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【開始まで1年】インボイス登録を焦るべきではない2つの理由

集英社オンライン / 2022年10月28日 13時1分

2023年10月の開始まで1年を切ったインボイス制度。事業者には取引先からインボイス登録の圧力とも受け取れる通知が続々と届いているが、焦って登録する必要はない。その理由をフリーライターの犬飼淳氏が解説する。

インボイス登録を焦る必要はない

政府が1年後(2023年10月)からの開始を目指すインボイス制度。発注先がインボイスに登録しない場合、発注元の納税額が増える仕組みのため、発注元から様々な圧力(インボイス登録を呼びかける、呼びかけに応じない場合は取引中止や減額交渉を余儀なくされる、等)を受ける恐れが大きいことが従来から懸念されてきた。

*インボイスの基本知識が無い場合は筆者がtheletter 「犬飼淳のニュースレター」で配信した「前提知識ゼロでも理解できる! インボイスの仕組みと問題点」を参照ください




そして、その懸念はすでに現実となっている。継続してインボイスの問題点を取り上げてきた筆者のもとには発注元から圧力を受けたという事業者から多数の情報提供が寄せられている。

*圧力の実例は筆者がtheletter 「犬飼淳のニュースレター」で配信した「インボイスを理由にした事業者の排除は既に始まっている」 を参照ください

こうした圧力を受けた事業者は取引中止という最悪の事態を免れるため、今すぐにでもインボイスに登録すべきか思い悩んでいることだろう。


しかし、筆者が今回の記事で声を大にして伝えたいのは、「(少なくとも現時点では)インボイス発行事業者への登録を急ぐ必要はない」ということだ。それには大きく2つの理由がある。

実は、本当のタイムリミットは来年7月

1つ目の理由は、登録の本当のタイムリミットは来年3月ではないからだ。

インボイスの登録期限は表向きには来年(2023年)3月と周知されている。しかし、あまり知られていないが、実際は来年7月頃に申請しても同年10月の開始に間に合う仕組みになっている。

なぜかと言うと、国税庁が公開するインボイス制度に関するQ&Aの「問7 適格請求書等保存方式が開始される2023年年10月1日から登録を受けるためには、いつまでに登録申請書を提出すればよいですか」の回答には、非常に重要な以下の内容が注釈にひっそりと記載されている。

2023年3月31日までに登録申請書を提出できなかったことにつき困難な事情がある場合に、2023年9月30日までの間に登録申請書にその困難な事情を記載して提出し、税務署長により適格請求書発行事業者の登録を受けたときは、2023年10月1日に登録を受けたこととみなされます。なお、「困難な事情」については、その困難の度合いは問いません。

出典:国税庁Q&A 2022年4月改訂

やや堅苦しい書き方なので噛み砕くと、主に以下2点が国税庁の公式見解として示されている。

① 「困難な事情」を記載して2023年9月30日までに提出すれば、2023年10月1日の開始に間に合う
② 「困難な事情」の困難の度合いは問わない

つまり「インボイス制度に登録すべきか迷っていた」「インボイス制度の理解に時間がかかった」等の誰もが当てはまる内容も「困難な事情」として認められるということだ。この解釈は、「インボイス制度の中止を求める税理士の会」の税理士らも同様の見解を示している。

ただし、登録番号の発行には数週間程度を要すると見られること、実際に多くの事業者がギリギリまで様子を静観した場合は手続きに想定以上の時間がかかる可能性を考慮して若干の余裕を持たせると、事業者が不利益(来年10月の開始時に登録が間に合わない)を被らずに登録を申請できるタイムリミットは来年(2023年)7月あたりと言える。

本当のタイムリミットまで待つことが突破口になる可能性も

2つ目の理由は、1人でも多くの事業者が本当のタイムリミットまで登録せずに持ちこたえることが、インボイスの延期・中止を実現する突破口になる可能性があるからだ。

まず大前提としてインボイスが実際に開始されてしまえば、その悪影響はフリーランス・個人事業主だけではなく、あらゆる業種の会社員・法人に及び、事業者の淘汰、市場の寡占、物価上昇という形で国民生活に深刻な打撃を与える。

