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迫りくる台湾有事。日本が「戦争確率」を減らすためにできること【高橋洋一×古賀茂明】

集英社オンライン / 2022年10月21日 17時1分

アメリカのバイデン政権が、台湾との兵器共同生産計画の検討を開始するなど、「台湾有事」に向けた緊張感が高まっている。両国の狭間で日本はどう立ち振る舞うべきなのか? 元財務官僚で第一次安倍内閣ではブレーンとして活躍した嘉悦大学教授の高橋洋一氏と、元経産官僚で政治・経済アナリストの古賀茂明氏が激論を戦わせた。

日米同盟で戦争確率は本当に減るのか?

――安倍政権の政治的レガシーとして、アベノミクスとともによく言われるのが安全保障・外交での成果です。一定の条件のもとでの集団的自衛権行使を可能とする安保法制の制定など、安倍元首相が成しとげた仕事は多い。ただ、こちらもアベノミクス同様、評価は人によってまちまちです。



高橋 2015年にできた安保法制は大きい。日本が戦争を仕掛けられるリスクを確実に減らした。私の言い方で言えば、「戦争確率を減らした」と言えます。

――戦争確率ですか。

高橋 私がプリンストン大学で金融財政以外に学んだことがもうひとつあって、それが「国家が戦争する確率をどうすれば減らすことができるか?」というもの。

その条件は大別すると、①仮想敵国が民主主義国であるかどうか、②自国が同盟を結んでいるかどうか、③仮想敵国との軍事的均衡がとれているかどうか、の3つです。

民主主義国同士が戦争をする確率は低いし、同盟を結んでいると戦争を仕掛けられるリスクは減る。また軍事力が周辺国などとアンバランスになっていない状況では戦争になることは少ないという研究データがあるんです。

それで私は「この3つの条件を整備して行けば、日本の安全の確率は高まりますよ」と、安倍さんに伝えた。同盟の要素のひとつが集団的自衛権で、その行使を可能にした安保法制によって日米同盟はさらに強くなった。

強い国と組んでいれば、戦争を仕掛けられる確率は減ります。だから、安保法制はまちがいなく、安倍さんの功績でしょう。

米中戦争が勃発したら日米同盟が仇となり、日本が戦争に巻き込まれる可能性も

古賀 ぼくの評価はまったく逆。たしかに、学問としてみれば、確率論的には高橋さんの言う通りでしょう。でも、それは一般論に過ぎない。ひとつひとつのケースには、それぞれ全く異なる事情があることを捨象している。

例えば、同盟の相手であるアメリカがどんな国かという視点が抜け落ちている。アメリカって世界で一番戦争を起こしてきた国ですよ。

それも湾岸戦争のように、時にはフェイクニュースまで流して戦争を仕立て上げてきた。ぼくは台湾有事を心配しています。米中が戦争になれば、安保法制によって自衛隊も参戦する可能性が高い。すでにそれを前提にした議論さえ始まっている。

米中戦争になれば、中国も自衛隊や国内にある米軍基地を攻撃せざるを得ない。好戦的なアメリカと同盟しているからこそ、逆に日本を危険にしている。安倍さんがやったことはそういうことなんです。

「日本の中立化」はお花畑論か

高橋 だけど、ウクライナを見れば、やはり同盟は必要じゃないですか? だって、バイデンが「ウクライナには米軍を派遣しない」と明言した直後に、ロシアはウクライナに攻め込んだんですよ。

アメリカがしっかりとウクライナにコミットメントすると宣言していれば、プーチンは戦争を決断しなかったかもしれない。仮にアメリカが戦争好きのイカれた国だったとしても、そこと組んでいれば、少なくともそのイケれた国に攻め込まれるリスクはなくなる。

国際政治では善人なんて誰もいないと考えるべきなんです。どこの国も自国の利益が大切なの。それに世界で一番強いアメリカと同盟を組んでいれば、それだけで他国から攻められるリスクは減る。戦争に関する統計データでもそのことは実証されてますよ。

安倍さんはリアリストだから、安保法制でアメリカとの同盟強化が日本の安全に寄与すると合理的に判断したんだ。「安保法制が戦争確率を高めるならどうしますか」と安倍さんに聞いたことがあるが、「高めるなら提案しない」といっていた。

「強い国と同盟を組めば、それだけで戦争確率は減らせると」語る高橋洋一氏

古賀 高橋さんは同盟の強化が日本の安全につながると考えているようだけど、僕は別の手立てがあると考えています。台湾有事に限って言えば、それは中立。

たとえば台湾有事の際に、中国が日本を攻撃しないと約束するなら、日本にある基地を米軍に使わせないとか、そうした中立的な立場を日本が堅持すると中国に信用させることができれば、日本が戦争になる確率はかなり減るはずです。中立だという相手に攻め込んで世界から批判されるようなことを中国がするはずはない。

