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「新しい人にお願いしたかった」アニメ『チェンソーマン』制作に込められたMAPPAの願い

集英社オンライン / 2022年10月31日 13時1分

2022年10月11日(火)より放送開始したTVアニメ『チェンソーマン』。同作でアニメーションプロデューサーを務めるMAPPAの瀬下恵介にインタビューを実施した。

第二部を「少年ジャンプ+」(集英社刊)で連載中、累計発行部数1800万部を突破している大人気マンガ『チェンソーマン』のTVアニメが10月11日(火)よりテレビ東京他にて放送開始した。

本作の制作を務めるのは『呪術廻戦』や『進撃の巨人 The Final Season』など数多くの人気アニメ作品を手掛けるMAPPA。複数の企業が出資する「製作委員会方式」を取らず、100%MAPPAが出資。加えて、エンディング・テーマは12組のアーティストが週替わりで務め、エンディング映像も毎週異なる映像になっているなど、アニメ制作における挑戦的な姿勢と強いこだわりも注目されている。



そんな本作でアニメーションプロデューサーを務めるMAPPAの瀬下恵介にインタビューを実施。同社が制作に至った経緯、スタッフ・キャストを含めた制作に対するこだわり、原作者・藤本タツキからの印象的な言葉など制作の裏側を伺った。

『チェンソーマン』をより良い形で映像化したい

――複数の企業が制作費の出資を行う製作委員会方式を取らず、MAPPAが100%自社で制作費を出資をすることに踏み切ったのはなぜですか?

我々としては、「『チェンソーマン』をよりよい形で映像化したい」という考えが念頭にありました。その上でどういう座組がいいかを話し合ったところ、弊社で100%出資する方が、ビジネス的な自由度も表現的な自由度もクリアできるのではないかと考えたんです。

「製作委員会方式が自由ではない」ということではありません。理解のあるチームの下で進めている作品も多くあります。ただ、我々の目的は最もよい形で映像化することであり、視聴者が最も楽しんでもらえる形で『チェンソーマン』をお届けすること。その目的を達成するには、複数の首脳陣が集まって、いろんな思想が入り混じってコンテンツをつくるよりも、集英社さんと弊社のみで面白いものを作るということだけを追求する方がいいだろうと思ったんです。

――12組のアーティストが週替わりでエンディング・テーマを務めるというのも、自社出資だからこそできたことですよね。

そうですね。2021年6月にティザー映像 を公開したところ、多数の音楽レーベルさんから連絡をいただきました。

©藤本タツキ/集英社・MAPPA

主題歌の選択肢がいくつか決まっていく中、中山監督から「どうせやるなら各話の内容に寄り添ったエンディングをやりたい」との意思をお伝えいただき、どうしようかと考えていたところ会社(MAPPA)から「今回の座組であればエンディングを各話ごとに変えることもできなくはないよ」と。

ただ、そうなると毎話エンディングの映像も変えないとおもしろくないと思ったため、現場に余力があるのかという話は当然出てきました。そこで監督や現場で動いてくれているスタッフと話し合ったところ、「やりましょう」と言ってくれたので実現することができたんです。

“新しい人”にお願いしたかった

――監督を務める中山竜さんはTVアニメ監督は初めてです。瀬下さんからオファーをしたとのことですが、どのような理由から中山さんにオファーしたのでしょうか。

自分が預かった作品を今、僕が1番興味のあるクリエイターと新しいチームでつくってみたいと思った、という単純な理由です。そもそも我々プロデューサー陣はどんな作品でも等しく「この作品を映像化するにはどのような形が1番いいか」を考えます。その上で演出や表現のイメージを膨らませ、そういった演出や表現を実現できる、あるいは得意とする人にディレクションの依頼をします。

『チェンソーマン』でも同様のことを考えたのですが、原作が今までのジャンプ作品とは異なる色を持っていたため、演出や表現の決まった型を持つ人より、“型を持たない新しい人”にディレクションしていただくことでおもしろくなるのではないかと考えたんです。

そこで思い浮かんだのが中山監督でした。僕が新卒で働き始めた時から、中山監督が優秀なアニメーターであるとは認識していました。アニメーションにおける作画や、制作されていたいくつかのショートフィルムのディレクションがとても素晴らしく、いつか一緒に仕事をしてみたいと思っていたので、今回がそのタイミングだとオファーしたんです。

――主人公・デンジを演じるのは、TVアニメ初主演の新人声優・戸谷菊之介さんです。中山監督の起用と同様、“決まった型のない人”に演じてもらいたいというのが理由でしょうか。

おっしゃる通りです。“こういう声”という既存作品のキャラクターのイメージから仕上げるのではなく、「デンジはデンジの声」「マキマはマキマの声」として考え抜き、キャスト陣を決めていきました。

そのため、オーディションにはきちんと時間をかけており、声優さんたちにはテープオーディションや立ち合いオーディションなどいくつかの選考を踏んでいただきました。その上でデンジの戸谷さん、マキマの楠木(ともり)さん、パワーのファイルーズ(あい)さん、アキの坂田(将吾)さんに決まったんです。

©藤本タツキ/集英社・MAPPA

――キャスト発表の際に「キャラクターの声質と近い地の声質を持つ方を選んだ」とお話しされていたかと思います。オーディション時にはどのようなポイントを意識しましたか?

