1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. ライフ
  4. カルチャー

1冊に声優14人起用も。ユーザー数うなぎのぼりの「オーディオブック」の魅力とは何なのか

集英社オンライン / 2022年11月2日 14時1分

本の内容を朗読した音声を聞くオーディオブックの人気が高まっている。なかには10人以上の声優が参加したドラマのような作品も。国内最大手の販売会社に、人気作品、上手な聴き方を取材した。

14人もの声優が参加した人気ミステリー小説

「目玉の奪い合い」という言葉はSNSが出始めたころに、ユーザーの視聴時間をネット、テレビ、活字コンテンツなどが争ったときに形容されたものである。現在、その主戦場は「耳」に移ったようだ。

オーディオブック販売の国内最大手・オトバンク(東京都文京区)が運営する「audiobook.jp」は2019年からの3年間で会員数を3倍に伸ばして、現在250万人以上、登録書籍の数は数万冊を超える。オーディオブックとは本をナレーターらが朗読して録音、それをユーザーがパソコンやスマートフォンで「聴く読書」のための本のこと。同社には月額1000円で聴き放題となるサブスクリプションサービスがあるのが特長だ。



ではどんな「本」が読まれているのか、同社オーディオブックコンシェルジェを務めている羽賀抄子さんに案内をしてもらった。

同社はユーザーからの投票で「オーディオブック大賞」を選出しているが、今年の文芸部門の大賞と準大賞が次の2作だった。

『invert 城塚翡翠倒叙集』(相沢沙呼著、講談社)

ナレーター古賀葵・田澤茉純・宮園拓夢・行成とあ・神尾晋一郎・稲岡晃大・西村俊樹・稲垣好・佐藤元・富岡佑介・玉井勇輝・田中進太郎・赤星真衣子・高木遥香、再生時間15:16:48

『推し、燃ゆ』(宇佐見りん著、河出書房新社)

ナレーター・三澤紗千香、再生時間03:13:01

『invert 城塚翡翠倒叙集』は、「このミステリーがすごい!」1位などミステリー五冠に輝いた『medium 霊媒探偵城塚翡翠』の続編である。受賞理由はなんだろうか。

「まず朗読に14人の声優さんが参加されていることです。効果音にもこだわっていて、ラジオドラマのように物語が進んでいきます。相沢先生にもこの演出を気に入っていただき、SNSで推していただいたのも大きかったです」(羽賀さん)

そう、「本を朗読」といっても、パソコンの読み上げ機能のように無機質な声が淡々と文章を読んでいくのではないのだ。声優さんの感情を込めた台詞、間などが文字だけの世界から立体的に物語を構成していくので、ユーザーは原作の新しい魅力を発見することになる。もちろん、準大賞の『推し、燃ゆ』のように一人の声優、ナレーターが読んでいく構成になっているものも多い。

大賞には選出されなかったが、小澤征爾の青春自叙伝『ボクの音楽武者修行』(新潮社)では、文中に出てくる1960年代のスクーターの音を再現するために、同社の制作ディレクターがわざわざ当時のバイクを探し出して、音を録りに行ったそうだ。

ビジネス本など、他のオーディオブック大賞受賞作品はこちらから

黒柳徹子さんが自著を朗読する贅沢

オーディオブックはなぜ急成長しているのか。コロナ禍での巣ごもり消費かと思いきや、同社広報の佐伯帆乃香さんはそうではないと言う。

「まずワイヤレスイヤホンの普及です。オーディオブックを聴きながら家事をしたり身体を動かしたりする『ながら読書』がより便利になりました。動画配信サービスなどでサブスクリプション・サービスが広がったこともあります。特に60代、70代といったシニア層のユーザーがお試しでやってみて、さらに使うようになったという声も多くいただいています」

同社のユーザー体験によると、ユーザーの女性の83歳の母親が緑内障で本が読めなくなったためオーディオブックを勧めたところ、すっかりに気に入って3年間で374冊を読破したという。ちなみに同社創業者の上田渉会長が学生時代にオトバンクを起業したきっかけも、緑内障で本が読めなくなった祖父のためだったとか。

では初めてオーディオブックを試してみようという人にお勧めの作品はなにか。再びコンシェルジェの羽賀さんに聞いた。

「朗読は『ちびまる子ちゃん』で声優をされたTARAKOさんで、作品世界にぴったり。1編が15分ほどの短尺なので手軽に聞けます」

「朗読はなんと著者の黒柳徹子さん。読み方に緩急があって、聞いていて『ここは書いているときも筆が走ったんだろうなあ』とか、逆に言葉を探しながら読んでいるところがあって、著者の執筆時の息づかいが伝わるよう。年齢性別を問わず、私の激押し作品です」

「ビジネス本、自己啓発本は人気のあるジャンルです。こちらは青年と哲人の会話で進むのですが、まるで2人の討論の場に同席しているように感じられます」

録音30時間越えの大作も人気

さらにオーディオブックならでは、という読み方(聴き方)もある。同社広報の篠田友里さんがお勧めするのが「リベンジ読書」だ。

「むかし読み始めたものの、内容の難しさやボリュームに挫折した本を、オーディオブックで再チャレンジしようという読み方です」

この場合は録音時間が長いものに人気があり、ビジネス本だと『21 Lessons: 21世紀の人類のための21の思考』(ユヴァル・ノア・ハラリ著、河出書房新社、録音時間19時間45分25秒)、小説だと上中下巻で30時間越えの『罪と罰』(ドストエフスキー著、岩波書店)もよく聴かれているという。

内容が難しい本を音で聴いてわかるのかと思うが、「むしろ難しい専門用語やカタカナのら列にとらわれることなく、さっさと内容が進んでいくので要点が頭に入りやすい」(篠田さん)という。

朗読の再生スピードの使い方にもコツがある。同社では等倍速から4倍速まで0.1倍刻みで選択できる。

「小説など声優が朗読しているのは、間の取り方など味があるので等倍速で、ビジネス本のように書かれている情報を取るだけのものは1.2倍とか1.3倍、すでに読んだ本の『おさらい読書』として、4倍速という読み方をするユーザーもいます」(羽賀さん)

ちなみに私が初めて選んだオーディオブックは、中学・高校生のところに読んだ梶井基次郎の『檸檬』。たまたまなのだが、羽賀さんによると中高年のユーザーで、最初に『檸檬』を選ぶ人はけっこういるそうだ。イヤホンを耳に入れてソファに横になり、朗読に耳を傾ける。子どものころの陰鬱な印象とは異なり、文章がリズミカルで現代的に感じたのが意外だった。そして子どもにはピンとこなかった檸檬をそっと書店に置くラスト、初老の今はしみじみとその想いが伝わってくる。歳を重ねて初めてわかる「再会の読書」というべきだろうか。

取材・文/神田憲行

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください