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吉田拓郎の歌詞を語りのように伝えるパワー。秘訣は独特の「譜割りの崩し方」にあった

集英社オンライン / 2022年10月21日 17時1分

音楽プロデューサー、作・編曲家として、これまで数限りないミュージシャンたちと仕事をしてきた武部聡志氏。彼にとって、本当に優れたボーカルとはいったい誰なのか? 今回は音楽活動の引退を発表した吉田拓郎の革新的なボーカルに迫る。

吉田拓郎のオリジナリティーはどこにあるのか

――吉田拓郎さんとは96年にスタートしたテレビ番組『LOVE LOVE あいしてる』(以下『LOVE LOVE』、1996~2001年レギュラー放送のち3回の特別放送)以来、レコーディングやツアーも含め、長くご一緒されてきたと思います。武部さんの目から見て、拓郎さんはどんなミュージシャンですか?

武部 『LOVE LOVE』でご一緒するまでは、もっとフォークな人だと思っていたんです。自分で作詞作曲して、アコースティックギターを弾きながらひとりで歌う人は、僕のなかでフォークにくくられていたんですよね。



ところが吉田拓郎という人は、音楽の志向性もアプローチの仕方も、全然フォークではない。ロックの要素もR&Bの要素も持ち合わせている人で、なにより拓郎さんと付き合うようになって、自分の音楽観の狭さに気づかされました。

例えばこの手の曲はこういうリズムパターンが普通だろうとか、そういう音楽的な常識やフォーマットが拓郎さんにはあまり関係ないんですよね。だから僕らが思いつかないアイデアや、思いつかないようなリズムパターンを提示してくれることが多いです。

音楽に対して、すごく自由なんでしょうね。それまでにないものを作りたい、自分にしかできないものを作りたいと思ってやってきたんでしょうし、だからこそパイオニアとして日本の音楽を変えることができた。

非常にオリジナリティーに富んだものだと思うんです、吉田拓郎の音楽の世界って。それはソングライターとしてもそうだし、ボーカリストとしてもそうだし、ほかにはいない存在だと思います。

――ボーカリストとしてのオリジナリティーは、拓郎さんの場合、どんな点にありますか?

武部 あそこまで譜割りを崩して、音符にはまらない歌い方をしたのは、たぶん日本では拓郎さんが初めてじゃないですか。それまでの日本の歌詞は、ひとつの音符にひとつの文字をはめてきた。

ところが拓郎さんは、ひとつの音符に平気で3つも4つも文字を乗せますから。音程やタイミングも含めて、譜面にできない歌い方ですよね。そういう部分に拓郎節みたいなものが顕著に出ていると思います。

その歌い方に影響を受けたフォロワーもたくさんいますよね。たぶんMr.Childrenの桜井和寿くんもそうだと思うんです。音符に対する日本語のはめ方は、拓郎さんの影響が絶対にあると思う。ミスチルの場合、それをロックに乗せて、イノセンス溢れる感じに昇華していてね。

「譜割りの崩し方」と「歌詞を伝えるパワー」

――拓郎さんのオリジナリティーは、ユーミンと同じように歌詞と密接な関係にあるんですね。

武部 ただユーミンと大きく違うのは、拓郎さんの場合、自分以外の人が歌詞を書いた曲もいっぱいあることです。例えば『外は白い雪の夜』は松本隆さんが詞を書いた曲ですけど、あの歌い方を聴くと、拓郎さんが書いた詞だと思ってしまいますよね。作詞家からもらった歌詞を、普通はあんなに崩して歌えません。

でもああいうふうに歌うことで、松本隆さんが紡いだ物語をよりよく伝えることができる。歌でもあり、語りでもあるような歌い方ですね。

『外は白い雪の夜』は、譜割りの崩し方においても、歌詞を伝えるパワーにおいても、拓郎さんらしさをすごく感じる曲です。ほかの人の歌詞という意味では、『落陽』も象徴的な曲ですね。

――『落陽』は岡本おさみさんの歌詞ですが、たしかにそういった曲でも、言葉も含めて拓郎さんの曲だと感じてしまいます。

武部 実際にひもといてみると、拓郎さん以外の人が詞を書いた曲で名曲といわれるものが多くあってね。『旅の宿』なんかも岡本おさみさんの詞ですし、そこはシンガーソングライターでもユーミンと全然違うところです。

――ユーミンの声については、独特の波動があると表現していましたが、拓郎さんの声や歌の特徴はどんなところにありますか?

武部 シャウトできなくなったら歌うのをやめると言っていたくらいで、やはりシャウトすることが拓郎さんのなかではすごく大事なことなんだと思います。僕が出会ったころは、ボーカルダビングの前日にわざと飲んで、のどを潰して、その潰れた状態でシャウトしてましたね。

それがカッコよかったりもするんですよ。そうやってシャウトするのは、もしかしたらソウルミュージック、R&Bの影響もあるのかもしれません。

拓郎さんもいろいろな人に曲を提供しているし、ユーミンもいろいろな人に曲を提供してますけど、ユーミンが提供した曲はほかの人が歌っても、メロディー的にいい曲だと感じることが多いと思うんです。

その一方で拓郎さんの場合は、拓郎さんが歌わないといい曲にならないところがある。そういう違いがありますよね。

流れ作業はしたくない、吉田拓郎のこだわり

――拓郎さんは今年限りで音楽活動から引退することを発表しています。7月には『LOVE LOVE あいしてる 最終回・吉田拓郎卒業SP』が放送されましたが、そのときはやはり最終回ならではの雰囲気があったんでしょうね。

武部 もちろん最後ですからね。ただ感傷的になるというよりは、わりとみんなハッピーな感じでした。部活のようなあの時間をみんな愛おしく思ってやっていたわけだし、あの時間がそれぞれのなかで宝物だったんだということを再確認できたというか。

それはKinKi Kidsのふたりもそうだし、番組に参加したすべてのボーカリスト、ミュージシャンがそう感じていたと思います。あの経験がなければもしかしたらいまの自分はないと思うくらい、あの時間が自分を育ててくれたんですよね。『LOVE LOVE』に出演したことが、その後の自分の成長にどれだけ役立ったか。

――オンエアでも触れられましたが、当初は堂本剛さんが拓郎さんの『人生を語らず』を演奏するはずだったのに、リハーサルの段階で拓郎さんのOKが出ず、結局お蔵入りになった、と。そういったことはたびたびあったんですか?

武部 ありましたね。みんなで音を出してみて、これは違うと言われて、その場でアレンジを全部作り直したりとか、曲の構成を変えたりとか。単に譜面をさらって、みんなで音を出すっていう、流れ作業みたいなことはしたくないというこだわりが、拓郎さんのなかにはプライドとしてあったんでしょう。

だからあそこで演奏された曲は、すべて拓郎さんの審査を通った曲だと言っていいような気がします。

――楽曲を届けるときの、拓郎さんならではの基準があるんでしょうね。次回は「本当に優れたボーカルとは?」といったテーマでお話をうかがいたいと思います。

武部 こんな話でよければ、いくらでもできますよ(笑)。

構成・文/門間雄介 撮影/野﨑慧嗣

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