普段どういう発声をして話すのかを気にかけました。声優さんはオーディション前に必ずスタッフのいるブースに「本日はよろしくお願いします」と挨拶に来てくださるんですね。戸谷さんや坂田さんが「よろしくお願いします」と言った時には、ブースにいるメンバーの中で「可能性のある人が入ってきた……」と緊張感が走ったのを覚えています。

原作者の喜ぶ顔はアニメ制作のモチベーションに繋がる

――原作者である藤本タツキ先生から提案されたことはありますか?

コミュニケーションを取るタイミングは随時あるのですが、中でも「自分の意思としては、良い映像が見たいということが1番大きい。そのためにできることは何でもやります。僕が何かの書類にハンコを押した方が良ければ、今この場でハンコを押します」とおっしゃられていたことが印象に残っています。おそらく冗談だとは思うのですが、すごく藤本先生らしい忖度のない意見だと思いました(笑)。それもあって各キャラクターのデザインやキャストを決める時、絵コンテのチェック、映像表現など、逐一、藤本先生から意見をいただくようにしています。

――制作過程を見られての藤本先生の反応はいかがでしたか?

みなさんがイメージされているように多くは語られない方なので、細かい感想や要望が来ることはありません。ただ、アフレコや音響に立ち会うタイミングで完成途中の映像を確認される際、特にいい芝居や動きをしているキャラクターを見ると顔が緩む時があるんですよ。笑って楽しそうにしていて。それは現場の人間として嬉しくなります。

原作を預かる側としては『チェンソーマン』を1からつくってきた藤本先生や編集者の林(士平)さんが考える「何をもって『チェンソーマン』とするか」に対して、できる限りアジャストできるよう考えています。だからこそ、原作者の藤本先生が喜んでくれることは我々アニメ制作をする人間のモチベーションに繋がります。

©藤本タツキ/集英社・MAPPA

――それは“原作を忠実に再現していく”ということなのでしょうか?

必然的にアニメオリジナルの要素を足さないとアニメの尺にはならないんですよね。マンガは絵とコマ割りで時間軸が表現されていますが、映像はリアルの時間軸で表現していかないといけません。ですので、“原作を忠実に再現する”というよりは、”原作を映像化した際により忠実に見えるようにする”という考えで制作しています。

原作の持つテンポ感や空気感を映像化した時にどれくらいの間や尺を使ってストーリーを展開していくか、中山監督と脚本家の瀬古(浩司)さんの2人ですごく議論していました。

より写実的・映画的なレイアウトを目指した

――プロデューサーとして本作で特にこだわっているポイントは?

「全部」と言いたいところですが、僕や中山監督が、特に細かく見ているのは「画面の設計」です。どういう雰囲気や見栄えの映像なのかにはすごくこだわっています。

――本作ではどのような「画面の設計」を目指したのでしょうか?

『チェンソーマン』の「画面の設計」では、より写実的・映画的なレイアウトを目指しています。アニメの制作が決まって最初に話し合った、かねてからの構想です。

©藤本タツキ/集英社・MAPPA

――最後に、これほどまでMAPPAの気合いが込められた本作が、アニメ業界にとってどのような影響をもたらすと考えているか、瀬下さんの見解をお聞かせください。

現場の当事者としては、『チェンソーマン』に限らず弊社が担当した作品はどれも気合いを込めて大切につくっています。なので“『チェンソーマン』だから”という考えはありません。

その前提を踏まえ、僕の意思として本作から伝わればいいなと思っているのは「“最も良い形の映像化を本気で目指すこと”がビジネス側の観点からも視聴者側の観点からもいい」ということ。そして、「映像をつくる人たちや映像をつくる環境をとにかく大切に考えてもらいたい」ということ。
作業に摩耗されるだけでは、クリエイティブが枯渇し、いろいろなものがすり減っていきます。逆にクリエイターが楽しめる環境であれば、クリエイティブは大きく変わると考えています。
人や環境を大切にしてもらえればもらえるだけ、我々制作サイドは視聴者が楽しめるコンテンツをつくり、それを大きくしていくことに注力ができる。本作がその理解に繋がるキッカケになればいいなと思います。

取材・文/阿部裕華

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