1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. ライフ
  4. ライフ総合

めったに人は襲わない、寿命500年、人工子宮で育成…沖縄美ら海水族館に聞いた知られざるサメの生態

集英社オンライン / 2022年11月8日 16時1分

沖縄美ら海水族館でサメ・エイ類について研究をしている佐藤圭一さん。サメの生態は明らかにされていないことばかりだが、近年、佐藤さんを中心とした沖縄美ら海水族館の研究チームから、サメに関する新発見が次々と発表されている。「サメ博士」である佐藤さんに、最先端のサメ研究について伺った。

戦国時代から生きているサメも

––「サメ研究」の最先端で活動されている佐藤さんですが、沖縄美ら海水族館では普段どのような研究をしているのでしょうか。

基本的には、サメを飼育しているからこそできる研究や長期的なスパンの研究を重点的に行っています。
たとえば、沖縄美ら海水族館ではオスのジンベエザメ「ジンタ」を27年にわたって飼育していて、その血液を毎月採取し続けています。そして、飼育開始から17年目の2012年に、初めて血液データから成熟の兆候を確認したんです。


わかりやすく言えば、交尾をして子どもをつくれる体になったということですね。2012年時点でジンタは25〜30歳くらい。これまでジンベエザメは何年くらいで成熟にいたるのかわかっていなかったのですが、長期間の飼育によって実証できました。

沖縄美ら島財団総合研究センター・動物研究室・上席研究員および沖縄美ら海水族館・統括を兼務する佐藤圭一(さとう・けいいち)さん。軟骨魚類の比較解剖学・分類学・繁殖生態学などを中心に、幅広くサメ・エイ類の調査研究を行っている。共著に『寝てもサメても 深層サメ学』『沖縄美ら海水族館はなぜ役に立たない研究をするのか?』がある(写真提供/国営沖縄記念公園(海洋博公園):沖縄美ら海水族館)

––30歳で成熟するというと、人間よりも遅いのですね。

そうなんです。このことからもわかるように、サメは人間よりも寿命が長い。サメの中でも、私の専門である深海のサメは長生きするものが多いですね。低水温で餌が比較的少ない深海の環境が影響していると考えられます。
ニシオンデンザメという深海性のサメは、寿命が300〜500年程度だと推定されています。織田信長が生きていた時代に生まれた個体が今も生きている可能性がある、ということですね。

––戦国時代から生きているサメがいるとは! ここまでで「ジンベエザメ」や「ニシオンデンザメ」といったサメが出てきましたが、現在サメは世界で何種類確認されているのでしょうか。

だいたい550種類くらいです。「だいたい」というのは、日ごとに数が変わるからです。
現生のサメは大きく2つのグループに分けられて、一つがネズミザメ上目、もう一つがツノザメ上目といいます。ネズミザメ上目にはジンベエザメやホホジロザメなど、皆さんがサメと聞いてイメージするサメが属しています。
ツノザメ上目に属するサメはかなり地味で、一般にはほとんど知られていません。中には、サイズでいうとペンくらいの大きさの小さなサメもいます。

––それは見てもサメだとわからなそうです…。それでもサメだと分類される理由があるんですよね?

はい、立派なサメです。現生種に限って言うと、エラの穴が5つ、全身が鮫肌で覆われている、軟骨質の骨格でできている、脊椎骨が尾びれの端まで延びているなどの特徴があるものは、サメとされています。

沖縄美ら海水族館で27年間飼育されているジンベエザメのジンタ(写真提供/国営沖縄記念公園(海洋博公園):沖縄美ら海水族館)

ダイバーよりもサーファーが襲われやすい?

––日本近海には何種類のサメが生息しているのでしょうか。

約100種類以上はいると思います。ただ、その半分以上が深海の種類なので、沿岸で見ることはないでしょう。そもそも沿岸まで寄ってくるサメはそれほど多くはないんです。シュモクザメ、いわゆるハンマーヘッドシャークの小さいものや小型のサメが沿岸に出没することはあるでしょう。
あとこれは稀なケースですが、ホホジロザメが東京湾の川崎港で見つかったこともあります。

––なんと! ホホジロザメといえば、映画『ジョーズ』で人を襲っていたサメですよね。

はい。ただ、映画作品の影響で人喰いザメのイメージを持たれているのですが、人間を襲うことはほとんどないんですよ。このことは、フロリダ大学でサメ研究をしている海洋生物学者ギャビン・ネイラー氏が、Webサイト「International Shark Attack File」をまとめています。
それによると、2020年から2021年にかけてのシャークアタック、つまりサメから人への攻撃件数は126件です。死亡例となると9件しかない。日本では1件もありません。
海でサメに襲われる確率は非常に低いので、むしろ海に行くまでの交通事故に気をつけたほうがいいですね。

