今年2月に創刊し、7月には第2号目が発売された新雑誌『WaWian』(ウェウィアン)。
「理解のない人も排除はしない」LGBTQ+向けファッション誌『WaWian』の志と存在意義
集英社オンライン / 2022年10月21日 14時1分
今年2月に創刊し、7月には第2号目が発売された新雑誌『WaWian』(ウェウィアン)は、LGBTQ+に特化したファッション誌。同誌で誌面に登場するモデルとしても活躍する編集長の萌茶(もちゃ)さんに話を聞いた。
コーディネート紹介ページから始まり、おすすめアイテムカタログ、私物取材、メイク講座などと続くファッション誌だが、男性向けあるいは女性向けの既存誌とは大きく異なる特徴を持っている。
『WaWian』は、おそらく日本初の、LGBTQ+に特化したファッション誌なのだ。
冒頭に登場するモデルの名前の横に、“ノンバイナリー”“Xジェンダー”“ジェンダーレス女子”“ジェンダーレス男子”などとクレジットされていることからも、この雑誌のユニークな立ち位置が窺える。
誌面には他に、女装家、男装家、男の娘なども登場。それぞれ自分の色を持ち、独自の表現をしている。性自認にかかわらず、そういう人々の居場所になることを目指していると語る編集長は、自身もモデルとして誌面に登場する、萌茶(もちゃ)さんだ。
性自認は気づくものではなく、自然にそうなるもの
――萌茶さんはご自身のことを、 “Xジェンダー”や“ノンバイナリー”と自称されていますが、その言葉の指す意味を教えていただけますか。
“Xジェンダー”というのは自分の性自認が定まってない人のことで、中性、両性、無性、不定性という4つのタイプがあります。中性は男性と女性の中間ぐらいだと思っている人、両性は男性でもあり女性でもあると思っている人。無性は男性にも女性にも当てはまらないと思っている人。不定性は性自認に波があり、月単位や週単位で性別が変わる人もいれば、日によって、その日の中で変わる人もいます。
――“ノンバイナリー”は、男性、女性といった枠組にあてはめられない性自認を持つ人のことですから、Xジェンダーの無性タイプに近いですね。萌茶さんはほかにも、“ジェンダーレス男子”と自称されてもいるようですが。
私自身、「自分が何者なのか」がいまだにわからないところがあります。だから誌面でもノンバイナリーと書いたり、Xジェンダーと書いたりと揺れ動いているんです。そういう意味では“クエスチョニング”(編集部注:自己のジェンダーや性同一性、性的指向を探している状態の人々)というのが1番近いのかもしれません。
――萌茶さんが、ご自身をXジェンダーあるいはノンバイナリーではないかと気づいたのはいつ頃ですか?
それがちょっと難しくて……。「いつ頃」というのは特にないんですよ。気づくという感じでもなく、自然にそうなっていたので。
――そうですか。この質問は、こちらの理解の乏しさによるものかもしれません。失礼しました。
いえいえ、大丈夫です。
――ジェンダーレスやLGBTQ+というキーワード自体は、以前よりも一般的になってきましたが、萌茶さんご自身はどのように感じていますか?
東京レインボープライドのようなイベントの盛り上がりもありますし、社会の理解はだいぶ進んできているとは思います。ただし個人レベルになると、LGBTQ+当事者に接する際に、まだ抵抗感を持つ人が多く、偏見も残っていると感じることはあります。
――壁を感じることは多いということですか。
そうですね。言葉として理解していても、実際にそういう人と接するときには、つい構えちゃう人が多いのかなと思います。
LGBTQ+向けファッション誌『WaWian』の創刊コンセプトとは
――『WaWian』という雑誌のコンセプトとタイトルの意味を教えてください。
タイトルは「The Way We Are and…」を略した造語で、“ありのままの私たち、そして未来へ…”という意味を込めています。コンセプトは“マイノリティとマジョリティの共生”、そして“カテゴライズされない世界を目指す”ということです。
ただし、カテゴライズされない世界をめざしつつも、中には自分をどれかに当てはめて安心できる人がいるというのも事実なので、そういう人の気持ちも大切にしていきたいです。
LGBTQ+の雑誌というと重たくなりがちですが、あまり深刻に考えずファッションという切り口を持つことで、視覚的に「これってかっこいいじゃん」「オシャレな雑誌じゃん」と楽しんでほしいと思ってます。
――確かに、LGBTQ+を扱うなら真面目にやらなければ、という意識が先立って、暗かったり重かったりとなりがちですよね。
そう。肯定的な情報が少ないと感じます。そんな中で『WaWian』は、世の中に散らばっているポジティブな情報を集め、明るい内容を発信していきたいと思っています。LGBTQ+当事者の皆さんの想いを伝えるスピーカー的存在となれたらいいんですけど。
――LGBTQ+以外の人にも読んでもらうことは想定していますか?
