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「今、日本でいちばん優れたボーカリストは玉置浩二」音楽家・武部聡志がそう断言する理由

集英社オンライン / 2022年10月28日 17時1分

音楽プロデューサー、作・編曲家として日本でもっとも多くのボーカリストと共演してきた音楽家、武部聡志の“ボーカル論”を探るインタビュー。今回はKinKi KidsやSMAPといったジャニーズアイドルに関する分析を端に、いよいよ「今、日本で最も優れたボーカリスト」は誰なのかを明らかにする。

ジャニーズアイドルの歌の魅力

――ジャニーズのアイドルたちとこれだけたくさん共演してきた方は、武部さん以外にあまりいないような気がします。ジャニーズのなかでとくに印象深いボーカリストは誰ですか?

武部 やはり歌を聴いた回数も、レコーディングでアレンジした曲数も多いですから、その思い入れも含めてKinKi Kidsは特別です。ただ堂本剛くんと堂本光一くんのふたりはそれぞれ、歌に対するアプローチの仕方も違うし、違う表現力を持っている。それが面白いですよね。



光一くんはどこまでも明るい王子様で、だからエンターテイナーとして『SHOCK』みたいなミュージカルを成功に導けた。剛くんは彼自身が“硝子の少年”ですから、どこかに屈折した思いみたいなものがあって、その暗さが歌ににじみ出ています。

それなのにふたりで声を合わせると、ハーモニーの一体感が生まれて、たまにどっちの声かわからなくなるときがあるんですね。ソロで歌っているところはもちろんわかりますよ。

でもユニゾンで歌ったり、ハモって歌ったりすると、「あれ、剛? 光一?」って戸惑うことがある。不思議なもので、そういうときは似て聴こえるんです。

――コンビネーションの妙なんでしょうね。

武部 そこはジャニー喜多川さんの先見の明だと思います。あのふたりを組ませようと考えたことが、ジャニーさんの天才的なところですよ。

ジャニーズのアイドルたちの歌を聴いて、もしかしたら手厳しいことを言う人もいるかもしれません。だけど僕はそれぞれが魅力的なボーカリストだと思っています。

人前に出て人気を得るということは、それだけ人の心をつかめるということですよね。そこには技術とはまた違う観点から見た魅力があるはずです。

ジャニーズの場合、グループが多いのが特徴ですね。グループというのはソロと違い、全員で声を出したときのユニゾンの響きが気持ちいいかどうか、それが大きなポイントです。

SMAPにしても嵐にしても、5人で声を出したときのユニゾンの響きがすごくいい。その瞬間にSMAPの色、嵐の色ができあがります。

そういうものがグループならではの魅力じゃないでしょうか。そのメンバーの組合せを、ビジュアルだけでなく、歌や踊りも含めて考えたジャニーさんって本当にすごいですよね。

オリジナリティーを育む方法

――アイドルに限らず、さまざまなボーカリストと仕事をされてきました。話をうかがいたい方がたくさんいて、キリがありませんが……。

武部 一例を挙げると、一青窈さんはボーカルテクニックというより、伝える力において秀でている人です。聴覚に障害を持つ方たちの前で、コンドームを膨らませて、その振動だけで音楽を伝えるという経験も積んできましたから。

――一青さんは、武部さんがプロデューサーとして、デビュー前からその才能を育んできた方です。

武部 彼女はもともとR&Bが好きで、デモテープではホイットニー・ヒューストンやマライア・キャリーなどを歌っていました。でもその歌を聴いて、いいとは思わなかったんですね。

それよりも彼女の声がよく響く、彼女に合った歌い方があるだろうと思って。彼女が台湾と日本の両方にルーツを持っていることは、いいヒントになりました。

ちょうどその直前に、松たか子さんといくつか和風な曲にトライしていたんです。それがわりと手応えのあるものだったので、それを一青さんの声と合わせて、「和」と「中」を折衷した世界観ができるんじゃないかなと。

当時は宇多田ヒカルさんを筆頭にR&B系歌姫の全盛期でしたから、そこで同じことをやっても勝負にならない。だからまったく違うものをやろうということで、プロデュースワークを始めました。

――ボーカリストとしてのオリジナリティーを追求されたわけですね。

武部 そうですね。彼女のデモテープを聴いたとき、いいと思わなかったのは、ブラックミュージックの真似をしているように聴こえたからでしょう。例えば久保田利伸さんやゴスペラーズみたいに、好きでたまらなくて、死ぬほどコピーしてきたという歌の身につけ方ではありませんでした。

彼女のフェイクも、ブラックミュージックのフェイクではなく、オリエンタルなこぶしに近いものだった。それならその歌いまわしを生かしていこう、そう考えたんです。

本当に優れたボーカリストとは?

