「こんな酸っぱいグミは売れない」はずがロングセラーに…グミ業界の異端児「シゲキックス」ヒット秘話
集英社オンライン / 2022年10月26日 11時0分
UHA味覚糖株式会社(以下、UHA味覚糖)が販売するロングセラー商品「シゲキックス」は今年で30周年を迎える。しかし、発売前は「酸っぱくて硬いグミなんて売れるわけがない」と否定的な声が多かったという。それでもヒット商品となり、30年間も愛され続けてきたのはなぜか? UHA味覚糖戦略のシゲキックス開発担当者に話を聞いた。
「こんな酸っぱいものは売れない」と言われた発売前
シゲキックスが発売されたのは今から30年前の1992年。当時はガムが路上に吐き捨てられるといったことも多く、「地域によってはガム禁止令が出されるほどに問題化していたみたいです」と担当者は話す。そんな状況を受けて製菓会社「UHA味覚糖」が開発したのが、まるでガムのような噛み応えのあるグミだった。
「当初は眠気を打破するカフェインの刺激のコーヒー味、スーッとする刺激のミント味、酸っぱい刺激のレモン味という3種のフレーバーと硬い食感が合わさった"総合的な刺激"を楽しんでもらうグミとして、眠気覚ましやリフレッシュなどに食べてもらえるように学生さんやサラリーマン、若い女性に向けて開発しました」
発売時のシゲキックスは現在のような酸っぱさを強調したものではなく、3つの刺激を選んで楽しめるバリエーション豊かな商品だった。またグミは飴やガムと比べるとまだまだマイナーなお菓子だったため、シゲキックスはガムの代替品のイメージで「食べるガム」という位置付けだった。
だが、当時は甘くてやわらかいグミが一般的だったため、"刺激"を売りにしたシゲキックスはあまりに異質な存在だった。そのため発売前は会社内や小売店から「こんな酸っぱいものを誰が食べるんだ?」という声も多く上がったくらい、前評判はよくなかったそうだ。
社内やお店などからは期待されていなかったが、いざ発売してみると消費者からは大人気に。特に、これまでになかったレモン味の刺激的な酸っぱさとハードな食感の反響がよく、ときには製造が追いつかないほどだった。レモン味がヒット商品となったことによりグレープ味やオレンジ味といったフルーツ系のフレーバーを展開し、その後はコーラ味や現在も定番のソーダ味を発売するに至った。
そして、フルーツ系のフレーバーが大ヒットするなか、コーヒー味とミント味だけは人気が出ずにひっそり姿を消すことになった。
「今の酸っぱさでは物足りない」という声も
シゲキックスの開発でUHA味覚糖が大事にしているのが「酸っぱいだけでは終わらない」ということだ。口に入れた時の酸味から噛み続けた時の甘さという味のローテーションが、誕生から30年間支持されている理由のひとつだ。しかし、シゲキックスが愛されるようになるまでにさまざまな失敗があったという。
「過去には酸っぱさのみを強調しすぎた商品を出したり、キャラクターを押しすぎて駄菓子っぽくなってしまったりして、なかなか世間に定着しませんでした。近年はこれらの問題点を改善し、頑張って営業などの企業努力をしたおかげで、コンビニで取り扱ってもらえるようになりました」
現在は多くの会社が酸っぱいグミを販売するようになったが、発売当時の1992年頃からシゲキックスに慣れ親しんだ酸っぱいもの好きの大人にとっては、子供時代の思い出の味になっている。だが、最近では消費者から「刺激が物足りない」という声も上がっているそうだ。
「味は発売当初から一切変えていないのですが、他社からも類似の商品が発売されて酸っぱい商品に慣れてしまったり、発売当時は子供だったユーザーが大人になって酸っぱさへの耐性がついたこともあって『もっと酸っぱくしてほしい!』という声が増えました。そこで、これでもかというくらい酸味を強調した商品を発売したりもしました」
強烈な酸っぱさを求める人たちの期待に応えるべく、開発陣は日々酸っぱさと戦っている。担当者は「試作品を食べすぎて他の味が分からなくなったり、酸味が苦手な担当者が試食で冷や汗をかき続けたりと、開発には毎回苦労しています(笑)」とシゲキックスの開発の苦労を語る。
スマホの普及がグミ業界を後押し
日本の菓子メーカーでは1980年からグミの製造が開始された(日本初のグミは明治製菓の「コーラアップ」)。そのため、グミは飴やガムに比べて歴史が浅い。グミ業界全体としては20〜40代女性が主な購買層で消費者は年々増加傾向にあり、グミ業界は2021年の市場規模が約600億円を超えるなど、右肩上がりの好況が続いている。その反面、ガム業界は苦戦が続いているという。
「ガムが買われなくなった理由のひとつには『スマホの普及』があると言われています。昔は暇つぶしのためにガムを噛むことがありましたが、現在は代わりにスマホを見るようになり、ガムを噛む機会が減っているようです。逆にグミは手を汚すこともなく口から出す必要もないので、スマホとの相性はいいと感じております」
シゲキックスもグミ業界の成長とともに業績を伸ばしているが、他のグミと大きく異なるのは、現在のメインの購入層が30〜40代という点だ。子供の頃に親に買ってもらったことのある世代が、大人になった今も酸っぱさとハード食感の刺激を楽しんでいる。
逆に、あまり買わないのが10〜20代前半のZ世代と呼ばれる層だ。UHA味覚糖は若年層への認知度を高めるために、現在20歳の世界的ブレイクダンサー・半井重幸さん(ダンサーネーム・Shigekix)をアンバサダーとして起用し、若年層への訴求を行なっている。
「半井さんは、先輩ダンサーに名前の重幸(シゲユキ)とシゲキックスをかけて『Shigekixね!』と言われて、ダンサーネームを決めたそうです。その縁がきっかけでコラボが決まりました。また彼が『ブレイクダンスで世界一になってシゲキックスのCMに出演したかった』と記者会見で話してくれました。おかげさまで徐々に若い世代にもシゲキックスが認知されてきています」
「グミ業界はまだまだ成長途中」と言える理由
担当者は「シゲキックスをはじめグミ業界はまだまだ成長途中」と話す。グミはDHAやビタミンCなどの栄養素を配合したり、サプリメントとしての要素を盛り込めることも大きな特徴のひとつだ。近年では健康志向ブームもあり、機能性のあるグミが消費者に求められているという。
だが、UHA味覚糖がさまざまなグミを開発できるのも、元々は"酸っぱい"というコンセプトを追求し続けたシゲキックスの開発があってこそ。さまざまな付加価値をつけることでターゲットの拡大を狙い、グミは現在も進化し続けている。
「コンビニやスーパーのお菓子売り場ではいろんなグミが販売されていますが、シゲキックスの一番の特徴である『硬くて酸っぱい』をこれからも追求し、ユーザーを飽きさせない刺激的な新商品を発売していきたいです!」
30年前に「食べるガム」として登場したシゲキックスは、独自の路線を築いたグミのパイオニアだった。これからのUHA味覚糖が成長途上にあるグミ業界と増えるユーザーにどんな刺激を与えていくのか。今後のシゲキックスの挑戦とグミの進化に目が離せない。
取材・文/越前与 画像提供/UHA味覚糖
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