そのつもりです。例えば、LGBTQ+当事者の友達や家族を理解するための、手助けになれたらいいなと思っています。
――30歳の萌茶さんは、雑誌よりもウェブメディア第一の世代だと思うんですけども、 あえて紙媒体で発信しようと思ったのはなぜですか?
理由はいくつかあります。まず、雑誌が厳しい時代だからこそ、あえて新創刊したら注目されるのではないかと思ったこと。登場するモデルさんは、雑誌に自分が載って書店に並ぶということに憧れがあるので、その気持ちを大切にしたかったこと。紙媒体の方がなじみのある年代の方たちにも読んでいただきたかったということ。そして、紙媒体は図書館や学校の図書室にも置いてもらえる可能性が高いことです。中学や高校で、生徒さんや教員の方にも読んでいただきたいんですよ。
――なるほど、紙の雑誌にするメリットは大きいんですね。
そうなんです。そしてもう1つ、LGBTQ+をカミングアウトしたいんだけど、なかなかきっかけをつかめない人の手助けになるんじゃないかと思っています。「自分もそうなんだけど、ちょっと見といてくれない」って『WaWian』を手渡したら、相手に伝わりやすいと思うんですよ。
――実際に雑誌を出してみて、反響はありましたか?
うれしいことに、予想以上にたくさんの反響をいただきました。その中には、「この雑誌に救われ、自分は生きていていい人間なんだって思えた」と書いてくださる方もいらっしゃって。そうしたレビューを読んで、この雑誌にはやはり存在意義があるんだと実感しました。
――海外からも反響があったとか。
実はドイツ在住の映像カメラマンさんから、コンセプトが気に入ったとのことでご連絡をいただきました。『WaWian』とのコラボでショートムービーを作成し、ベルリンのファッション映画祭に提出したいという内容で、先日、撮影をおこないました。
メディア活動を通して訴えたいのは、“カテゴライズされない世界”
――雑誌だけでなくウェブメディアも始められるそうですが、そうした発信によって、萌茶さんが世の中に期待したい変化を教えてください。
大きなところから話すと、まず法的整備は当然の課題です。でも、それよりもまず個人レベルの意識や姿勢の変革が大事。それができれば、行政などにも変化が起こるのではないかと思います。
今よりもっと幅広い選択肢を社会全体で用意することが重要です。たとえば男の子だからこのおもちゃ、女の子だからこのおもちゃと決めつけるのではなく、自由に選ばせるということ。そういう教育をするだけでも、考え方はずっと柔軟になるのではないかなと思います。
――教育は大事ですよね。まだまだ日本の学校などは意識が低いようですが。
特に思春期の中学、高校では、先生方にも正しい知識を身に付けてもらって、正しい教育をおこってもらいたいです。思春期の頃は、いじめなどが起こりやすいので、教員の正しい知識と教育が必要不可欠です。『WaWian』を図書室に置いてもらうだけでも、考えるきっかけになるのではないかと思います。
――ジェンダーレスの制服なんかも、もっと広がっていいですよね。
制服を選択制にしたり、ジェンダーフリーのトイレを設けたり、そういう小さなところから少しずつ始めていけば、いずれ世の中の雰囲気は変わってくると思います。
――「こうじゃなければいけない」と、人を上から決めつけるような社会は嫌ですよね。
そうですね。そのために雑誌の内容も、なるべく排他的にならないように気をつけています。たとえば、男性のメイクに対して、気持ち悪いという否定的な意見を持つ人がいることも承知しています。そのうえで、そうした批判をする人にも、こちらから歩みよって理解し、誌面に反映させることも大切だと思っていて。
――LGBTQ+に理解のない人も排除しないということですか? それはなかなか大変そうですが。
もちろんまだ模索中ですが、そういう大きな目標を持っています。人って未知なことに直面すると、頭がフリーズしたり、ときには恐怖心や抵抗感を持ったりすると思うんですけど、そこで考えるのをやめず、理解しようとし続ける姿勢ってすごく大切だと思うんです。多様性を尊重してカテゴライズされない世界を目指し、互いを思い合う社会にしようと、強く訴えていきたいと思っています。
――「自分は関係ない」と思っている人も多そうですが、その点はどうでしょう?
