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不倫は人生が終わるほどのことなの? 『窓辺にて』今泉力哉監督の「悪」とされているものへの問いかけ

集英社オンライン / 2022年11月2日 18時1分

『愛がなんだ』(2019)、『街の上で』(2021)などの作品で知られ、「新世代恋愛映画の旗手」と呼ばれてきた今泉力哉監督。稲垣吾郎主演の新作『窓辺にて』(11月4日公開)では、「妻の浮気を知っても怒りが湧かなかった男」を描いた。近作で「浮気」や「不倫」を描き続けているのはなぜか。独特の世界観やセリフの源とは。

フリーライターの市川茂巳(稲垣吾郎)は、編集者の妻・紗衣(中村ゆり)が若手作家と不倫関係にあることを知っても、ショックを受けない自分に戸惑っていた。そんなある日、高校生作家の久保留亜(玉城ティナ)と出会う。留亜と奇妙な交流を重ねる中で、茂巳は自らの心と向き合っていく……。

思いの差が著しい恋を描いた『愛がなんだ』、W不倫の夫婦を描いた『猫は逃げた』など、一筋縄ではいかない恋愛映画で人気を得てきた今泉力哉監督。オリジナル脚本による最新作『窓辺にて』では、妻の浮気にショックを受けない自分に思い悩む男の心の旅を描いた。


妻の浮気を知っても、案外平気かも?

「10年くらい前に、もし自分の奥さんが不倫をしたら、怒りが湧くかどうかと考えたことがあって。きっかけは……何でしょうね。別に、奥さんが浮気しそうとか、そういうことじゃなかったんですけど(笑)。浮気がどうというより、意外と平気でいれちゃうかもと思った自分にショックを受けたんですよ。それって、奥さんを好きじゃないってことなのかなと」

もうひとつ、発想の種になったのは、芸能人や政治家らの不倫のニュース。

「基本、いけないことですが、そんな、人生終わるほどのことなの?と思うくらい、断罪されるじゃないですか。それは、みんなが不倫や浮気を楽しい時間だと想像しているからだと思う。でも本人たちは意外と『やっぱよくないよね』と思ってるかもしれないし、浮気相手の立場からしたら『一緒になりたいけど、なれない』と悩んでいたりするかもしれない。世の中が悪だと決めてかかっていることに疑問を投げかけたいという思いもあって、浮気しながらも楽しい時間じゃない時間を描こうと考えました」

インタビューに応える今泉力哉監督

こうして骨子を考え、「これは40〜50代の夫婦の話になる」と感じた今泉監督。自身が40代に近づいて巡り会ったのが、稲垣吾郎だ。「今泉作品のファン」という稲垣と雑誌の対談などで交流を深め、「稲垣さんも、きっと喜怒哀楽が激しく出る方じゃない。あの話に合う」と思った今泉監督は、10年来温めていた企画を動かした。

普段思っていることがセリフに表れる

「苦しい現場も多い中、ほとんどストレスなく撮れた」という『窓辺にて』の撮影。そのゆるやかな空気が、俳優の自然体の演技を引き出した。稲垣への演出では、ある言葉を多用したという。

「稲垣さんは、俺の作品の温度感をわかってくれていて、大きな芝居をせず、ある種、そのままでいることを意識してくれました。ただ、それでも何カ所か、お芝居が大きくなる瞬間があって。舞台での主演や他の映像作品で求められてきた芝居と私の求めるものはかなり異質ですから、仕方ない部分もあったと思うんです。

それで、『大きいので抑えてください』と言うのも失礼かなと考えていたときに見つけたのが、『またカッコよくなっちゃいましたね』という言葉。言い過ぎて、本意に気づかれてたと思うんですけど(笑)」

自然体の稲垣とともに、味わい深いセリフの数々が印象的だ。茂巳の「理解なんかされないほうがいいことも多いよ。期待とか理解って、ときに残酷だからさ」、タクシー運転手の「パチンコってぜいたく。時も金も同時に失えるんだから」といった、さりげなくも考えさせるセリフは、どのようにして生み出されているのか。

「メモしておいて、これを使おうという感じではなく、書きながら自然に出てきたものです。だから、普段自分が思っていることが出てるんじゃないかな。例えば、うちの奥さんは家事や育児で忙しくて、たぶん『愛がなんだ』も見てない(笑)。

でも、そのくらいの距離感が気楽でいいんです。そういうところから『理解なんかされないほうがいい〜』というセリフが出てきたのかなと思います。『パチンコってぜいたく〜』は、俺が一時期、パチンコにハマってたから(笑)。失い過ぎだろってくらい金も時間も失ったので、その言い訳として書いてたかも(笑)」

なぜ、浮気や不倫を描くのか

2022年2月公開の脚本参加作『愛なのに』(城定秀夫監督)、3月公開の監督作『猫は逃げた』、そして新作の『窓辺にて』と立て続けに浮気や不倫を描いた今泉監督。彼の中で今、浮気がブームなのか。

「ブームってわけじゃないし、別に不倫願望があるとかでもないです(笑)。そもそも初期から『浮気がバレてモメる』というストーリーはよくやってたんですよ。そして『サッドティー』(2013)あたりから、モメる時期はすでに過ぎ去って、喧嘩にもならないという温度を下げた恋愛を描くように。その流れのひとつとして、不倫を題材にしたものが続いているのかなと思います。あとはやっぱり、明確に『悪』とされているものに対して、疑問を呈することに興味があるんでしょうね」

アイデアソースになっているのが、恋愛相談だ。

「俺、TwitterにGmailのアドレスを書いてるから、まったく知らない人からメールで恋愛相談が来るんです。DM(ダイレクトメール)も解放してますし。その中で、危なくないとわかった人とは、会って直接話を聞いたりしていて。

そうすると、何でそんな人を好きになっちゃったの?とか、俺の映画よりひどい目に遭っているみたいな話を聞いて、もうやめて!とか思うことがいっぱいあって(笑)。人の恋愛の話を聞くと、おもしろいと思うことがたくさんありますね。ひとりの人生ではとても経験できないような。

例えば、妻子ある男性と不倫している女性に、『相手の奥さんや子どもに悪いという感覚はないの?』と聞いたとき、『悪いとはいっさい思わない。でも、好きな相手が嫌な気持ちになるんだったら、やめたほうがいいかなと思う』と言われて。それ、どういう思考になってるの?と(笑)。彼女の中にある正義や正解が、俺がひとりで考えてもたどり着くことのできない思考で面白いと思いました」

今年、『永峰中村飯塚』(桂木友椰監督)という自主映画を見て、「『他人ってさ、面白いよ』というセリフがあって、それにグッと来て。あれは俺が書きたかった」と笑う今泉監督。今後も、「人間って面白い」と感じられる、一筋縄ではいかない作品で楽しませてくれそうだ。

取材・文/泊 貴洋
撮影/柳岡創平
場面写真/©︎2022「窓辺にて」製作委員会

『窓辺にて』(2022)
監督・脚本/今泉力哉
出演/稲垣吾郎、中村ゆり、玉城ティナ、若葉竜也、志田未来、倉悠貴、穂志もえか、佐々木詩音 ほか
配給/東京テアトル

フリーライターの市川茂巳(稲垣吾郎)は、編集者である妻・紗衣(中村ゆり)が若手小説家と不倫していることを知っていたが、それを妻に言えずにいた。ある日、とある文学賞の授賞式で出会った高校生作家・久保留亜(玉城ティナ)の受賞作に惹かれた市川は、留亜と小説のモデルに会いに行く……。

11月4日(金)全国公開
公式HPはこちら

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