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「がん患者のひとは、どう接してほしいと思いますか?」ーー全国の学校で必修化した「がん教育」で学ぶこと

集英社オンライン / 2022年10月30日 11時1分

「がん教育」が学校で始まっていることをご存じだろうか。がんとは何かということから、予防のための生活習慣や早期発見の大切さ、がん患者への理解と共生などについて学ぶという。がん教育の内容に迫るとともに、学校で実際に講演を行う「がんサバイバー」の方々にお話を聞いた。

日本で始まった「がん教育」

学習指導要領の改定により、小学校では令和2年度から、中学校では令和3年度から、高等学校では令和4年度からがん教育が必修化された。小学校では体育の授業で、中学校と高等学校では保健体育の中で実施されている。

平成27年3月の「学校におけるがん教育の在り方について(報告)」には、がんの知識が国民全体で不足していることや、社会のがん患者への理解が不足していることについて問題が提起され、教育の必要性が示された。



さらに、子どものころからの教育によって、がんの正しい知識をつけるとともに、がん患者がこれまでと変わらない生活できるよう、社会全体で理解を深めることが重要であるとされたのである。

いまや日本人の2人に1人ががんにかかると言われている。他人事ではない病気だからこそ、子どものころから正しい知識をもち、予防や治療法、がん患者への理解を深めること、そしてがんを学ぶことを通して様々な病気にも理解を深め、健康に意識を向けようという目的があるようだ。

がん患者は、どう接してほしいと思いますか?

では、がん教育ではどのようなことを学ぶのだろうか?

文科省が示す学習内容は、次の9つ。これらを子どもの発達段階に応じて指導する。

・がんとは(がんの要因等)
・がんの種類とその経過
・我が国のがんの状況
・がんの予防
・がんの早期発見・がん検診
・がんの治療法
・がん治療における緩和ケア
・がん患者の生活の質
・がん患者への理解と共生

もちろん、家族をがんで亡くしたり、本人が小児がん等で闘病したりしたことがある場合には、授業をする際に配慮する必要があることも、がん教育のガイドラインに記されている。

注目したいのは、がん教育は「がんを知ることと、その予防」だけが目的なのではなく、「がん患者への理解と共生」というところにまで踏み込んでいるところだ。

日本対がん協会が公開しているがん教育用のYouTube動画には「がん患者は、どう接してほしいと思いますか?」「がん治療で2週間に1どの通院が必要な場合、『働き続けられる』と世論調査で答えた割合は?」といったQ&Aが取り上げられており、がん患者の置かれている現状や、当事者の人々の思いを知ることにも重点が置かれている。

がんという病気自体の注目度は高いが、がん患者の病気以外のところでの苦しみや生活の困難さにもフォーカスしているのだ。

「よくわかる!がんの授業」(公益財団法人日本対がん協会)

現場で教える「がんサバイバー」の声

がん教育は、学級担任や養護教諭だけではなく、医師などの外部講師を招き行われることも多い。

そのほか、自身ががんに罹患し「がんサバイバー」として学校で講演を行う方もいる。今回は各地の学校で講演活動を行う3名にお話をうかがった。

Aさん:ユーイング肉腫 50代
Bさん:乳がん 40代
Cさん:肺がん 70代

がんを正しく恐れることの重要性を訴える授業も(日本対がん協会)

――がんについて、子どもたちに何を伝えたいと思ってお話をされていますか。

Aさん:がんはうつるものではないし、必ず死んでしまうわけでもない。一方で誰にでもかかる可能性がある病気だということを伝えています。その上で、命を大切にしてほしいということにも触れています。

Bさん:とにかく正しい知識を知ってほしいと思ってお話しています。そのため、講演に行く学校や学年に合わせて、使用する教材の画像や言葉遣いは変えています。

――講演後、子どもたちからはどのような反応がありますか?

Bさん:「がんについて知ることができた」「すぐ死んでしまう病気というイメージが変わった」「ヘアドネーション(小児がん患者などに向けた頭髪の寄付)やレモネードスタンド(小児がん患者支援)など、自分ができるサポートをしたいと思った」などの感想をいただきます。一方で、がんは怖い病気だと思いましたという回答も毎回ありますね。

Cさん:肺がん経験者として、たばこの有害性を講演で強調しているため、親に禁煙を促す、たばこの怖さ伝える、といった感想があります。また、がんは早期発見で治る病気になってきていると説明しており、がん検診の大切さを親に伝えたいという回答もありました。

――今後、がんに対する理解をどのように広めていきたいですか。

Aさん:がんを知ること自体が、がんに備えることだという感覚を持ってほしいと願いながら、話をしていきたいと思います。

Bさん:授業では、身近な人ががんになっていることも想像しながら講演しています。また、一方的に教えるだけではなく「あなたたちにはこんな支え方ができるかもよ?」と子どものアクションにつながることを提案したりもします。

今後は1回の講演だけでなく、がん種、ステージなど、様々な状況の方の話を聞く機会が増えたらいいと思いますね。がん患者も子どもたちと同じように、いろんな人がいると知ってもらいたいです。

Cさん:日本では毎年約100万人が新たに患者となり、毎年40万近い人が亡くなっています。しかし、がん検診で早期発見できれば治る可能性は高くなります。新薬や新しい治療法も開発されていることや、子どもたちが将来がんになっても治るのだという希望も伝えていきたいです。また、医療者の研究例なども伝えていきたいですね。

実施率は中学校10.6%、高校7.1%……課題は?

がんにまつわる教育が充実することは、日本全体の健康促進にもつながる。しかし、課題も大きい。

令和4年9月に公開された「令和3年度におけるがん教育の実施状況調査」の結果によると、「外部講師を活用したがん教育を実施しましたか」という項目に対し、「実施した」と答えたのは中学校段階では10.6%、高校段階ではわずか7.1%にとどまった。

その原因について、日本対がん協会広報の今井氏は「外部講師の確保が難しい地域がある」ことにあるという。がんについて詳しい医師や、自身もがんと闘っているがんサバイバーは多いとしても、講演をしてくれるかどうかは別問題だ。

がんサバイバーが学校に行き、直接子どもたちに伝える様子(日本対がん協会)

各地の教育委員会では外部講師紹介の窓口を設置するなどして、人材の確保に努めているが、全ての学校で満遍なく指導が行われるようになるにはもう少し時間がかかるだろう。

人生に大きく関わる「がん」という日本人共通の課題を、全ての子どもたちが学校で考え、向き合っていけるような教育が望まれている。

参考資料
がん教育(文部科学省)
https://www.mext.go.jp/a_menu/kenko/hoken/1370005.htm
外部講師を活用したがん教育ガイドライン(令和3年3月 一部改訂)
https://www.mext.go.jp/a_menu/kenko/hoken/20210312-mxt_kouhou02-1.pdf

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