性自認というのは、ときに流動的になることがあります。特にSNSが盛り上がってきて世界中の様々な方が“自分”を発信するようになってからは、その人になってみたいという憧れから、女装やメイク、コスプレなどをしてみて、自分の性に揺らぎを感じる人も多いようです。SOGIE(編集部注Sexual Orientation〔性的指向〕、Gender Identity〔性自認〕、Gender Expression〔性表現〕のこと)という言葉があるように、LGBTQ+なんて他人事と思っている方にも、性の揺らぎが出てくる可能性があるということを知ってほしいです。『WaWian』は、性の揺らぎが出てきて自分は何者なのか分からなくなってしまった人に向けて作った雑誌でもあるんです。
「ひとりひとりが思いっきり羽を伸ばして生きていけるような世の中にしたい」と語る、編集長・萌茶さん。生まれたばかりの『WaWian』は、そんな萌茶さんの思いがたっぷりと詰まった雑誌なのだ。
萌茶さん自身の着こなしやメイクのこだわりとは
――萌茶さんのファッションについてうかがいます。レディースの服や、レディースとメンズをミックスした着こなしをよくされるそうですが、ファッションで一番気をつけていることは何ですか?
自分は足が細くて上半身にボリュームがある体型なので、ドロップショルダーやラグランスリーブのコート、テーラードジャケットなどを選んで、肩幅を目立たなくするような工夫をしています。逆に足の細さを強調するように、今日履いているようなタイトなパンツを選んだりします。今日着ている服は、すべてレディースですよ。
――素敵なジャケットですね。
シースルー系の服が大好きなんです。中性的な印象を与えられるので。
――靴もレディースですか?
これはメンズです。お気に入りのサンローランのブーツなんですけど、スウェード生地でヒールのところがカーブになっていて、やはり中性的なデザインになっています。今日のコーディネートは、全体的に見るとそこまで女性らしい感じはしないと思うんですけど、要所要所にそうしたこだわりを取り入れるようにしています。
――メイクについても聞かせてください。
メイクブラシに結構こだわっています。アイシャドウを塗ったりするときには、含みがよくてふんわり仕上がる天然毛。リキッドファンデーションを塗るときには、水分を吸収しにくいナイロンのブラシを使います。メイクは、自分の気になってる箇所を補うようにしています。
私の場合は、人中(鼻と唇の間)の長さを隠すためオーバーリップにして、鼻の下に影を入れたりしています。全体に気をつけていることは、ハイライトを入れてなるべく立体感をつけるようにすることですね。
――そういうメイクテクニックは独学ですか?
そうです。もともと絵を描くのが好きで、模写が得意だったりするので、雑誌に載っている好みのメイクを見ながら、「こう塗っていけばいいのかな?」という感じで試してみたり。それでもうまくいかなかったらYouTubeを参考にしたりしながら、試行錯誤しています。
――『WaWian』にはメイクの仕方を詳細に伝えるページもありますけど、LGBTQ+の人で、メイクの方法に悩んでる人は多そうなので、そうしたページがあるのはいいですね。
取材・文/佐藤誠二朗
撮影/石橋俊治(プードル写真事務所トーキョー)
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