日(日)~12月4日(日) 下北沢 本多劇場
兵庫公演:2022年12月8日(木)~12月11日(日) 兵庫県立芸術文化センター阪急 中ホール
北九州公演:2022年12月17日(土)・12月18日(日) 北九州芸術劇場 中劇場
新潟公演:2022年12月24日(土)・12月25日(日) りゅーとぴあ 新潟市民芸術文化会館・劇場

出演:井上芳雄 緒川たまき ともさかりえ 松尾 諭 安澤千草 菅原永二 清水葉月 富田望生 尾方宣久 森 準人 石住昭彦
三宅弘城 三上市朗 萩原聖人

公式サイト
https://www.cubeinc.co.jp/archives/theater/shibiregumo

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