サメによる国際的な被害情報をまとめたデータベース「International Shark Attack File」

––そちらのほうが確率的には高い、と(笑)。

基本的にサメが襲うのは死んでしまったり、弱ったりして海に浮かんでいる生き物なんです。ホホジロザメはたしかにアザラシやアシカなどの大きな哺乳類を捕食しますが、そもそも個体数が少ない。日本では年間で数匹捕獲されるかどうか、というくらいですから。
私もできればどこかで出会いたいと思って、船でいろいろな海に出ていますが、ホホジロザメに会ったことは一度もないです(笑)。

––ホホジロザメはどんなところにいるのでしょうか。

日本の近海だと、夏場は北海道あたりの水温が低い海にいると思います。なので、ビーチリゾートでバカンスしている人をホホジロザメが襲う、みたいなことは実際にはありえないですね。
あとビーチでバカンスしている人よりも、サーフィンのほうが危ないです。何をしているときにサメに襲われたかというデータで、一番多いのがサーフィンをしているときなんですよ。

––サーファーは襲われやすいんですね。

サーフボードの上に腹ばいになってパドリングしている状態が、死んだり弱ったりして海に浮かんでいる生き物に見えるのでしょう。あと、サーフィンをやっているときに海中はそんなに見ないですよね。だからサメの接近に気づきにくい。
一方、ダイビング中に襲われるケースってほとんどないんです。ダイビングは基本複数人で潜りますし、慣れているインストラクターはサメの接近にも注意を払っている。遠くにいる状態でサメを見つけられたら、ほとんど危険はありません。

––万が一、海でサメがすぐ目の前にいたらどうしたらいいのでしょうか。


襲われたら、頭部を殴ったり蹴ったりして撃退するしかないでしょう。
反撃は、本当に最後の手段ですが。

––では、クマに遭遇した場合で言われるように「死んだふり」をするのはよくないんですね。

死んだふりして浮かんでいたら、むしろサメに襲われやすくなります(笑)。絶対にやめてください。

スティーヴン・スピルバーグ監督の大ヒット映画『ジョーズ』のモデルにもなったホホジロザメ。過去には東京湾の川崎港で発見された例もある

発光する深海サメを人工子宮で育成

––近年のサメに関する研究成果には、どのようなものがありますか?

いろいろありますが、大きい成果でいうと、独自に開発したサメの人工子宮装置を使って、深海性の発光するサメ「ヒレタカフジクジラ」の胎仔を育成し、人為的な出産に成功したことです。生まれた個体は現在も飼育しています。
ヒレカタフジクジラはこれまで長期的に飼育されたことがない種類のサメで、沖縄美ら海水族館が初めてそれに挑戦しています。

––発光するサメがいるんですか!?

我々が深海に沈めたカメラで、世界で初めて光っている姿の撮影に成功しました。こちらは動画をYouTubeに公開しています。
このヒレタカフジクジラはまだ沖縄美ら海水族館で一般公開していないのですが、いずれしたいと思っています。現在、水槽の形状や、展示室の照明をどうするかといったことについて試行錯誤中です。

沖縄美ら海水族館では、世界で初めて人工子宮装置を使って「ヒレタカフジクジラ」の胎仔育成に成功した(写真提供/国営沖縄記念公園(海洋博公園):沖縄美ら海水族館)

––深海くらい真っ暗だと、来場者は何も見えないですもんね。

そうなんです。だから、サメに影響がない波長の照明や、暗視カメラを使うなどの方法を考えています。
あとは、飼育しているジンベエザメの繁殖の研究は今後も取り組みたいですね。成熟したジンベエザメのオスとメスは別のところを回遊していて、接触するのは繁殖のときだけ、ということがわかってきました。
これまで、沖縄美ら海水族館ではオスとメスのジンベエザメを同じ水槽で飼育していたのですが、今後は別の水槽で飼育したほうがいいと考えています。メスのジンベエザメが2021年6月に死亡してしまったので、今後メスを飼うとしたら、これまでとは違う方法で繁殖を目指したいと思っています。

––日本国内で最も長く飼育されたメスのジンベエザメだったんですよね。残念です。

この個体は、野外での事故により頭部に障害を負っていたことが剖検でわかりました。このメスはおそらく、野外であればここまで長くは生きられなかったでしょう。結果として、私たちの挑戦は一度足踏みとなってしまいますが、長い時間がかかっても飼育下での繁殖は実現させたいと思っています。
もちろん、機会を待つだけではなく、サメの人工授精の技術も少しずつ進んできたので、ジンタから精子を採取して、別の場所で飼われているメスと受精させることも考えています。さて、私が生きている間に可能になるかどうか…。

––サメが長寿なだけあって、研究も長期スパンですね…!

いつ実現するかはわかりませんが、私たちの次の代にもつながるための研究は続けていきます。いつどこでチャンスがあるかわかりませんからね。


取材・文/崎谷実穂

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください