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名山には名湯あり? 達人が教える「温泉百名山」今秋オススメの6選

集英社オンライン / 2022年11月1日 15時1分

温泉取材歴40年のベテラン温泉紀行ライターが、名湯のある名山を100座選定し、完登。北海道から九州まで一人で取材した貴重な体験レポートにして、唯一無二のガイドブックができあがった。その誕生までの道のりと、この秋におすすめのコースを聞いた。

「温泉百名山」の誕生

――「温泉百名山」とはどのようなものでしょうか?

飯出敏夫(以下、飯出) 簡単に言うと、「登山口近くや山中にいい温泉がある名山」ということです。いい温泉とは、『日本百名山』の著者・深田久弥氏が名山の基準とした「品格」「歴史」「個性」がそのまま名湯といわれる温泉にも通じると考えました。名湯のない日本百名山がけっこうあり、その代わりに名湯はあるが日本百名山に選定されなかった名山を加えて、「温泉百名山」の選定登山を試みたのです。



2015年以降に登った日本百名山で名湯のある名山はそのまま残し、それ以前に登った日本百名山は登り直すことにしました。なぜかというと、1つにはこの年齢で登った山の印象を実感する必要を感じたこと、そしてもう1つがデジタルの画像がないことでした。

それは、達成の暁には書籍にしたいという希望を持っていたからです。結果、日本百名山完登以降に登った山は70座以上にもなり、2018年7月からとりかかり、完結は2021年9月の北岳でしたが、さらに10月には日本百名山登頂時には噴火事故で立入禁止になっていた御嶽山剣ヶ峰にも登りました。

――選定に至るきっかけを教えてください。

飯出 2016年に北陸の霊峰白山に登ったときに深い感銘を受け、登り残した日本百名山はあといくつあるだろうと数えてみたのがきっかけとなりました。残り41座で、そのとき69歳。では、翌年の古稀の記念に完登しようと決意しました。

それで、翌年9月の剱岳で日本百名山を完登したのですが、次に何を目標にするかを考えたとき、日本百名山の中には温泉のない、あるいは温泉のことが記述されていない山が多いということに気づいたわけです。

私はほぼ40年(温泉に特化して30年余)、温泉・温泉宿の取材と執筆活動をしてきましたが、学生時代は登山に没頭した青春を送っていました。それで、温泉と山を組み合わせた「温泉百名山」を選定登山することは、いわば私に与えられた使命だという思いにとらわれてしまったんです。まぁ、そこに行きついたことは「必然」という思いもありました。

「日本百名山」の百座目登頂となった剱岳で。写真・飯出敏夫(『温泉百名山』)

選定登山の思い出

――実際に登られて、印象的だったことは?

飯出 そうですねぇ。一言でいうと、よく登り切れたなぁ、というのが一番の感慨ですね。

私、達成までに3度の大病をしてるんです。最初は2011年の悪性リンパ腫。抗がん剤治療で大きなダメージを受けて、ほぼ3年間は帰宅時の30分かかる坂道を上るのも休み休みといった状態でした。2014年にハイキング本の改訂で低山ハイキングをしたのがリハビリとなり、2015年に羅臼岳と槍ヶ岳、武尊山に登ることができたんです。これで、なんとか登山が続けられるかなとは思いましたが、このときはまだ日本百名山に挑む気などさらさらなかった。2016年に白山に登るまでは。あとは、先ほど言った流れになるんですけど。

2018年から選定登山にとりかかったのですが、やはり厳しかったのは新型コロナの感染拡大、そして2020年4月に発せられた緊急事態宣言でしたね。以降、2021年の選定登山完結まで、ずっとコロナ禍の登山ということで、それが一番印象に残っていますね。結果的に、外出自粛要請に応じませんでしたから(笑)。その年には登れても、翌年に登る気力・体力があるという保証はなく、必死でした。「自粛警察」や「同調圧力」を感じた日々でした。

そんな中、一番印象に残っているのは、東北の山のブナ林の美しさですね。この山々が原発事故で放射能汚染されたり、されそうになったかと思うと、怒りがこみあげてきたものです。そうそう、秋田駒ヶ岳に登ったときに、偶然、悪性リンパ腫と闘いつつ全国を旅して山に登り続けているという人と一緒になりました。持ち家を売り払い、車中泊ができるように改良した車でたった一人で全国を旅しているというこの人に出会ったことが、一番強烈な思い出として残っています。

「温泉百名山」完結の山、北岳をバックに。写真・飯出敏夫(『温泉百名山』)

達人が教えるこの秋おすすめの6コース

――「温泉百名山」の中から、秋におすすめのコースを教えてください。

飯出 はい。では、次の6コースを紹介します。

① 乳頭山と乳頭温泉郷(にゅうとうざんとにゅうとうおんせんきょう)

いまもっとも人気がある温泉地の1つが秋田県の乳頭温泉郷です。その温泉郷を見守るようにそびえているのが乳頭山ですが、乳頭温泉郷の7湯のどこをベースにしても日帰り登山に適した名山です。最初の登りはブナ林で、稜線に登るとあとは割と平坦な尾根歩きになります。360度のパノラマが広がる山頂からは岩手山、秋田駒ヶ岳や田沢湖、森吉山などの大展望が楽しめます。もういつ雪が降ってもおかしくありませんが、好天の日を選んで登っていただきたいですね。前泊して1日コース、できれば下山してもう1泊の連泊プランがおすすめです。

② 安達太良山と岳温泉元湯(あだたらやまとだけおんせんもとゆ)

安達太良連峰の盟主・安達太良山の登山は意外にやさしく、ゴンドラリフトを利用すれば1時間10分ほどで山頂に立てます。また、リフト終点近くの薬師岳展望台からも智恵子抄で謳われた“ほんとの空”にそびえる安達太良山を望むことができます。岳温泉元湯は奥岳温泉や岳温泉の泉源地で、県営くろがね小屋の風呂で極上の湯が堪能できます。できれば、通年営業のこの山小屋での1泊をおすすめしたいです。

③ 温泉ヶ岳と加仁湯温泉(ゆせんがたけとかにゆおんせん)

温泉ファンなら見逃せない山名、それが栃木・群馬の県境にそびえる温泉ヶ岳です。奥日光の金精峠から奥鬼怒に至る稜線上の山で、さらに根名草山を経て奥鬼怒四湯に至る魅力いっぱいの縦走コースがあります。11月になれば霧氷や新雪の山に遭遇することもしばしばです。奥鬼怒四湯では、白濁の硫黄泉の露天風呂が魅力の加仁湯温泉をおすすめします。

④ 谷川岳と湯檜曽温泉(たにがわだけとゆびそおんせん)

遭難者多発で怖れられている谷川岳ですが、それはロッククライミングでの話です。一般的な登山コースは、天候さえよければ、ロープウェイ終点の天神平から往復4時間30分程度の初級者向きの山で、しかもアルペン気分が満喫できる魅力満載の山です。今年はすでに初雪の便りも届きましたが、まだ根雪にはなりませんので、好天であれば大丈夫。また、ロープウェイで天神平に登って山岳風景を眺めるだけでも、十分に楽しめる山だと思います。登山口に一番近い温泉は湯檜曽温泉で、肌に優しい単純温泉が山旅の疲れを癒してくれます。

⑤ 金時山と姥子温泉(きんときやまとうばこおんせん)

箱根外輪山の最高峰である金時山は、仙石原から登り1時間30分程度、ファミリー登山にも適した「温泉百名山」入門の山としておすすめです。一番の魅力は富士山の好展望台であること。富士山が冠雪した後の好天の日に登れば、最高の風景が楽しめます。温泉は登山口付近に仙石原温泉もありますが、ここは金時山にゆかりの深い姥子温泉・姥子秀明館の伝統的な温泉霊場の湯を体感していただきたいと思います。

⑥ 東篭の塔山と高峰温泉(ひがしかごのとうやまとたかみねおんせん)

東篭の塔山は、登山口から登り50分程度。それでこれだけの大展望が楽しめる山はそうはありません。至近の浅間山や四阿山をはじめ、八ヶ岳や中央・北アルプス、富士山など、名だたる「日本百名山」が視界に入ります。目前の水の塔山の麓、標高2000m付近の稜線上に建つ一軒宿が高峰温泉で、ここをベースに四季折々に登ってみたい名山です。

6コースとも初級者向きですが、乳頭山、温泉ヶ岳、谷川岳はちょっと登りごたえがあります。いずれにしても、登山のあとに入る温泉は格別で、温泉だけを訪ねたのと、同じ温泉なのに全然別物に感じると思います。登山と温泉を組み合わせた、そんな「温泉百名山」の魅力と醍醐味を、ぜひ味わってみてください。

ランプの宿 高峰温泉の雲上の野天風呂。写真・飯出敏夫(『温泉百名山』)

温泉百名山

飯出敏夫

2022年10月26日発売

2,420円(税込)

四六判/224ページ

ISBN:

978-4-7976-7419-4


温泉達人、名湯のある名山を100座選定。
著者は温泉取材歴40 年のベテランだが、2016 年、白山に登ったのをきっかけに、元来の山好きに火がつき、「日本百名山」を意識する。翌年、完登したものの、意外にも温泉がないことに気づき、温泉のある名山を自らが100座選定することを決意。深田久弥の『日本百名山』に倣い、「品格」「歴史」「個性」をもった名湯のある名山を100座選定。18年より実際に選定登山に取り組み、21年に完登。温泉達人による「温泉百名山」が誕生した。なお、名山と名湯をセットで紹介するガイドの体裁だが、すべてを一人で取材した著者の体験レポートとしても楽しめる。また選定登山に取り組む間、悪性リンパ腫や膝関節症などと闘い、病を克服しての実現となった。「前進すれば、きっと山頂立てる」という奮起を促す一冊。

温泉評論家・石川理夫氏推薦!
山と温泉を愛する人に、「日本百名山」に続く目標ができた。
「温泉百名山」を選ぶ山湯行で、著者は病を三度克服。
達成への道のりに心ゆさぶられた。本書は山&温泉情報も詳しい。

【構成・内容】
都道府県別に分類し、基本的に北から南の順に記述。1コース2ページ。山の概要と登山レポート、温泉の紹介に、美しい山と温泉の写真を添える。著者の主観的な体験レポートにポイントを置き、一般的なガイドブックとは一線を画す内容。隠れた名山や名湯も含む。さらに参考データとして、登山口からの往復コースタイム(休憩含まず)、基点となる温泉までのアクセス、温泉から登山口までのアクセス(公共交通&車)、コースの難易度(初級★、中級★★、上級★★★)なども記載する。

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