近年やたらと「怪演」という言葉を耳にする。
やれ怪演女優だ、やれ元アイドルグループ俳優が殺人鬼役を怪演だと芸能ニュースを検索すればいくらでも出てくる。
奇怪な行動や行きすぎた言動のキャラクターを嬉々として演じているような場合にこの言葉は使われるが、実は広辞苑には「怪演」は載っていない。古くからある言葉ではあるが、ここまで頻繁に使われるようになったのはわりと最近のことだ。
大宅壮一文庫で調べたところでは、雑誌見出しレベルでテレビドラマや映画における俳優の「怪演」が最初に出てくるのは1988年である(これより古くから「怪演」という言葉はあり、演劇評などにおいて時折出てきてはいたが、「雑誌見出しレベル」での話ということでご了承いただきたい)。
ここで「怪演」していたのは映画『帝都物語』の加藤役・嶋田久作である。
嶋田久作は『帝都物語』に抜擢されるまで全くの無名で、これをきっかけに世に出た新人。演技もさることながらそのたたずまいがあまりにも奇怪で、魔人・加藤のイメージを世に強烈に植え付けた。