――数々のボーカリストを見てきた武部さんにとって、“本当に優れたボーカリスト”とは誰を指しますか?

武部 今、日本でいちばん優れたボーカリストは玉置浩二さんだと思います。強く歌っても弱く歌っても、歌をちゃんとコントロールできるし、言葉の持つ意味や、その言葉の響きをきちんと伝えることができる。テクニカルな部分でも、例えばピッチコントロールの正確さは飛びぬけていますね。

なおかつ感情を揺さぶる声質で、ビブラートの音程幅が広い。本当に素晴らしいボーカリストです。たぶん日本で歌を歌っている人たちは、みんな同感すると思いますよ。

――玉置さんは武部さんが音楽監督を務める『FNS歌謡祭』で、さまざまなボーカリストとコラボレーションしてきました。

武部 そうですね。仕事としてのかかわりは、彼が書いた曲を僕がアレンジして、他のアーティストでレコーディングする機会がいちばん多いです。先日、川崎鷹也さんのカバーアルバムをサウンドプロデュースしたときには、『メロディー』を歌ってもらいました。(玉置さんとは)もちろん音楽番組でご一緒したことも何度もあります。

ユーミン(松任谷由実)や吉田拓郎さんと違い、どうやってウォーミングアップをしているかとか、プライベートなことはまったく知りません。だからわからない部分もありますけど、とにかく音楽的な勘が鋭いですよね。動物的な勘と言うんでしょうか。瞬発力みたいなものをすごく感じます。

――女性のボーカリストを挙げるとしたら誰ですか?

武部 男性が玉置さんなら、女性はMISIAさんですね。それだけのボーカルテクニックを持っているし、表現力も持ち合わせている。ボーカリストが究極的に問われるのは、一声出しただけで人を振り向かせられるかどうかだと思うんです。

自分のことを誰も知らないような街角で、いきなり歌を歌い出したとして、周囲の人たちが「お!」って立ち止まるかどうか。MISIAさんなら間違いなくみんな立ち止まりますよね。それは玉置さんも。別格だと思いますよ。

みんなが安心して歌を歌えるように

――プロデューサーや作・編曲家、あるいは音楽監督として、ボーカリストと接するときに心がけているのはどんなことですか?

武部 ボーカリストは、プロデューサーやディレクター、作・編曲家といったチームのいろいろな思いを背負ってフロントで歌います。そうするといちばん風を受けるのがボーカリストですよね。そういう意味では、いちばんつらい立場なんです。

だから僕は、ボーカリストがどうすれば実力以上のものを発揮できるか、いかにストレスなく歌えるかということを考えて仕事をしているつもりです。僕がさまざまな番組で音楽監督を任せていただいている理由は、そういったところにあるのかもしれません。武部なら大丈夫だとみんなが安心して歌ってくれることが、僕にはいちばん嬉しいことですから。

――ボーカリストを生かすという、その価値観はどうやって培われたものですか?

武部 学生時代にアマチュアバンドをやっていたころは、自分で歌いたかったんですよ。でも歌えるほど歌がうまくなかった。ちょうど同じ時期にスティーヴィー・ワンダーの歌を聴いて、雷に打たれたようなショックを受けました。

こんな歌を歌う人がいるなら、自分で歌うなんておこがましいなと。だから自分は歌う人を支える側に回ろうと思ったんです。それで20代になって、歌い手を支える立場の仕事を目指したんですね。

――初めはボーカリストになりたかったというのが意外です。

武部 小学生のころからバンドをやっていたんですよ。バンドではギターを弾いて、フロントで歌ってましたからね。中学、高校のころまで。だけど素人レベルだったし、やってるうちに自分のへたさ加減に嫌気が差した。それが僕の原点かもしれません。

構成・文/門間雄介 撮影/野﨑慧嗣

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