今、日本にとって必要なことはアメリカと一緒に戦うために防衛費を倍増させるのでなく、まずは外交力で「米軍に日本にある基地を利用させないで中立に徹するのであれば、絶対に日本に攻め込まない」と中国に約束させたり、バイデン米大統領を「日本は戦争だけは御免だ、日本が攻められない限り戦争には参加しない。台湾有事は起こしてはいけない」と粘り強く説得することじゃないですか。


高橋 日本が中立とはまさにお花畑論。話会えば戦争を防げるというデータはないし、リアルな国際政治の現場でそんなことを信じている人もいません。

国際政治はお花畑論でなく、リアルなことが重要というのは過去データや現場では国際的に決着済み。今回のウクライナへのロシアの侵攻で、スウェーデンとフィンランドが従来の中立を放棄しNATO加盟を言い出したのはその証拠。

安倍さんは国際外交の場では尊敬されていた。トランプ大統領とサシで話ができる数少ない国家首脳だったし、G7でも各国のトップが安倍さんを頼りにしていた。日本の総理大臣であんなに存在感のある人はこれまでいなかったと思うよ。

プーチンと27回会談した安倍元首相

古賀 そうですかね。米英やオーストラリアなど、アングロサクソン国家には受けはよかったかもしれないけど、欧州やアジアではいまひとつだった。

たとえば、ドイツのメルケルさんなどからはちょっとバカにされていたようなところがあったし、フランスのマクロン大統領なども表向きに安倍さんに丁寧に接しているように見えて、本音の部分ではやっぱり米国に隷従する日本をバカにしているような部分が透けて見えていた。だから国葬にも来なかった。

中国や韓国といったアジア近隣国との関係も最悪になってしまったが、これは外交安保上深刻な問題。長く首相をやって数多くの外国首相に会ったわりには、実のある外交成果に乏しかったというのがぼくの評価です。

「台湾有事に限っていえば、日本は中立の立場を取るべき」と語る古賀氏

高橋 メルケルはロシア寄りでエネルギーのロシア依存が高くして、さらに原発も廃炉したので、今はドイツ国内でもかなり批判されていますね。

たしかに、安倍さんはプーチンと27回も会談したのに、北方領土でも何の成果も残せなかったという批判があるのは承知しているよ。でもね、北方領土は戦後70年も解決できなかったし、私は在任期間の長さ=外交力だと思ってます。

だからこそ、在任中に一度もプーチンと会談できない外国首脳も珍しくない中で、安倍さんは断トツの27回も積み重ねてこれた。日ロの首脳が交流している間は2国間関係も外交的におかしなことになることはないと考えると、それだけでも安倍外交ってけっこうすごかったと思うよ。

古賀 いやいや、地球儀を俯瞰するとぶち上げたわりには、安倍外交はアングロサクソン国など、ちょっと右っぽい国との関係に偏ってしまった部分は否めない。それよりもEUや北欧、そしてASEAN諸国などとの関係をもっと深めた方がよかった。

ちなみにEUや北欧諸国は賢明な政府が多くて、エネルギー政策やミクロの経済政策などで、質の高い政策を切磋琢磨しながら着実に打出している。そちらとの関係を強化した方がずっと日本も賢明な政策が実施できただろうし、国際的ポジションも高めることができたと思う。

高橋 外交にはリアリスト(現実外交)とイデアリスト(理念外交)の2種類があるが、過去のデータ、事例を見ても、結果を残してきたのはリアリストだと国際的には決着がついている。人によって安倍外交の評価はさまざまだけど、安倍さんがきわめて現実的な外交や安全保障を推し進めてきた優れたリーダーだったことは間違いないね。

写真/村上庄吾 AFLO

安倍さんと語った世界と日本

高橋洋一

2022/9/1

990円(税込)

新書 ‏ : ‎ 262ページ

ISBN:

978-4898318713

「ハッキリ言う、安倍さんが日本を救ったのだ! 」(髙橋洋一)

・今も続く的外れな「アベノミクス批判」
・アベガーよ、「安保法制反対! 」をウクライナで叫んでみろ!
・「悪い円安論」は無知の極み
・日本は今も全くインフレを心配する必要はない
・岸田総理よ、いま緊縮財政をしてはいけない!
・ウクライナで世界と日本の経済はこうなる
・ロシアの金融破綻の確率は・・・100%だ!
・実は日米同盟は世界基準だと「弱い同盟」である
・日本の戦争確率を確実に減らす方法を教えよう
・「平和ボケ」はお花畑からでて来なさい!
・財務省は防衛省の植民地化を狙っている
・NATO加盟を安倍さんは考えていたはずだ

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