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賢い若者だけが気づいている「幸福を感じる限界は年収800万円」だからこそ、お金の次に大切なこと

集英社オンライン / 2022年10月24日 18時1分

お金で得られる幸せには限界があるということには、多くの若者たちが気づいている。幸福かつ自由に生きるために必要なお金は一体いくらなのか。そして、年収や貯金額が同じ場合、何が幸福度の差を生むのだろうか?

自由に生きるために必要な年収は?

若者たちの間で「FI(Financial Independence:経済的独立)」が目標になっているという。

パワハラやセクハラにあっても会社を辞められないのも、DVに耐えて離婚を切り出せないのも、会社や夫に生活を依存しているからだ。年金生活者の多くは国家に老後の生活を依存しており、その不安が巨大な政治圧力となって「シルバー民主主義」が生まれる。自由な人生を送るには経済的な「土台」が必要なのだ。



自由になるためにはお金が必要だとして、一体いくらあればいいのだろうか。100万円ではぜんぜん足りないが、100億円はいらないということは、誰だってわかるだろう。人間には使える金額に物理的・生物学的な限界があり、お城のような豪邸に住む、プライベートジェットや大型クルーザーを所有する、月旅行に行く、などを望まない限り(ちなみに、どれも私はまったく興味がない)、お金の使い道なんてそんなにないのだ。

だとしたら、目標にする収入や貯金額はいくらにすべきか?

その答えは、「富の限界効用が逓減(ていげん)して平衡状態になるまで」ということになる。限界効用の逓減とはなにか? これは経済学の基本だが、ぜんぜん難しい話ではない。

暑い日の喉がからからに渇いたときに飲む炭酸飲料の最初の1口目がものすごく美味しいことは、みんな知っているだろう。でもこの美味しさはだんだん減っていって、2本も3本も飲みたいとは思わない。

年収800万円を超えると幸福感はほとんど変化しない

このときの炭酸飲料の美味しさを「効用」という。「限界効用」は1口目から2口目、3口目への変化のことで、美味しさが減っていくのが「逓減」だ。「これ以上はもういらない」と思ったら、そこが平衡状態になる。「限界効用逓減の法則」というとなにやら難しそうだけど、強い感情を抱くのは最初だけで、うれしいことにも悲しいことにもいずれ慣れてしまうという、誰でも知っていることをいっているにすぎない。

限界効用が逓減するのはヒトの普遍的な性質なので、炭酸飲料以外の(ほとんど)あらゆるものに当てはまる。もちろんお金も例外ではない。

月給10万円のひとが、「来月から1万円アップで11万円にしてやる」といわれたら、ものすごくうれしいだろう。
それに対して月給100万円のひとが101万円になったとしても、なんとも思わないにちがいない。

資産についても同じで、100万円の貯金が200万円になったら大事件だけど、個人資産20兆円のイーロン・マスクなら、数億円程度の資産の増減は気にもとめないだろう。

それでは、収入の限界効用はどのように逓減するのだろうか。これはもちろん個人によってちがうのだが、日本の大学の研究では、年収800万円を超えると幸福感はほとんど変化しなくなるらしい。これは1人あたりだから、夫婦で子どものいる家庭だと、年収1500万円くらいになる。

これを図にすると、こんな感じだ。

限界効用逓減のイメージ

なぜ年収800万円で幸福度は変わらなくなるのか?

これも同じ大学の調査で、金融資産の場合、1億円を超えると幸福度は変わらなくなるという。これはおそらく、いまの日本では1億円が「安心」の基準になっているからだろう。日本国の借金は1000兆円を超えて、「このままだと国家破産する」とか「日本円は紙くずになる」と警告するひとがいる。それでみんな不安になっているのだけど、手元に1億円のお金があれば、それを外貨に換えたりして、「国家破産や年金破綻でもなんとか生きていける」と安心できる。

金融資産がいったん平衡状態に達すると、あとはお金を増やすより減らさないことを考えるようになる。なぜなら、これ以上お金が増えても幸福度は高まらないが、お金が減るとものすごく不安になるから。これが、お年寄りが銀行預金やタンス預金をする理由だ。

それでは、年収800万円で効用(幸福度)が変わらなくなるのはなぜだろうか。

その理由は、独身でそれだけの収入があると、東京タワーの見える高層マンションに住む、ブランドもののバッグを買う、スポーツカーを乗り回す、海外旅行をする……など、友だちが「いいね!」といってくれることがひととおりできるからだろう。

夫婦とも高収入のパワーカップルでは、年に1500万円の世帯収入があれば、子どもを私立学校に入れ、好きな習い事をさせ、週1回の外食や年1~2回の家族旅行もできる。このとき、夫婦の食事を近所の洒落たビストロからミシュラン星つきのレストランに変えたり、家族旅行を国内のキャンプ場からハワイの高級リゾートにしても、幸福度にさほどの変化はないのだろう。

働いていれば休みが自由に取れるわけではなく、それ以上の収入があっても、使いきれなくて銀行口座に貯まっていくだけだ。
こうして一定の収入を超えると、幸福度は平衡状態になる。

衣食住に満ちた人たちが次に求めるもの

日本のサラリーマンの平均年収は大卒20代で300~400万円、30代でもせいぜい500万円程度だから、年収800万円というのはかなりハードルが高い。ところが日本では、もっと少ない収入で同じように優雅な生活をしているひとたちがいる。それが「パラサイト・シングル」、実家暮らしの人々のことだ。

東京でちょっとおしゃれな家を借りようとすると、ワンルームでも月10万円はする。それに食費も加えたら、あっという間に支出は年200万円は超えてしまう。パラサイト・シングルならこれがぜんぶタダだから、「収入はすべて自分の好きに使える」といううらやましい身分だ。アルバイトや非正規でも「けっこう幸せ」というのは、たいていはこのパターンだろう。

ただし、「働きながら一人暮らしで年収500万円」と、「バイトしながら実家暮らしで年収200万円」は、自由に使えるお金(可処分所得)は同じでも、幸福度までいっしょとは限らない。なぜなら、仕事の満足度が異なるから。

20代で年収500万円なら“できるビジネスパーソン”で、まわりから「スゴいね!」とうらやましがられる。責任のある仕事も任され、やりがいもあって充実しているだろう。

一方、バイトで年収200万円は、時給1000円で1日8時間、1カ月20日働けば達成できるけれど、その仕事ぶりをみて友だちが憧れるということはないだろう。趣味の時間は充実していても、労働はお金を稼ぐための「必要悪=苦役」なのだ。

豊かな社会では、単にお金があればいいということにはならない。衣食住が足りてしまえば、次に求めるのは周囲からの評判だ。仕事の達成感も含めて、収入の効用が平衡状態になるのが年収800万円ということなのだろう。

文/橘玲

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