*インボイス導入による被害の全体像は、筆者がtheletter 「犬飼淳のニュースレター」で配信した「国民全員に悪影響が連鎖するインボイス。被害の全体像」を参照ください

ここまで問題の多い制度なのだから、本来であれば国民の反対世論によって法案自体を廃案に追い込むべきだった。しかし、インボイス制度導入を含む税制改正法案はすでに6年も前(2016年)に国会で可決した上、その後も約6年間にわたって大手メディアは問題点をほとんど報じなかった。

来年10月の導入前、最後の国政選挙だった今年7月の参議院選挙で一部政党はインボイス反対を公約に掲げたものの、大手メディアが自らインボイスの問題を報じる動きは皆無だったため、選挙の争点として注目を集めることもなかった。

その結果、反対世論を高めるどころか、未だに実態を知らない国民が圧倒的多数という状況だ。大手メディアが「報道」を放棄して政府の「広報」に徹する状況を踏まえると、民主主義本来の進め方でインボイス制度を中止に追い込むことは難しいのが実態だ。

そうした絶望的な状況でインボイスを延期・中止に持ち込む最後の手段は、インボイスの登録率を下げることだと筆者は考えている。

政府は頑なにインボイス登録対象者の総数を示そうとしないが、1000万者は確実に超えると見られる。2017年時点の国税庁の公表値 (免税事業者数:513 万者超、課税事業者数:310 万者)に加えて、膨大な数が予想される「人格なき社団」(労働組合、市民団体、各業界の同業者組合や商店会、学校のPTA 等)も含まれるためだ。

ちなみに国税庁が公表する2022年9月末時点の登録件数は計1,205,091件(内訳:法人961,923件、人格のない社団等1,375件、個人事業主241,793件)のため、分母を1000万者と仮定した場合の登録率は約12%に低迷している。

表向きの登録期限である来年(2023年)3月になっても登録率が10%台に低迷すれば、延期の可能性も出てくるだろう。現に、政府はこれまでも政策の申請者が予定通りに増えない場合に期限を延長することが度々あった。

性質がやや異なるが、最近の例ではマイナポイント第2弾の申請期限が今年9月末から12月末へ3ヶ月間延長された。さらに、ここから先は希望的観測ではあるが、その後も登録率が改善せずに延期を繰り返した場合、インボイスの導入が中止となる可能性もゼロではない。

水増しした数字を垂れ流した朝日新聞

この登録率をめぐっては、10月7日に朝日新聞 が「インボイス、登録事業者まだ4割弱」という見出しの記事を公開したが、騙されていはいけない。

筆者がツイートで指摘した問題点を改めて説明すると、この記事では4割という登録率を報じる際、分母を「消費税の納税義務がある約300万事業者(=課税事業者)」にあえて限定している。

しかし、先ほども説明した通りインボイスの登録対象は免税事業者(個人事業主、人格なき社団等)も含むため、確実に1000万者を超える。

インボイスに登録すべきかで最も悩むのは実質的増税となる免税事業者であるにもかかわらず、分母の対象を課税事業者に狭めて、登録率が大きくなるように報じているのだ。

この記事では、約300万者を分母にして4割という答えを導いたのだから、当然ながら分子には120万者 前後の数値があったはずだ。

この120万者という数字の実態を確認するため、筆者が国税庁の事業者公表サイトで今年9月末時点の登録済み事業者の件数を確認したところ、確かに総数は1,205,091者であった。分子にはこの数字を採用したと見て間違いない。

だが、この数字は、多数の免税事業者が存在する「人格のない社団等」「個人事業主」も含んでいる。

*1,205,091者の正確な内訳は法人961,923件、人格のない社団等1,375件、個人事業主241,793件

つまり、分母は課税事業者に限定した一方、分子は課税事業者と免税事業者の両方を含めて、ここでも登録率が多く見えるように報じているのだ。

条件の異なる数値を割り算して、実態の「1割」から大きくかけ離れた「4割」に水増しして報じてしまったことになる。単に記者が勉強不足だった可能性もあるが、朝日新聞として責任を持って訂正すべき重大な誤りと言える。

そこで、記事を書いた 記者に筆者自ら真意を問い合わせたが、残念ながら期日までに回答はなかった。想像するに、登録の心理的ハードルが最も高い免税事業者(実際は今回の計算対象に含まれていない)に対して「全体の4割も登録しているなら登録すべきかな」とミスリードする狙いがあったのではないか。

苦しすぎる岸田総理の答弁

ここまで筆者はインボイス制度は絶対に止めるべきという前提で話を進めてきたが、「政府がここまで推進するのだから、相応の導入根拠があるのでは?」と違和感を覚えた読者もいるかもしれない。

そうした読者向けに、今月7日の参議院 代表質問でのインボイスに関する岸田文雄 総理の答弁を最後に紹介したい。当日、石垣のりこ議員(立憲民主党)はインボイス制度の様々な問題点を指摘し、制度自体の廃止を訴えた。

*詳細な質問内容はSTOP!インボイスの中継ツイート参照

石垣議員の訴えに対して、岸田総理は主に以下3点を根拠に、インボイス制度は予定通りに進めるべきと答弁した。

①インボイス制度は複数税率における適切な課税に必要である
②経過措置を設けることで事業者の税負担を抑える
③独禁法によって取引先からの不当な圧力を取り締まる

しかし、これら3点は「虚偽」もしくは「実効性が低い対策」であり、導入の根拠には全くなっていない。

まず、①は、政府がここ数年ずっと使い回してきた主張であるが、明確な虚偽であることが既に国会で明らかになっている。

政府は複数税率で適切な課税ができなかった例として、食料品(8%)と酒類(10%)をまとめて10%で仕入税額控除したケースを唯一の例として挙げ続けているが、そのケースがどの程度発生しているのかを国会で何度問い質しても、「実数は調査していない」という回答しか返ってこない。

本当に問題があるならば税務署を通して容易に調査できる内容だが、大した問題ではないからこそ実数をあえて調査はせず、政策の導入根拠として利用していることが浮き彫りになった。

*詳細は筆者が集英社オンラインに寄稿した記事「インボイス導入の本当の狙いは「消費税20%超増税」への布石か?」参照

②の経過措置(最初の3年間は免税事業者等からの仕入が80%控除可、次の3年間は50%控除可)はあくまで導入後6年間(2023年10月〜2029年9月)限定の措置である。2029年10月以降は完全に無くなるため、問題の先送りに過ぎない。

*経過措置の詳細は筆者がtheletter 「犬飼淳のニュースレター」で配信した「前提知識ゼロでも理解できる! インボイスの仕組みと問題点」を参照ください

③は公正取引委員会が独禁法違反を適用したのは5年間でたった5件であることを踏まえると、適用のハードルが非常に高く、実効性は期待できない。

現に、今年8月にこの懸念を公平な税制を求める市民連絡会(共同代表:宇都宮健児 弁護士)が公開質問で財務省に指摘しても、具体的な回答は皆無であった。

*公開質問および財務省回答の詳細は筆者がtheletter 「犬飼淳のニュースレター」で配信した「【独自】インボイス制度 6つの懸念に対する財務省の衝撃的回答」を参照ください

逆に言えば、岸田総理がここまで穴だらけの原稿を使い回すしかないほど、インボイス導入に根拠はない上に数々の懸念は確実に現実になる可能性が高い。だからこそ、(現時点では)インボイスに焦って登録する必要はない。

既に取引先からの圧力に晒されている事業者が苦しいことは理解しているが、なんとか来年7月までは持ちこたえて状況を見極めてほしい。


文/犬飼淳

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